第24話 クラスメイトのはなし。2

 二年になって、西倉さんは悪魔に絡まれるようになった。

 少し派手でうるさくて、自己中心的で自分の我儘がなんでも通ると思っているその子のことを、わたしは心の中で「悪魔」と呼んでいて、正直嫌いだった。たぶん、西倉さんも苦手なタイプだろうと思っていたけれど、意外に仲が良く、ニコイチといってもいいくらい二人はいつも一緒にいた。

 最初は出席番号順の席が前後ろだったことがきっかけなのかもしれないけれど、西倉さんが嫌なら関わらなければいいだけの話だし、気が合ったのかもしれないとわたしはそう勝手に解釈をした。

 だけど、夏目さんのことを知れば知るほど、西倉さんが話してくれた「死んだクラスメイト」にそっくりで、わたしは二人が一緒にいる光景をだんだん気持ち悪く感じた。西倉さんの笑顔がなんでか作られたようなものに感じて、いつも夏目さんのことを褒めて持ち上げている姿に、友情なんていっさい感じなかった。まるで下僕のようだった。

 夏目さんに言われるがままに、西倉さんは道を外していく。最初はスカートが少し短くなって、たまに化粧をするようになって、放課後も夏目さんに付き合って遅くまで出歩くことが増えたみたいだ。いつも静かに席に座って本を読んでいたのに、今はスマホを確認することのほうが多い。悪魔に唆されて、どんどんとわたしの知っている西倉さんは変わっていく。だけど、わたしは西倉さんに話しかけることもできずに、今もこうやって見てるだけ。


 わたしは西倉さんの視界に入る努力をしなかったんだ。





「……委員長?」


 夏休みの補講が終わって飲み物を買いに自動販売機に向かうと、そこに西倉さんがいた。わたしは気まずくて、黙って通り過ぎようとしたけれど、その声がいともあっさり私の足を止めた。


「に、西倉さんも来てたんだ。補講」

「うん。茜は一緒にさぼろうって言ってたけど、夏休み明けに困りそうだし」

「ていうか、夏目さんは赤点とって強制補講もあるはずじゃなかったっけ?」

「ほんとそれなんだよね。ちゃんと行ったほうがいいよとは言ったんだけど、面倒くさがってるみたいで。赤点補講だけは行かせるつもり、留年したら可哀想だし」


 悪魔と仲良くなった西倉さんは、前に話した時の西倉さんとそんなに変わってなくて少し安心した。

 授業と授業の間の短い時間、ほんの少しだけわたしは西倉さんと雑談をした。難しくなってきた数学の話、授業中にほとんどの人が爆睡してしまう三島先生の話、最近読んで面白かった本の話。西倉さんと共通の話題はそんなにないと思っていたけれど、喋ってみるとやっぱり気が合うのか盛り上がって言葉がぽんぽん出てきた。予鈴が鳴って、一緒に教室に戻ると「楽しかった。委員長、ありがとう」と彼女は笑ってくれて、わたしは何でか恥ずかしくなって上手く返せなかった。

 わたしは西倉さんが新しく踏み出した道を応援しなければいけないのに、それを間違った道だと思い込んで、今の西倉さんを正直馬鹿だと思っていた。だけど、わたしにはそんなことを思う権利はなかったんだ。だって、わたしは西倉さんのことを知っていてなお、助けることをしなかった。結局、手を差し伸べなかったんだ。



 わたしは西倉さんにお礼を言われるような人間じゃない。

 西倉さんが今、仲良くしている夏目さんのことも本当は「悪魔」って呼んでるんだよ。最低でしょ、勝手に西倉さんもああいうタイプの女は嫌いだと思ってた。


 西倉さんはわたしとは違う。わたしが勝手に似てると思って、仲間意識を持っていただけで、西倉さんはわたしなんかとは違う。

 委員長とわたしのことを呼んでくれる優しい彼女がこれからも、あの最低な過去を少しでも忘れて楽しく高校生活を送れますように。わたしには、それを願うことしかできなかった。

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