プロローグ012
「よし」
夜明け前、自室で荷物を茶色い袋へとまとめ俺は旅に出る準備を完了した。
あの事件から6年の月日が流れた。
早くにでも旅に出て見たかったが、世界は魔物はびこる異世界。山育ちでこの世界の常識をあまりしならなかった俺が旅をするにはあまりにも危険であった。
だからこそ、俺はここ6年で自分は自分で守れるように鍛錬を積んだ。
母であるユグドラシルの魔法の修行はもちろん。
ジンさんがケガをして俺の相手をできなくなっても剣の修行は続け、サバイバルについても。
もちろん、鍛冶もだ。
あらゆる分野に置いて学び、未知の世界で旅をするには十分過ぎるぐらいには準備を積んだ。
さあ行こう――。
旅立ちの時は来た。
俺は俺の世界一の鍛冶師になるという夢を叶えるため。
独学では補えない境地へと鍛冶の腕が至ったため、ぶち当たった壁を破るため。
目指すは鍛冶の街、ルーレシア王国へと。まずは鍛冶を学びに行く。
それが旅の第一歩。
俺は真っすぐな鞘に納められた魔剣を剣士の如く腰へ身に着け。
詰めた荷の袋を背に担いで、2階の自室を出て階段を静かに降りる。
時刻はまだ夜明け前。
無論、家族には黙っていくつもりだ。
母であるユグドラシルはもちろん。妹のユリアにバレてしまえば泣いて止められてしまうかもしれないから。
あの泣き虫には正直、頭が上がらない。泣いて頼まれればどうしてもことわり切れない。
ゆえにこうしてこっそりと出てゆく。
まあ、急にいなくなってしまえば心配でもされるだろうから置手紙ぐらいは残すが……。
そうして、俺は音も立てずに階段を一階に降りた時だった。
「行くのだな」
「―――!?」
階段を下りた先、生活スペースの長机に座っていた母は俺を待っていたと言わんばかりに立ち上がり俺へと立ちはだかった。
いつものようにコートのようなローブにあいたポケットへ手を突っ込んで。
軍人の指揮官のように窮屈で屈強な立ち振る舞いで。
16年たってもエルフゆえに見た目は変わらない美形のは鋭く俺を睨む。
「貴様の行動ぐらいお見通しだ。育てたのはワタシだぞ?それぐらいは把握できる」
淡々という母は当然のことだというように。いや――当然だ。母なのだから。
この世界では母だ。
ならば一番俺を見て来て、俺を一番心配してきたのだから。
強く厳しくするのはその表れ、長年俺もこの人の子供をしてきたが、どうもこの人は人づきあいは苦手のようだ。
こういう性格だからというのもあるが、そもそもが他人というのを嫌っている。
それでも俺たちを育ててきたのは。
「悪いが、俺はアンタの後は継がない」
跡継ぎ。
前々聞かされてきたソレは賢者としての跡継ぎの為。
彼女はその跡継ぎを過保護に思っている。
この人の心配は自分の跡継ぎの事で、俺自体の心配ではない。
だからこうして邪魔をする。
事実俺が鍛冶や剣をしている時はいつも怪訝な顔を浮かべていた。
旅に出る前に、こうして立ちはだかるというのなら、ぶん殴ってでも超えていかなければならない。
そうして、俺が構えた時だった。
「阿呆が。――ほら」
不意に机に置いてあった布袋を、母は構える俺へと放り投げてきた。
「なっ!?」
それを俺は片手で受け止めて、ズシリと重みが生じ、何か瓶のようなモノとじゃらりと細かな金属が複数入っている感触がする。
「持って行け。ワタシが調合したポーションと少ないが旅費だ」
そういう母は俺を邪魔する気概など見えなかった。
むしろ、俺を送り出すような。
「どうして……。アンタは俺を跡継ぎにしたいんじゃないんじゃないのか……?」
そうだ。その為に色々教えてきたのではないのか。
「自惚れるなよ阿呆。そんなものキサマに魔法を教える建前にしかすぎん。第一、キサマにそんな資格があるとでも?剣や鍛冶そういったものに現を抜かす半端物に、ワタシの代わりなど務まらん。
行きたいのだろう?ああ――そんなもの分かっているさ。キサマを最初に見つけた時から、お前は魔法使いにはならんとな。
だから、|鍛冶(研究)の手助けしたまでだ。母親が子供の為に物事を教えて何がおかしい」
バカ息子がと。その言葉に俺は苦笑する。
じゃあなんだ。アンタは俺を育てたのは俺を跡継ぎにするためじゃなくて、俺のしたいことを陰ながら応援していたからとでもいうのか……。
それを読んだのか。
「悪いか?」
「別に……」
言葉は必要ない。
長年育てられて母である以上、いくら厳しくされてきてもさっきの言葉が嘘ではないのというのは伝わる。
本当に不器用な。
俺のいままの気遣いも知らないで。
人づきあいが苦手というのもここまでくると、病気じみている。
アンタ山降りて少しは街で済んだ方がいいじゃないのか?
腑に落ちない部分もない訳ではない。
だが――こうして。出迎えてくれたというのなら、俺はそれに答えて胸を張ろう。
さんざん人の尻を蹴って育ててくれたなと思うところもあるが、それも悪くなかったと思いながらも。
「フッ……。行ってくる。ユリアにはよろしく言っといてくれ」
「まったく、世話のかかる息子だよ。キサマは」
最後の最後まで母は子供の味方。
などというのもあるが、そいうものもあるのだろう。
今まで般若に見えた相貌も優しい保母のまなざしに見える。
それを名残惜しいと思いながらも、受け渡れた袋と自分が持って来た袋を一緒に背負い、その横をすれ違って。
家を出た。
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