第3話

 友達の彼女。


 予想通り、とても美人だった。そして、おそらく魅力は顔じゃない。


「どうも。あなたが」


「イケメンだろ?」


「うん。かっこいい顔」


「ありがとうございます」


 一応、直視はしなかった。惚れられると後が困る。


 友達を、失いたくない。


「こいつが、顔で悩んでるんだ。数日前も振られたらしい」


「振られた理由は?」


「知らないですよ。勝手に惚れられて、勝手に振られての繰り返しです」


「だからこいつは女性と手を繋いだことすらない」


「おいおまえ、それは言わんでくれよ。はずかしいよ」


「あはは」


 友達の彼女。いい気なもんだ。自分たちはいちゃいちゃしてよ。俺の前で見せつける気か。


「私たちも手、繋いだことないよね」


「ないな」


「は?」


「どうした」


「いや、付き合ってるんだから手ぐらい繋げよ」


「その言葉そのままそっくりお前に返すよ」


「うっ」


「あはは。仲良いのね」


 仲は良い。それは、友達が優しくしてくれるからだった。自分が何かしたわけじゃない。


「ああ。こいつはとにかく優しいんだ。さっきも、先に来たハンバーガーセットを、俺に譲ってくれた」


「あれは店員が悪い」


「そういう、なんというか、とにかく人のために優しくするようなやつなんだよ。顔のせいで喧嘩吹っ掛けられても、反撃しないで殴られ続けたりする」


「えっ」


「いや違います。喧嘩弱いだけです」


 嘘だった。喧嘩はめちゃくちゃ強い。ただ、それに意味を感じないだけ。反撃しないのは、角が立つから。


「まあ、そうだな。喧嘩は弱い」


 こうやって嘘に乗ってくれるのも、友達のいいところだった。気立てが良い。


「なんで、反撃しないんですか?」


「弱いからです」


「いやそうじゃなくて。振られて悲しいんですよね?」


「はい。まあ」


「なんで追いかけないんですか。一緒にいたいって、自分から言わないと」


 刺さった。


 たしかに。


 告白される側だから、特に誰かを追ったことはない。


「あなたは、顔がいいのをコンプレックスだと思って、前に進むのをやめている。好きな人がいるなら、自分からあらためて言わないと」


 友達の彼女。立ち上がる。


「ごめんなさい。私、あなたを振った女の子と友達なんです。これだけは言いたくて。振られたのは、あなたのせいです」


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