製剣の魔法鍛冶師(マジックスミス) ~世界で唯一魔法の武器を作れる俺は世界最強の魔剣の制作を目指す!!~

テケ

プロローグ001

 え……?

 

 目が覚めるとそこは見知らぬ異界だった。

 視界に広がるのは真っ暗らな暗闇。天地左右どこを向いてむ真っ暗でどちらがどちらなのか。ここがどこなのかもわからない。

 それどころか、どこまでも真っ暗な空間は自分が立っているところさえ地面とも視認できない。

 

 キャンパスを黒の絵の具で塗りつぶしたような底知れない闇の中で、唯一俺だけが彩度を持った奇妙な状況で浮遊していた。

 

「ここは一体どこなんだ……」

 

 俺は先さっきまで新作のゲームを買いその帰り道を歩いていたはずだ。

 仕事帰り――俺、鉄匠海(くろがねたくみ)は雨が降る都会の街なみの中、傘を差し片手には新作のRPGゲーム。ファンタジアソードの入ったゲームショップの袋を持ち歩道を歩き赤信号で止まった。

 のハズだが……。

 一瞬の瞬きで世界はチャンネルが切り替わるようにこうして替わった。

 

 何が起きたのだろうか?

 

 そう困惑していると。周囲の暗闇に無数の小さな光の点がフッとつき始める。

 それらは、白や赤や黄といった色を持ち。次第に視界に入る風景は真っ暗な底知れない暗闇を彩って夜空に描く星々へと変貌を遂げる。

 

 これは……。

 

 無数の小さな星々は銀河を彩って、天の川のような絶景たる光景が美しく圧倒される。


 今、俺は宇宙に浮いている?そう疑念を持ったその時だ。

 

 

「ありゃりゃ、いや~やっちゃったね~」


 天地左右どこからも響いて、そんな周囲の神聖さをかき消すかのように間の抜けた女の子の高い声が聞こえる。

 それに、俺が周囲を見渡していると宇宙の細かな星々は俺の1メートルほど前で集まり収束をはじめ、光の粒子が人の形を取る。

 

 そうして集まった光は一瞬眩くフラッシュし煌めいて、その眩しさに視界を覆い、瞑ったまぶたを開けた次の時には光の人型があった場所には一人の少女が立っていた。

 

「ハロハロ~」


 その少女は警戒する俺に、陽気に手を振って笑いかけて見せる。

 

 ピンクの肩までの真っすぐとしたツヤのあるショートヘアー。顔つきは日本人風で瞳は黄昏のように輝くオレンジ。女子高生程の年齢の彼女はどこかネコっぽい印象を受けた。

 服装は夏場というのオレンジのダウンジャケットに真白なチアリーダーのようなヒラヒラのミニスカート。

 

 この子も俺と同じようにここに知らぬ間に飛ばされたのか?

 

 いいや、違う。

 

 微笑む彼女に困惑はなく、むしろこの場所にいる俺を歓迎しているように見える。

 だから。

 

「アンタは?」


 そう問いを投げかけた。

 

 その問に彼女は嬉しそうに微笑む。

 

「ウチか?ウチはまあ……。神様っちゅうやつかな」


 関西弁の神様がいるものか。正直言ってかなり胡散臭い。

 

「あ~、いま疑ったやろ!?」

「あ、ああ……」


 そういう彼女は神様という物には到底見えない。

 なんというか、神様というのはこう、神聖的というか。神々しいというか。天から白い羽でも生やして舞い降りてくる感じじゃないのだろうか?

 よくプレイをするゲームだとそう描かれていることが多い。

 こんな、ただの女子高生風の一般人っぽい見た目の神様なんて今までゲームでも、本の中でも見たことがない。

 

「うんうん。みんな最初はそう思うんや。でも残念ウチはほんまもんの神様やで」

「そう言われても」

「じゃあ?この場所についてどう説明するんや」

「………」


 信じがたいが、確かに言われてみればこの場所について、いや――この突然夢の中のような世界に放りこまれた現象自体については説明などできない。

 まあ、あえて言うならば、その、夢ではないだろうかというところだが、目を瞑る一瞬前には、確かに歩道の前で立っていた訳で、ラグなど一切なかったのだから。夢というのはありはしない。

 確かにこの場に来る前の強い雨に撃たれる傘の感覚と、道路をしぶきを気ながら走る車の音は本物だった。

 

 だからと言って、ここが夢ではないという保証はないが説明のしようがなく、こうして思考は遮り頭をフル回転して考えている時点で夢ということはない。

 夢現の場合、大抵フワッとした考えで終わってしまい、こうも静かに状況把握などできないだろうから。

 ゆえにここは間違いなく現実だということで、真実はどうかは置いといて目の前で神様を名乗るこの子は少なくともこの現状について知っているということになる。

 

「さあな。それで?なんの様だ」

「あ~、考えるのやめんなやー!」


 べつにやめてはいないが、問題は神様がどうかとか、此処がどうかとかじゃないだろう。

 なにより大事なのは。コイツが俺になんの用があるかだ。

 仮に、今起きていることが全てこの自称神が引き起こしているならば、それは、わざわざこんなことをしてまで俺にようがあるということ。

 

 だとしたら、場所や神かどうかは問題ではない。

 目の前にいる彼女の目的はなにか?ということだ。

 

 だが、俺の問いに自称神はいや~と言ってなんとも気まずそうな、目線を漁っての方向に長し説明しずらそうな感じをする。

 

「いや~、それがなあ。あんさんウチのミスで死んでしもうたんや」

「ん?」


 言っている意味が分からない。

 

「いやだから。さっきまでのことは覚えとらんか?」

「……。信号を待ってただけだ」


 言われ、思い返すも。やはり道路で信号待ちしていた記憶しかない。

 

「やっぱり、死んだ直前の記憶はもっとらんか」

「というと?」

「どうも、あんさん。トラックに飛び出した子供を助けようとその子をトラックにぶつかる寸前に突き飛ばしてかわりに引かれてしもうた訳なんや」


 そんな記憶はない。

 だが……俺が死んだ……?。


 そんなバカな。

 

「待て。それなら新作のゲームはどうなる。クルエニの待望の新作RPGファンタジアソードは?剣と魔法のファンタジー世界で勇者は?今度のやつは剣をカスタマイズして魔法を放つオリジナルの剣を作れるシステムなんだぞ?」


 毎日毎日、まだかまだかと発売日の今日まで仕事も手が着かず朝から並んで手に入れたゲームだ。

 

「楽しみにしていたんだぞ?」

「ん~。自分の死因よりそっちかいなぁ。まあなんや?そう、なんやっけ?ファンタジアソード。ウチのミスで死んでしまった代わりにそのゲームみたいなファンタジー溢れる異世界にいろいろ優遇して転生するって言うのはどうや?しかも全属性魔法を使えるおまけ付きで」


 それは……どういうことだ……。


「そんなことができるのか?」

「うんまあ、神様やし。どや」


 剣と魔法の世界。それはすごく魅力的な提案だった。

 RPGのようなそんな世界で生きられたら。勇者のように魔法の剣を振りかざし生きられたら。そんな誰もが一度は考えることを思わなかったことなない。

 元々自分がRPGのゲームにハマったきっかけもそうだ。

 日々ただ会社に行き仕事をして。そいう退屈から逃れる為に始めたのがきっかけだが、それが予想以上に面白かった。

 それになにより、魔法の剣などの通常じゃありえない武器なには強く憧れた。現実的ではありえない非現実。それを生み出すそれらの強さは、ファンタジー特有の特権であると。

 他ではありえないものだから。それさえあれば現実が変わるのでないかとさえ思ったほどだ。

 だから、もし――自分がそんな剣を扱い冒険をできたなら……。

 

 それこそ願ったりかなったりだった。

 

「できるのか?」


 本当に、そんなこと。

 その問に自称神は頷く。

 

 なら。答えは一つだろう。

 

「俺は異世界で魔法の剣を使い剣士として旅をしたい」


 今の、現実とは異なる憧れを目指して。

 

「ええで」

「ぐっ!?」


 笑顔で返事をされた瞬間。

 突然自分の足場が消え去ったかのように落下をする感覚に襲われ、俺の意識は闇に沈むように落ちて行った。

 

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