第2話 「そうなんだぁ〜。」

部活見学から帰る途中、死にものぐるいで走る女子生徒達を見かけた。あまりの形相と気迫に僕は道を譲った


「すげぇ〜人数いるな。」


その子達が通り過ぎるまで、しばらく僕は道端で眺めていた。


「あれ?。」


集団が通り過ぎてから動き出した僕の目には昨日ぶつかった小柄できゃしゃな女の子の走る姿が映った。


これまた必死の形相だ。


「へぇ〜。あんなにきゃしゃな子でも運動部なのかぁ〜。」


女の子は汗だくでフォームはメチャクチャ。

僕と同じ匂いがした


「きっと彼女も運痴だ!。」


(まぁ〜、どうでも良い事か。)


「さっ、帰んべ。」


その日の夜、晩飯を食べ終えた僕はいつも通り部屋にこもり


「今日はDAYSでも読むか。」


途中の巻から適当に取り、読み始める。これも僕の習慣


最初から読むとかはしない。ただ途中から読み始める。そして最終話まで読み切る。


僕はマンガオタクにかわりないが実はスポーツマンガ専門なのだ


DAYSは平凡な少年がサッカーに出会い学生生活が大きく変わる物語


「いやぁ〜さすがにひたむきなだけでこんなに上手く行くもんかねぇ〜。」


「キャプテンつえ〜。」


マンガを読みながらの独り言も日課になっていた。


「パパ〜!ママ〜!お兄ちゃんがまた部屋で独り言言ってるよ〜。」


「メグミ。ほっときなさい。」


愛(めぐみ)は4つ下の妹だ。愛情の愛と書いて愛(めぐみ)


田村正和ファンだった爺ちゃんが昔のドラマからつけたらしい。


0:00を回った頃にDAYSを読み終わった僕は、いつも通り妄想に入る


マンガには必ず主役やライバル、超天才的なキャラが存在する。僕は毎回超天才キャラになりながら頭の中でマンガを読み直す。


これが最高に気持ち良かったりする。僕の性格とは真逆の人間になる。この時だけは


次の日の朝


妄想で夜更かしをし過ぎた僕は小走りで学校へ向かっていた


「やっべっ!間に合うかなぁ〜。」


校門のとこで同じく正面から小走りで走ってくる彼女と出くわした。


「あっ!。」


彼女は僕に気付き


「あっ!おはよぉ〜。」


と、小走りしながら声を掛けて来た。


「おっ、おはよぉ〜!。」


僕もとっさに挨拶を返した。


校門をくぐった時点で歩き始める2人


「君、走るフォームめちゃくちゃキレイだね!。何か運動やってるの?。」


初めて身体を動かす事を褒められた僕は返答に困った


「いや。昔から運動は苦手で・・・。」


彼女は僕の足の先から頭の先を見て


「もったいないねぇ〜。」


と言った。


デカいだけの僕にそんな事を言う人は、けんちゃん以外で初めてだった


「私なんて小さいだけで色々苦労してる側の人間だから。」


「そうなんだ?」


(そっかー。デカいだけってのも大変だけど小さいって言うのもまた大変なんだな。)


「あっ!そうだ!自己紹介がまだだったね。私は2年の加藤美和。君は?」


「僕は一年の大泉幸太郎です。」


「コータロー君かぁ〜。よろしくね。」


「そう言えば昨日走ってるところを見かけたんですけど、あれは部活ですか?。」


彼女は少し恥ずかしそうに笑いながら


「あれみられちゃったんだ。走り方変だったでしょ?。私バスケ部なんだよね。」


「バスケ部ですか・・・。」


(こんなに小さいのにバスケやってるんだ?)


少し間が空いて


「あ〜っ!!今、こんなチビにバスケなんて出来るのかねぇ〜って思ったでしょ?!。」


頭の中を見透かされた様で、僕は一瞬だじろいだ。


そんな僕のリアクションに、彼女は


「冗談、冗談。」


と笑って見せた。そして彼女から


「コータロー君はバスケ好き?。」


と言う質問が不意に飛んできた。


「バ・バ・バスケですか?。」


しどろもどろに僕は返した。


「そう!私は小学生のころからずっとやってるんだよね!。」


その質問に僕は、


「スラムダンク、ディアボーイズ、黒子のバスケ、あひるの空が好きですね!。」


とオタク満載の返答をしてしまった。


彼女は瞬時に大笑いしながら


「あははははぁ〜。私もスラムダンク大好き〜。超面白いよね!。」


と、言った。


さらに予想外の返答が返ってきて戸惑う僕に彼女は笑い涙をにじませながら


「コータロー君はバスケやらないの?。そんなにおっきーのに。」


と、言い、


僕は、その問いに対して


「ぼ、ぼ、僕は運動音痴なので。」


と、返した。


僕がそう言うと、彼女は僕の身体を舐め回すように見ながら、


「へぇ〜そうなんだ〜。」


と言った。


校舎に入る所で別々の下駄箱に向かう2人


別れ際に


「今日良かったらバスケ部の練習を観に来ない?放課後体育館でやってるから。」


と、僕をバスケ部の見学に誘った。


急な誘いに僕がとっさに出した答えは


「分かりました。」


だった。


今思えば理由は単純で、可愛らしい彼女の誘いを断るなんて男として出来なかっただけだった。




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