第38話 彼女のはなし。

 小さいころ、甘いカレーが好きだった。

 成長するにつれて蜂蜜のたくさん入った母のカレーがだんだん嫌になってきたけれど、あたしはそれを口にできなかった。

 甘いカレーが好きな子供のあたし。それがあの人が求めている理想の娘、そんなの最初から分かっていたよ。



 欲しいものは何でも与えられた。可愛いね、と言われるのが日常だった。

 両親の愛を一身に受けてきたと思う。別にお金持ちの家のこどもなわけではないし、父は一般的なサラリーマン、母は専業主婦。どこにでもいる家庭に生まれたはずだった。ただただ二人はあたしに甘かった。いつものカレーみたいに、胸がむかむかするくらい。

 そんな両親に育てられたが故の弊害か、あたしは自分で言うのもあれだけど我儘に育ったと思う。何を言っても両親が叶えてくれたから、肯定をされたことはあっても否定をされたことはなかった。

 幸せな家庭に生まれてきた女の子。あたしの人生はそれで終わるはずだった。



 岩田棗に出会うまで。

 彼に出会った日、それが大きな転機。

 大きく崩れていった。

 あたしの幸せは彼への盲目な恋で、壊れた。



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