第9話 青山春馬の告白4
「どうすればいいかなんて、どうすれば正解なのかってきっと誰にも分からないし、この先も結論がでることなんてないんだと思う」
「……珍しく西倉が饒舌で驚いてる自分がいるよ」
「青山くんは私のこと何も知らないでしょ。だからそう感じるだけだよ。青山くんにとっての私は茜の付属品でしかなかったでしょう?」
西倉の語り掛けような口調と、同調を求める微笑みに心の奥底がぞわりとした。腕にはきっと鳥肌がたっていて、握る拳がまた必然的に強くなった。
俺の戸惑う顔を見て、西倉はどう思ったんだろう。気まずい空気に耐え切れずに俺は立ち上がってお茶を準備しに部屋を出た。逃げた俺を西倉は咎めなかったし、むしろ何も言わなかった。
西倉の言葉がピンポイントで痛いところをついてきて、怖かったのかもしれない。俺は彼女のことを茜の友人とは思っていても、同等の立場の人間として考えていなかった。茜から聞く彼女の話は、いつも一歩後ろにいるようなおとなしい女だったから。きっと茜が彼女のことを下に見ていたから、俺もそう感じていたのだろう。
電気ケトルで湯を沸かして、急須にお茶の葉っぱのパックを突っ込んだ。慣れてない手つきで湯のみにお茶を淹れて、それをお盆の上に置く。茶菓子のひとつも用意できてない自分が何故か恥ずかしくて、こんな感情は茜と付き合っていたときに感じたことは一切なかった。
部屋に戻ると、西倉は俺の部屋で静かに本を読んでいた。部屋の扉を開けてもこちらに気づかないくらいに真剣で、俺は声をかけれずにひっそりと本のタイトルを覗いた。
「……それ、茜が好きだった漫画のやつ?」
「……あ、青山くん戻ってきてたんだ」
ぼそりと零れた言葉に、西倉はようやく俺を視界に入れた。
「そうだよ。これ、茜が好きで私の誕生日にプレゼントしてくれたの」
「なんで、誕プレに自分の好きなものあげるんだよ」
「あれじゃないかな、布教みたいな。私が漫画得意じゃなの知って敢えてノベライズを選んできたあたり流石親友だなって思ったよ」
西倉が本を鞄に仕舞って、俺がもってきたお茶に口をつける。「ありがとう」と短くお礼を言われて、俺はまた動揺を隠せなかった。違うんだ、俺はあの話題から逃げたくて部屋を出たのに。言い訳を言葉にする勇気なんて微塵もなかった。
「今日はこんなどうでもいい話をしにきたわけじゃないんだ」
「どうでもいい話って、」
「茜がとうとう自主退学しちゃって、私との連絡もそれが最後。茜のお母さんに聞いてみたんだけど、鬱っぽい感じになってるらしくて、青山くんにどうにか接触してもらえないかなと思ってお願いにきたの」
「へえ、でも俺より西倉のほうが適任じゃないのか」
「まさか」
「だって俺は茜に一番に切られたんだよ。俺のせいで人生めちゃくちゃにされたと思ってるはずだ」
西倉は吐き捨てるように言った俺の言葉にきょとんとした表情を見せた。
「それは、逆じゃないの?」
俺は西倉詩織という人間のことを下に見ていた。茜から聞く彼女はとても地味で平凡で、茜に釣り合っていない女だったから。それでもなお茜と付き合い続けるのはお互いどういうメリットがあったのだろうなんて、しょうもないことを考えて、俺はその発想が異常だということに気づけなかった。
あの日、茜が言っていた言葉を俺はようやく思い出したのだ。
「詩織は敵にまわしちゃいけないよ」その言葉の真意を聞きに、俺は茜につながるはずのない電話をかけ続けた。
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