零日目(3)
しかし、大好きな母親はある日を境に少しずつ変わっていった。
最初は「友達とお話に行くから」と休みの日に外へ出ていき、夕方頃に帰ってくる。それぐらいだった。
それが段々と夜遅くになり、次は翌朝、ついには二日三日を通り越して一週間、一ヶ月帰ってこない日もあった。
普通ならば餓死してもおかしくないが、母親は家を出る時、必ずキッチンのテーブルに現金入りの封筒を置いていた。
そういえば、家を空ける期間によって金額も違うから、いつも封筒の厚さで母親がいつ頃帰ってくるか予想していたっけ。
そして俺は余分な物を買わず、必要最低限の物だけを買って自分なりに家事をした。
おそらく家事が得意になったのはこの生活のおかげだろう。
……そりゃそうか。自分が動かなければただ飢えて死んでいくだけなのだから。
やがて十五歳になった俺は高校進学のために猛勉強し、特待生としてそこそこ有名な進学校へ入学した。入学式に母親は来なかったけれど。
それどころか母親はほとんど帰ってこなくなり、テーブルの封筒も空のまま。
最終的に入学して半年後、俺の誕生日に母親は荷物を持って出ていった。
テーブルの封筒はぐしゃぐしゃに握り潰されていた。
母親が出て行ってからしばらくは貯金を切り崩して生活をしていたけれど、貯金はあっという間に底をついた。
生活が徐々に苦しくなった俺は母親が出ていった二ヶ月後に高校を中退してバイト付けの日々を送った
でも俺は母親を恨んでなんかいない。むしろ喜びを感じている。
母親は父親が亡くなってから朝も夜も働いて必死に俺を育ててくれた。だから俺はここにいるんだ。
どんな形でも母親が、母さんが幸せで笑っているのなら俺も嬉しい。
なあ母さん。俺はもう一人で生きていけるから母さんも必死にならず、好きなように生きられるよ。
今まで、ありがとう。
ん?……あれ、おかしいな。
急に体が、軽くなった気がする──
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