第27話 クラスメイトのはなし。5

 時刻は夜の八時を過ぎていて、親は今からの外出に反対したけれど、わたしはそれを押し切って家を出た。電車の時刻表を気にすることなく、来たばかりの車両に乗り込む。電車の中は休日の夜ということもあって空いていて、わたしは出入り口に一番近い席に腰を下ろした。メッセージに気づいたのはその時。

 西倉さん、誰かに突き落とされたみたいだよ、とその文を読んで、わたしの背筋が一気に凍り付く。既読をつけて、わたしはそのメッセージに返信はしなかった。

 ふと、学校での階段からの突き落とされていた西倉さんが脳裏に浮かんだ。ああいう嫌がらせを、外でもやる人間がいるのか。でも、さすがに高校生にもなってそんなこと。わたしは頭の中でプチパニックを起こしながら、必死に西倉さんの無事を祈りながら病院に向かった。


 西倉さんの運ばれた病院前でわたしは電車を降りて、入り口まで走った。面会時間の受付はぎりぎりで、わたしがまだ高校生だということもあって様子を見たらすぐに帰るように言われた。

 受付の人に教えてもらった病室は七階だったので、わたしはエレベーターに向かう。ボタンを押すとすぐに扉は開いて、わたしはエレベーターの中に入る。中には誰もいず、わたしはすぐに閉じるのボタンを押した。


「……ちょっと待って、乗ります!」


 がん、とすごい音が鳴って閉じていたエレベーターの扉がこじ開けられた。

 外は結構寒かっただろうに、その人は走ってきたのか汗がすごくて、エレベーターに乗ったあと息を切らしてるのか、ぜーぜーと荒い呼吸を落ち着かせようと下を向いて息を吐いていた。

 その人は、どこかで見たことのあるような顔だった。


「何階、ですか?」


 正直、こわかった。見たことがある気がすると言っても知り合いなわけではなかったし、わたしの勘違いかもしれない。荒い呼吸のままその人は「七階」とわたしと同じ行き先を告げ、わたしはそのまま無言で彼を視界から外した。


「あんたも、七階?」

「え。ああ、そうです。友達のお見舞いっていうか、さっき運ばれたみたいで」


 聞かれてもないことまですらすら出てくる。わたしは、隣で呼吸を整えている少年から視線をはずしながら答えた。


「もしかして、西倉のクラスメイト?」

「……え。西倉さんの知り合いですか?」

「……知り合いっつうか。てか、お前クラスメイトなら俺のこと知ってるんじゃねえの?」


 もう一度、彼の顔を見る。やっぱり、どこかで見たことのあるような顔だった。

 ふと、夏目さんがよく一緒にいた彼氏の顔に似ているような気がした。だけど、髪の色はこんなに暗くなかった気がするし、みんなが言ってたようにもう少しチャラいイメージがあった。だけど、今の彼からはそんな雰囲気をあまり感じられない。

 

「あの、青山、くんですか?」


 あの夏の日から、彼は登校しなくなった。

 そんな彼が、西倉さんのためにこんな息を切らして病院に来るなんて、そんなに仲が良かったようにも見えなかったのに。

 

「なあ、西倉が歩道橋から落ちたって、誰かに突き落とされたみたいな話だけどさ」

「……ああ、そう、みたいですね」

「誰がやったのか、お前、知ってる?」


 だって、青山くんは夏目さんの恋人だから。西倉さんにとってもそれ以上でもそれ以下でもない、はずだ。

 青山くんはわたしの問いかけに答えることなく、言葉をつづけた。

 たぶん、否定しなかったら、彼が青山くんで間違いはないのだと思う。


 わたしがその問いかけに答える前に、エレベーターの扉が開いた。

 わたしも青山くんも、無言で西倉さんの病室に向かった。


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