一日目(5)
「あ、そっか。スマホと砂時計しかなかったっけ」
ポケットから取り出したスマートフォンをポケットへ戻しかけ、俺はふと手を止めた。
「そういえば……このスマホは使えるのかな」
何となく気になった俺はスマートフォンを目の前に持ってくると電源ボタンを長押しした。
すると真っ暗な画面が白くなり、一分もせずに待ち受け画面が現れた。どうやら使えるらしい。
「……あれ?」
スマートフォンの画面を見つめる。
待ち受けは最近撮った青空の写真で、夏の象徴でもある入道雲も写っていた。……まあ、それはいいとして。
「赤くない……」
そう。“画面が赤くない”のだ。
プラットホームも駅内もまるで目の上から薄いセロハンでも貼られたかのように真っ赤に染まっているというのに、何故かスマホの画面はそのままの色なのである。
「どうなっているんだ?」
まったく訳が分からないまま、今度は画面に映る時刻を見た。
「七月三十日十一時二十七分? 今日は確か七月二日のはずじゃ」
そこで俺はハッとした。
『もしかしてスマホは“この世界”の日付を表示しているのかもしれない』と。
「まあ、断定は出来ないけど否定も出来ないからな」
俺はそれ以上深く考えず、メモ代わりにスマートフォンのカメラを起動させるとポスターを撮った。
これが何かの役に立てばいいけど。
「よし、切符売り場を調べるか」
掲示板から離れて次は切符売り場をくまなく調べてみる。何かの手がかりになりそうな物はなかった。
そして切符売り場の隣にある駅員室は空っぽで枯葉や埃しかない。ここには何もなさそうだ。
「次は……」
ちら、と奥のトイレを見る。
相変わらずトイレは薄暗いままで気味が悪く、スマートフォンの明かりではきっと光量が足りない。
まあ、怖くてなかなか一歩が踏み出せないのもあるけど。
「……。ロッカーにしよう」
一分ほど薄暗トイレとにらめっこした後、俺は背を向けた。
スマートフォンの光量だけで何か出てきそうなあのトイレ内を調べられるほど俺は勇敢じゃない。
あーもう、こんなんだから同期や先輩に『チキンハート
しかもチキンハート澤木って……俺は芸人かよ。
俺はため息をつき、切符売り場から数mほど離れたロッカーへと移動した。
ロッカーのすぐ脇には緑色の公衆電話が備え付けられていて、灰色の埃をかぶっている。
電話には錆や傷もなく、配線もコンセントに繋がっているから今でも使えそうな感じだ。
「おっ?」
公衆電話から右に顔を向けると埃だらけのロッカー上で一瞬何かが輝いた。
埃に埋もれているためにそれが何かは分からないが、何かあることは間違いない。
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