一日目(4)

だとしたら俺はあの時に転生しちゃった感じ?見た限り変わってないけど実は能力持ち?顔がイケメンとか?


 壊れたこの世界を俺の力で取り戻せ! みたいな!?


「鏡どこだ鏡!」

 気になった俺は駅内を歩き回り、鏡代わりのプレートを見つけた。ドキドキしながらプレートの前へ立つ。


「こ、これは……!」


 赤色が入っていても金属のプレートには自分の姿がハッキリと映った。

 紺色のスーツに青のシャツ、グレーのネクタイを纏ったイケメンな俺の姿──


「って一ミリも変わってないやないかーい!」


 プレート相手に鋭いツッコミを入れる。

 誰もいない駅内に声だけが響いて、何だか泣きたい気分になった。

 頼む、誰か俺の頭を叩いてくれ……


 逃げる勢いでプレートから離れた俺は頭の中から『イケメンになっている』という選択肢を消した。

 どうせなら能力持ちのイケメンになりたかったな。


「じゃあ能力持ちか? ならば──いでよッ! 全てを焼き尽くす紅蓮の炎龍!」


 適当に考えたポーズとともに最高の笑顔で待ち椅子の方へ腕を伸ばす。

 ところが、炎龍はおろか火花すら出る気配もない。他の属性を試して見ても虚しい声が響くだけだ。


「イタい……これはイタすぎる………!」


 思いつく属性を全て言い終えた瞬間、頭を抱えてその場にしゃがみ込む。

 周りに人がいなくて本当によかった。こんなこともう二度としない、約束する。

 今度は頭の中から『能力持ち』の選択肢も消した。


 結局、異世界でも俺は平凡なサラリーマンらしい。

 ……ここが異世界だろうが死後の世界だろうが、もうどうでもいいや。


 脳内から余計なことを追い出し、頭を切り替えた俺は情報や手がかりを探す。

 まずは切符売り場からだ。


「ん?」


 何かありそうな切符売り場へ近づくと視界の隅に数枚のポスターが入り込み、すぐに足を止めた。

「これ、この町のポスターみたいだな」

 切符売り場付近の掲示板に貼られたどのポスターも一部が剥がれたり破けていたりしている。

 それでも大部分は残っていて、それが何のポスターかは一目瞭然だった。


「振り込め詐欺撲滅、フリーマーケット、夏江田川わいわい祭り……あ、花火大会のことか」


 花火大会のポスターにはでかでかと日付が書かれているのだが、何日の部分が破けていて『七月』しか分からなかった。

 つまりこの世界は七月か七月に何かがあったということになる。


「死後の世界に季節なんてあるのか。もしくは夢?」


 でも俺は確かに新本寄駅のホームで砂時計を落として強い衝撃を食らった感覚がある。

 仕事したことも、この砂時計を買ったことも覚えている。


 それにポケットには砂時計やスマートフォンが入っていた。ここまでリアルな夢なんて見たことがない。


「……いや、今はそんなことを考えるより調べる方が先だ」


 軽く頭を振った俺はメモをしようとポケットをまさぐる。

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