第17話 氷がとける2
「どういう意味? 好きって友情的な意味で言ってる?」
青山くんの疑問に私は言葉が詰まった。それは私が勝手に思っていたことであって、岩田くんが本当はどう思っていたかは、今は誰も分からないから。
「わからないよ。でも、なんとなく、岩田くんは青山くんのことをいつも守ろうとしてたの」
「守るって何から?」
「…………それは」
青山くんに伝えていいのか戸惑った。目が泳いで、視界が少しぐるぐるした。気持ち悪くなって、そのままばたんとベッドに倒れ込む。一度瞼を閉じると、彼が生きていたときのことが思い出として浮かび上がってくる。何もできなかった過去の恥がいくつも、いくつも。
「茜からずっと守りたかったんだと思う。青山くんのこと」
あの夏の日も、私だけが知っていた。
ダブルデート、と茜は笑って言っていたけれど、それに岩田くんが付き合う義理はないはずで、しかもわざわざ遊泳禁止の海にまでついてくる理由なんてわかりきっていたことだったのに。
茜が岩田くんに一体何をしたのか、私は結局聞けなかった。彼がこれだけ憎むほど、何か大きな過ちを犯したことも、私は正直どうでもいいことだと思っていた。
私は私のことしか考えていなかったのだ。茜のいい友達でいることだけが私の使命。私が正しくいるためには、岩田くんが知る茜の話は不必要だと判断した。
「どうして、ここで茜が出てくるんだよ」
「青山くんは何も知らなくていいんだよ」
「どうして」
「だから、何も知らなくていいの!」
大きな声を出した自分に驚いて、思わずスマホを落としてしまった。がたんと、鈍い音が部屋に響く。慌ててスマホを拾い上げると、もう電話は切れていた。落ちた衝撃で通話終了ボタンを押してしまったのだろう。私は「ごめんね」と青山くんにメッセージを打って、そのままスマホを机に置いて布団にくるまった。
私が勝手に思い込んでることだ。これが真実なわけではない。
だけど、一つだけわかることがある。岩田くんは青山くんのことを誰よりも大事に思っていた。それと同時に茜が青山くんに危害を加えるんじゃないかと危惧していた。茜と過去に何があったのかは知らない。だけど、私の知っている岩田くんは今にも殺してしまうんじゃないかってぐらい、茜のことを嫌っていた。
もう死んでしまった人間に何も聞けない。
だから、すべてを知っていて話せるのは茜だけだった。
一番怖いのは茜が理由で岩田くんが死んだ可能性があるってことだけだった。あれだけ動揺していたから、茜が岩田くんを殺す気があったわけではないと信じたい。だけど、もう何を信じればいいのかも分からない状況だった。
「あいつのことは信用するな」
「いちおう、西倉も用心しとけよ」
「あいつは何も反省してない」
「ないとは思うけど、西倉」
「ハルのことを好きになるなよ」
岩田くんとのメッセージのやり取りを見返す。
彼の最後のメッセージは「海、楽しみにしてる」というあの日の前日の短い一言。私は何も返せなかった。怖かったなんて言い訳なのに。私は、岩田くんが自分の味方だとわかっていたはずなのに。
茜に気をつけろ、と再三送ってきたメッセージを見返す。私はそれを彼が死ぬまで、信じることができなかった。もしかしたら、今も茜のことを悪として見れていないのかもしれない。
青山くんのことを好きになるな。それは、どういう意味で言ったのだろうか。ぎゅっと目を瞑る。意識を手放すのに時間がかかったけれど、ようやく私は眠りについた。
茜の次のターゲットは、いったい誰になるのだろうか。
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