第26話 クラスメイトのはなし。4

「余計なお世話だから」


 西倉さんの拒絶は、わたしを遠ざけるためのものだった。彼女は、関わると面倒でしょ、と酷く悲しい顔で笑ったのだ。

 わたしは、勇気を振り絞って話しかけた自分が情けなくて、こんなふうになるまで西倉さんのことをほったらかしにした自分のことを責めることしかできなかった。勝手にわたしは西倉さんは強いから傷ついてないんだと思い込んでいたんだ。毎日、当たり前のように登校して、嫌がらせも受けてそれでも彼女は変わらないから、だから大丈夫なんだと、そう勝手に解釈をしていた。

 だけど、違ったんだ。西倉さんだって、やっぱり傷ついてる。


「あいつ、最低」


 友人がわたしの耳元でぼそっと呟く。わたしはその言葉に肯定も否定もできなかった。周りが今の光景を見て、西倉さんのことをどう思うかなんて分かりきってることだ。心配してくれた人間の優しさを無碍にする女、わたしはまた西倉さんを追い込む要素を作ってしまっただけ。


 わたしは西倉さんとはそれっきり、一言も喋っていない。





 西倉さんが歩道橋から落ちたらしい、という話がクラスのアカウントで話題にのぼった。夜の八時まえ、いつものように明日の授業の準備をしていたときに、グループアカウントが動き始めた。わたしは普段はメッセージやりとりに参加することはなかったけれど、内容を見て思わず手が動いた。


「それ、本当?」

「いや、隣のクラスのやつが西倉さんに似た女の子が救急車で運ばれるの見たって」

「どこの病院に運ばれたとかってわかる?」

「え、そこまでは。ちょっと」

「誰か西倉さんの連絡先とか知らないの?」

「えー、誰か知ってる?」

「しらなあい」

「あ、でも最悪このグループに入ってるから、アカウントフォローはここからできるよ」

「ほんと?」

「でも、向こうが許可しないと一方的に送るだけになっちゃうけど」


 高校から使い始めたスマートフォン。三年経ったいまも使い方はいまいちわかっていない。グループ内のメンバーの中から西倉さんを探して、わたしはフォローする。「西倉さん?」「西倉さんいまどこ?」「歩道橋から落ちたってほんと?」返ってくる保証なんてないのに、わたしはひたすらにメッセージを送り続けた。


 それから三十分もしないうちに、またクラスのグループアカウントが動き始めた。わたしが動揺して書き込みをしたのが珍しかったのか、それを心配してくれたクラスの子が、西倉さんが運ばれた病院を調べてくれたみたいだった。


「いちおう、西倉さんが運ばれた病院はここだって。まだ面会時間内だから、心配なら行ってもいいと思うけど、委員長も気を付けてね」


 病院のホームページと住所を貼り付けてくれたその子に、ありがとうと返信してわたしはクローゼットに入れたトレンチコートをはおって鍵と財布を持つ。

 

「西倉さん、普通に落ちたんじゃなくて、誰かに突き落とされたみたいに落ちてたって話だから」

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