プロローグ002

 目覚めた時には、また雨の中だった。

 真っ黒な天を覆う雨雲。雷鳴をチラつかせ蒼白い稲妻を迸せる雲から降り注ぐ雨はどしゃ降りで、自分の身を撃つ雨粒は大きく冷たい。

 左右を見渡せば木が何本も生え草木が隙間なく生い茂っていてる。

 ここはその吹き抜けのような場所なのが分かる。顔を横にすれば雨に濡れ泥になった土が頬に泥が付着する。どうやら俺は森の中、仰向けに寝かされ大雨にさらされていたよだった。

 

 それだけではない。というより、それだけではなかった。

 

「オギャアアアアアアアア!!」


 声を上げるも出てくるのは赤ん坊の泣き叫ぶ声ばかり、そればかりか視界は狭く世界は大きい。身動きを取ろうにもうまく体は動かず首を振る程度しかできない。

 

「オギャア。オギャア」


 いや待て。

 これは……。

 やっとのことで上げた自身の手を見れば小さくシワのよじれた小さなの手。

 

 なるどほ、まさか赤ん坊からやり直すとは……。

 ただ、この状況はまずい。

 

 大雨の中、どこ分からない森の草むらで、身動きの取れない赤ん坊が一人なんて……。

 捨て子か?

 

「オギャアーッ!!」


 そうこう冷静に考えている場合ではない。

 自称神。何がミスをした代わりだ。また死にかけてるじゃないか。

 また、ミスしやがって!!

 

「オギャー!!」


 叫び上げるその時。

 

「ガルウウ………」


 茂みがカサカサと動き、無数の赤い点光が木の陰からこちらを睨む。

 

 なっ!?

 

 周囲から無数に聞こえる声は呻きはそれらのモノで、草木を割って近づいて来る。

 

 これは……。

 

 そうして茂みをかき分けて抜け姿を現したそいつらは獣だった。

 灰色のボサボサとした毛並みに紅い双方の瞳。自分が赤ん坊で小さいからか大きく見えるそれは狼のような見た目をしていて、頭には突き出る一角の角がある。明らかに狼ではないナニカ。

 そいつらが、鋭い刃のある歯を向き出しにして、唸って数十ほどの群れで俺を囲んだ。

 

「オギャアアアアアアアア!!」


 マズい!!転生していきなり獣にエサになるとかシャレにならない。

 

「オギャアアア!!オギャア!!」


 声を上げるも出る声は赤ん坊の泣き声、到底言語とは程遠い。

 むしろソレに吊られ、囲む猛獣は増え段々と近寄ってくる。

 

 そうして――、

 一番近くまで来ていてた狼の俺へと飛びかかった。

 

 神めクソオッ!!

 死を覚悟した。その時だった。

 

「オギャアッ!!」


 喉が潰れんばかりに上げた声と共に、仰向けになり空を見上げる俺の視界の中。真っ赤な炎が宙を螺旋を描くようにうねり現れ、飛びかかった狼の猛獣を包み込んだ。

 その炎は強く凄まじく大気を振るわせ歪め、火の粉がチラチラと舞い狼を宙でくるくると包み上げ閉じ込める。

 そうしてポッと更に点火をし、炎が強くなると。

 

 ドオオオオオンッ!!

 

 轟音を放ち捕らわれた狼は爆発四散する。

 

 なにが……。

 そう驚いている暇はない。

 続くように襲いかかって来た狼の群れは止まらず、次々と飛び込んでくる。

 

「オギャアアアアアッ!!」


 続くく産声に、今度は雷鳴が落ちた。

 見上げる天からまっすぐに。俺へ向けて真っすぐ空を割って落ちた雷撃は、俺へ落雷する寸前周囲に分かれビリビリを放電し、飛びかかった4匹ほどの狼に直撃して焼き上げる。

 

「ウググ……」


 直撃した狼は黒焦げになり俺の横へと飛び落ちる。

 

 飛びかかてきている狼はまだいる。

 およそそれはスローモーションで、雨粒が天に浮遊しほぼ止まったようなソンナ状況だということにようやく俺は気づき、今まで起きた事象はそのスローの中でのできごとだと理解する。

 当たり前だ。狼が何匹も同時に飛びかかってきているのにそう順にノロノロと事が起きる訳がない。

 

 今のは俺がやったのか?

 分からない。

 ただ泣き叫んでいるだけ、けれども、泣く声に合わせて続く事は起きる。

 

「オギャア!!」


 そうして理解が追い付かない状況の中、泣き叫ぶ声に反応するかのようにして宙に浮遊する無数の雨粒が瞬時に目にも止まらなぬ速さで飛び散った。

 その先は残りの数十匹の狼。

 雨粒の数は数えきれないほど視界を埋め尽くしていて、それらがどれぐらいあるのかは分からない。

 けれど、起きたのはそれ。

 

 スガガガガガッ――!!

 

 視界に映る雨粒は全て消え去り、大雨だった周囲一帯は一瞬だけ晴れ渡って雨粒は大きな音を立て周りを襲撃した。

 そうして、雨粒の弾幕に撃たれハチの巣にされた全ての狼は死滅した。

 

 途端。静止した世界は再び動き出し、俺は雨に撃たれる。

 

 今のは……。

 

「オギャアアアオギャ」



 分からない分からなかった。泣いている自分。突然起きた現象。全てにおいて理解が追い付かない。

 それに。

 

「オギャア」


 どうするんだこの状況。

 それどころじゃない。何がどうあれこのままじゃ本当に死ぬ。

 体温が低下して、赤ん坊のからだには到底この雨の中ではいきれない。

 

 そんな時だった。

 

「ほおぉ……これはすごい……。まさか3属性の魔法を同時に使えるとは。それどこか見た目では分からないが7つ全ての属性を扱って居る。通常属性は一人一つな筈だが」


 驚愕と、歓喜に満ちたような落ち着いた勇ましそうな女性の声が聞こえた。誰だ?

 

「オギャアオギャア」

「ありえない。だが……」


 何者かに抱き上げられる。

 抱き上げられたその干渉は和らかく、目の前に見える顔はどこか優しく見えた。よく見ようとするも雨にうたれ体の限界が来たのか視界が霞む。

 

「大丈夫。お休み。きっとキミは神様が授けてくれた贈り物なのだから。いまは安心して寝なさい」


 そうして、抱かれる心地良さの中、俺の意識は再び闇の中に落ちた。

 けれど、そこには不安は一切なく。

 これでようやく安心できるとどこかで悟った。

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