プロローグ011
だからなのだろうか?
あまりにもそういうのが楽しすぎたのか、油断をしてしまったのか……。
ピキピキと岩が軋む音が響くも、それは俺たち二人の耳には入っていなかった。
だから……。
正直この時のことは、最も俺が転生して以来最も後悔している事。
「期待してるぞ」
ぐりぐりと頭を回され笑いあうその時だった。
「―――っ!?」
何が起きたのか分からなかった。
頭をそのまま握られて飛ばされたのか、突き飛ばされたのか。蹴り飛ばされたのか。
分からない。分からないが、とにかく俺の体は重力を無視して宙に浮いたんだ。
浮いて。
「フンッ!!」
「いって……。はっ!?ジンさん!!」
俺が地面に倒れた瞬間。振り下ろされたクレイゴーレムの巨大な拳をジンさんは総身で受け止めていた。
歩くだけでも限界のハズなのに。それでも必死に。俺を庇って。
「ぬぐうっ……」
受け止めていたがそれも数秒のこと、ジリジリと押され力ずくに、強引に振り払われた拳は抑えるジンさんを引きずるようにして、近くの木へと押し当てられた。
ジンさんと共に振り入れられた拳によって本来ありえない位置からへし折れる大木。バラバラと倒れて土煙と上げて瓦礫のように積み上がり静止すると。クレイゴーレムは木々に埋もれた腕を抜く。
無論。そこに巻き込まれたジンさんは木々に埋もれ姿はない。
「ジンさん!!」
慌てて立ち上がり木の中を確認すると、そこにあるのは全身から血を流し倒れ意識の無いジンさん。
その姿はどう見ても無事ではなく、生きているかどうかすら疑わしい。
駆け寄ろうと慌てて一歩踏み出すも、同時にクレイゴーレムがこちらを向きとっさに足を止め。
おい……嘘だろ?
なぜ?どうして……。
エクスプロージョンの一撃で明らかに頭部は吹き飛んでいる。
首はない。
であれど、動いている。元々首などなかったと言わんばかりに、ダメージを感じさせず。クレイゴーレムはこうして目の前に立ちはだかっている。
やられる。
直観的にそう感じた。
本来なら魔法を放ち防ぐことも可能だっただろう。
けれども、ジンさんがやられたショックと、倒したハズのクレイゴーレムが動いているという事実に気が動転して判断が遅れた。
振り下ろされる豪拳。
目の前にするそれは子供の俺には天体の墜落と言ってもいい。自分の全てを飲み込むような、自分なんかちっぽけに思えるぐらい巨大な拳が視界の全てをぬりつぶして……。
死を覚悟したその時。
今度は視界を真白が覆った。
瞬間――。
ピリピリッ。
雷が鉄を伝う亀裂音と共に真白は純白の稲妻迸して。
「―――っ!?」
雷鳴届かせ天へと一本の白い落雷を落とした。
空を引き裂いて破るように伸び落ちる雷は天へと吸い込まれて、気づいた時には白が消え当たりが戻っていた。
そして――そこに壁の如く立っていたクレイゴーレムの姿はない。
砕け、バラバラと岩の破片が転がっているだけだ。
そこに、人型をした巨体なクレイゴーレムはいなくなっていた。
あるのは。
「阿呆が、撃ち損じた敵に首根をかかれてどうする?」
「母さん……」
罵倒。
真っ黒なローブの作ったポケットに手を突っ込み、冷たく見下すいつもの般若。
正直それは恐れ入るものであるが、この時ばかりは心底安心し全身の力が抜けた。
ああ。これが腰を抜かすということか。
俺は気づけば膝をつき、泣いていた。
流れる涙は悲しさからか嬉しさからか。
「俺は……」
いいや違う。
「まあ、一度でも仕留めたのだから貴様のその魔剣の研究は無駄では無かったというわけか……。80点だ」
満点に満たないその採点が悔しい。
そう――俺は悔しかった。
数週間かけて打ち上げたエクスプロージョンで仕留めきれなかったこと。
クレイゴーレムがそもそも撃ち損じていたことに気づかなかったこと。
ジンさんがそのせいでやられたこと。
その他もろもろ。
俺はなにも中途半端にやり切れず、こうして失敗に失敗を重ね自身に落ちた事が悔しかった。
「そう悔やむな。褒めているのだぞ?」
「あ……」
泣いている場合じゃない。そうだ!!。
悔やみも一瞬にして振り飛ばし、立ち上がり母へと声を上げる。
「ジンさんを!!ジンさんを助けて!!」
縋りつくように、立ち上がり飛びだし母へと飛びついてローブを握り引いて願い被る。
「そう騒ぐな、人間はあの程度では死なん」
そう言って、そう言って俺を振り払い何事もないように歩いていく母。
そうして血まみれで倒れるジンさんの元へ行き。
「フンッ……肋、大腿、顎に足は両足第1第2と骨は折れに折れているが、腕は無事とは、さすがは剣士というとこか。まあそれでも足がこれでは剣士はもう無理だろうが」
冷静に倒れるジンさんの横に膝をついて、見ただけでその状態を検診する。
賢者といわれているのは伊達ではなく、それらをたいして重傷とは思っていない様子。
「ホントか!?」
その言葉の意味も深く考えず俺は喜んで。
驚き喜ぶ俺を無視して呪文を唱えて治癒魔法でジンさんの傷を癒していく。
それは頭、胴、両腕、両足、ジンさんの体前進を包むように輝く蒼白い光は、手を差し出しように開いた右手をジンさんの胸に当て て呟くように呪文を呟く母であるユグドラシルの手から輝き出て。
その光はジンさんの傷を癒していく。
骨はもちろん細胞の一片まで折れて砕けた骨はもちろん、裂けて弾けた肉の皮膚一枚残さず。それらを時間を戻すかのように修復し癒していく。
奇跡の業というのはこの事なのか。
初めて見た治癒魔法の奔流。
なにも今まで治癒魔法を見た訳ではない。
ユリアや俺がケガをした時にも使い傷をいやしてくれた。けれど、今見ているそんなちんけなものではない。
奇跡。そう言わざるおえないほどにジンさんは明らかに重傷であるにも関わらず、傷のそれらを時を戻すかのように癒していった。
そうして俺がソレに見とれいると、その治療が終わり。
「終わったぞ。まったく――老体の身の程でよく我が子を守ってくれた」
「いや……お前が来なければ危なかった」
「いいや。人のみの分際でよくやったものだ。どうだ?ウチの息子は?」
「ははっ、賢者にそこまでいわれりゃ体を張ったかいもあったってもんだ。……そうだな。小僧」
意識を持っているジンさんに呼ばれ、俺は合われてジンさんの横へと滑りこむように飛び込んで、膝がすりむけの木にも留めず膝を着ける。
「ジン……さん……」
つむぐ声は切れ切れで、鳴き声を聞いたジンさんは俺に優しく微笑む。そうして――。
「言ったろう。こいつぁいい鍛冶師になる。剣士にするなんてもったいない。いや……剣士なんておまけだろう。だろう?」
その言葉の意味は分からなかった。
事実、間違いなく剣士にはなりたかったし、それであるのにエルフで魔法賢者の息子という立ち位置を悔やんでいた。
であるのに。
「え?」
「バカが、見てりゃわかるよ」
剣士であるがゆえに、俺の真髄を見ていたのか。
俺の頭にゆっくりを重々しくも手をポンと乗っけて。
「見てりゃ分かるよ。ただの剣には興味ねぇ。自分で打った魔剣を使ったお前をちらっと見ただけだが、今まで一番たのしそうだったじゃねぇか。楽しかったんだろ?失敗作と言ってもそれが寸分でも可能性を見出した事が」
「それは……」
確かにそうだ。事実、俺は楽しかった。剣を打つことも。それが魔剣としてしっかり形を成した事。
正直、剣術よりもジンさんよりも剣を交えているよりも楽しかった。
それは確かで。
砕けたエクスプロージョンであれど、一度でも魔剣として機能したのだから、それが嬉しくたまらなかった。
だから。
「剣を打て。そしてその剣で目指せ。この世で最も強い鍛冶師を……!!」
苦しくもうめくような声で、俺の心へと響かせる。声は凄く小量なものだったかもしれない。
けれども、それは俺はしっかりと聞きとれて。
「はい!!」
涙ながらに、俺は死に体に全身全霊、その命を灯に対して。
「はい……」
手を握って、手向けとして捧げるように。
剣の師へと捧げた。
はなむけとなれ。俺はアンタの思いを超える鍛冶師になる。そう心から決意して。
魔剣――それを完成させて、俺は誰よりも、どんな人よりも強い。いいや――すばらしい剣士になるから。
最初はただ、特殊な剣を使い冒険をしたかっただけだった。
異世界というトリップに巻かれて酔い狂ったように世界に楽しんで。
けれど――そうじゃない。
優遇された転生なんてそんなこと。関係ない。
この時、俺は自分自身求めていたことがはっきりとした。
「俺は、魔剣を打つ鍛冶師になります」
それを訊いて母であるユグドラシルが嫌な顔をしているのは見なくても予想がつく。
彼女は俺を跡取りとして育ているのだから、その理由は分からないがそれに重要視を置いている。
けれど、それでも決意を改めるように。親身10才でありならとこの世界のモノには思われるかもしれない。がそこは俺は転生しているという優位点を置いて。
「おう」
俺の決意と答えを訊いて、安心したのかジンさんは安らかに瞳を閉じて意識を夢現へと落としていった。
だから。目指す。目指す。
鍛冶師を。
誰よりも腕もよく。
この世界で唯一魔剣を打つ魔法鍛冶師として。
ゆえに――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます