第14話 幽閉
大丈夫、もう呪いはとけたんだ。
□
青山くんにアポイントメントをとって会いに行った。あの日から連絡をとってはいたものの、一度も会ってなかったから、彼の変わった姿に少しだけ驚いた。チャイムを鳴らして出てきた青年は、色の落ちた茶髪がのびきっていて、急いで出てきたのか裸足で、私の顔を見て皿のように目を見開いた。「髪、切ったんだ」と、久しぶりに会って開口一番に言う台詞がそれなのかと少し呆れたけれど、わりと元気そうな様子の彼の姿に何故かほっとした。
「どうすればいいのか、わからない」
青山くんの本音はとても重たくて、私に一緒に背負ってあげられるほどの強さがあったらよかったのに。しんと空気が静まり返って、私はどう返答すればいいのか分からなかった。言葉を間違えれば、私はまたあの呪いにかかってしまう気がした。ちくり、と心臓の部分を小さな針で刺されるような感覚がいまだに忘れられない。
青山くんを助けられるのは、もう私しかいないのに。
青山くんにお願いをして茜に連絡をとってもらうことにした。それしか方法が思いつかなかった。青山くんからは「今日も出なかった」と毎日夜遅くにメッセージで報告がある。それに私はいつも「了解」とスタンプで返す。これが一週間以上続いている。
そんな中、冬が近づいてきていた。最近くしゃみと鼻水が止まらなくて、熱をはかると三十七度を超えていて、私は三日ほど学校を休んだ。頭がぼうっとして気分は最悪だったけれど、学校に行かなくてもいい。それが少しだけ嬉しいと思ってしまう自分がいた。
私だって行かなくてもいいなら、私を悪者扱いしてくるような奴らのもとになんて行きたくない。嘘ばっかりの噂話でさんざん私たちのことを貶して楽しんでるような奴らに、私は何も言い返せないのに。それなのに、私はどうしてあの場所に行かなければならないんだ。茜も青山くんもふたりとも、逃げたのに。私だって逃げたっていいじゃないか。私だって自由になりたい。
声にならない叫び声を脳内で繰り返し何度も叫び続けて、私の瞳からは自然と涙がこぼれていた。握りしめる拳はだんだんと強くなっていって、掌に爪がどんどん食い込んでいく。悔しかった、何もできない自分が。私たちだけが悪いわけじゃないのに。
「私が、あの日、別の海に行こうって言えたらよかったのかな」
もう、無理だよ。
「私が、暑いってずっと言ってた岩田くんの異変に気付けてたら良かったのかな」
もう、無理だよ。
「ごめんね、わたしは岩田くんのこと、何もわからないままだよ」
体中が暑くて、頭がぐわんぐわんと揺れる。視界はぼやけていて、瞼がゆっくりと落ちていく。真っ暗闇に私の目に映るのは岩田くんの姿。あの日、教室で何をしてるのかと聞くと彼は笑って言うのだ。「秘密だよ」岩田くんはどれだけ私を苦しめたら気が済むんだ。もう許してくれてもいいじゃないか。
目に映った茜の写真がびりびりと破られていく。小さな屑になるまで木っ端みじんに。彼は笑って言うのだ。「俺、嫌いなんだ、こいつのこと」
フラッシュバックし続ける秘密だよという言葉は、私の心臓をぎゅっと握って離さない。
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