3章 4話 宇宙は空にある

 会議室には技術士達が集まっていた。彼らが囲むテーブルには設計図があり、そこにはロケットが描かれている。私とユウゼンが来た時には既に話はまとまっていたみたいで、技術士のベルとホノカからそれぞれ報告を受けた。

 ロケットは操縦用にWEAが組み込まれている。これは特殊な機体で今回の作戦では外せないそうだ。

「迎撃衛星。天の眼への対策だね。」

 とユウゼン。天の眼は旧時代に作られた兵器を攻撃する為の兵器だ。これがあるから簡単に地球人が宇宙に上がる事は出来ない。

「そう。天の眼は強力なレーザーを照射する。よって本機に搭載されているバリア装置で突破を測って貰う。なに、自動操縦だから乗ってるだけでいい。」

「なるほど。所でコイツの名前は?」

「クラウディアだ。可愛がってくれ。」

「了解」

 ベルが一歩引くとホノカが歩み寄る。

「ああ、僕から報告だ。完成次第出発。早くて明日。準備はこちらで済ませておくからその間に心の準備でもしてくれ。宇宙に上がったら協力者の船が迎えに来る手筈だよ。」

「明日か。なんでそんなに急いでるの?」

「この船は雲の上を通過する。その際に飛び立てばバビロニアに察知されずに済む訳さ。旧時代の弾道兵器と思われたら何が起こるか想像に難くないだろ?でも、実の所こちらの事情で申し訳ないと思ってる。」

「いやいや、私は何もしてないのに何から何までしてくれて嬉しいよ。」

「そうか」と安心したような顔を見せる。

「協力者はタダでは動いてくれない。一応サキの事は頼んでいるがユウゼン。君は見返りを要求されるだろう。どんな事でもはいと言ってくれ。外交官としての仕事だ。……本来は僕が参らねばいけないのに押しつけてしまって」

「言わないで、謝らないで。兄さんの役に立てるなら本望だよ。」

「そうか」と呟く。ただその顔にはなんとなく不安げな感じが見てとれた。ユウゼンを大事にしてるんだろうなと思う。

 最後に質問があればと言われたので一昨日聞いたホワイトムーンについて聞いた。

「ホワイトムーンはこの船にいるの?」

「ん。悪いね。質問を返す。何かあったのかな。」

 ここから声がしたと学生証を手渡す。

「ハハ。面白いねえ。確信したよ。船内に居る。確実に。フフ。君も罪深いものだよ。」

 何故か笑い続けてその学生証をポケットにしまった。

「これは預かっておくよ。君の安全の為にね。で、何と言われたんだい?」

「預言者の言葉を贈ろうって。落ちたさきで船に登れって。」

「落ちる。月に落ちる。のだろうね。船に登ると言うのは協力者の船だろう。なに。わかっているさ。」

 あ、そう捉えるんだ。確かに地球に落ちるとは言ってないからな。

 その後ロケットのコックピットに技師に案内されて操縦を教わった。操縦と言っても自動的に動くから何かあった時の対応の話なんだけど。

 ユウゼンはレクチャーを受けている間、ロケットについて隙があれば聞いていた。と言うのもコックピットは360度一周するモニターが貼り合わされていてロケットを整備している様子がよくわかるからだ。前以外は三角に組まれた鉄柱で覆われた状態だけどその鉄柱に作業員が絡まる様にして仕事をしている。レクチャーしてくれる技師曰く接着部分の点検をしているのだそうだ。

 コックピットから出るとシルバーに呼ばれてここに来る時乗った、あの派手なWEAの整備を手伝った。正直足手まといだったと思うけどシルバーはここでしか出来ない経験をさせてやりたいと言う。そう、これでお別れなんだ。この世界はこれから戦乱の時代になるんだろうけど私は私の世界に戻る。申し訳なくて誰にも言えないけれど、安全地帯に逃げ出す私をどうか許して欲しい。

 整備と言っても物運びで始め何を頼まれるのかわからなくて萎縮していたけど失敗しないような仕事で助かった。失敗と言えばシルバーに軍人について質問した事がある。

「軍人は政治家に命令されて動く。そこに正義とか立派なものは無くて、只々しくじりませんようにって祈って戦うんだ。国っていう会社の社員だよ。」

「ちなみにしくじったことは?」

「何回あると思う?」

「出世してるんだから少ないんでしょ。1、2回とか。」

「良いね。そんぐらいだな。お前も出世したいなら大成功を目指すより失敗をしないように。したらしたで自分で後始末出来るようにしろ。」

 私は失敗しないようにって確かに祈っている。怒られるかもって思うけどシルバーも同じこと考えてるのだろうか。

 グリスを入れる技師の隣に立ってライトで作業部分を照らす。その時、内部フレームの一部に文字が読めた。ーー無事。とその下に折り鶴の絵。技術曰くNT社製のどのWEAにも何かしら書いてあるらしい。大抵は必勝らしいけどこのパターンは初めてみるとのこと。でもまあこの流れならこの文字を書いた人の事が良くわかる。


 翌日の夜にロケットは平調王国上空で打ち上がった。サイズの合っていない宇宙服と予め穿かされたオムツが物凄く気になる。

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