3章 2話 ブリテンの上空にて

-253年9月14日(金)

「面白い言い方するね。ま、いいや。じゃ、サキ。君の能力で降りてごらん。前回の発動は未曾有の危機に自然と反応した結果だ。理論上可能な筈だよ」

 そう言うとトムは天井のクレーン用の鉄骨から下の床に落ちて行く。ロボット用の格納庫だから結構高いけど彼は膝を曲げずに片足で着地した。

「罪深いなあ、あの人。ー-おいで、俺の力は落下の衝撃を無効化出来る」

 もうその言葉に甘えようとは考えられなかった。

「いや、いける。と思う。感覚はさっき掴んだ。」

 鉄骨の端に靴の底を半分出す。下を見下ろすとトムが見上げている。心配しているとか喜んでるとかそういう顔じゃなくていつもの真顔で。

 大きく深呼吸するとユウゼンが声をかける。

「頭の中でイメージを描くのもいいけどこうしろって言う命令をしろ。WEAがそうであったように力がそれに応えてくれる。じゃ」

 彼は先に落ちて行った。それにつられて私も落ちる。何だか気持ちが軽くなったみたい。目を瞑ってあの時の、この世界に来た時の気持ち。どうでもいいって気持ちを思い出す。そうか。

「これでいいんだ。」

 地面に足が近付けば近く程速度が遅くなって、今はわからないぐらいゆっくり降りている。

「おお、決まったね。サキ。兄さんにも知らせよう。ええと、これはどうなっているんだろう。」

 ユウゼンが足元で私を支えようと手を伸ばす。意識を変えると身体は重力に引っ張られて彼の手に吸い込まれるように落ちる。

「限りなく0に近付いているみたいだね。いきなり出来るとは思ってもみなかったが、まあ価値ある結果になって嬉しいよ。」

「何か、話す事があるって聞いたけど。」

「そんな怖い顔しないでくれよ。僕は君がホノカ殿下に近付いて聞いてね。いけるんじゃないかと思ったんだ。」

「本当に?じゃあ、帰れるの?」

「保証はできない。しかし、大きく前進することに違いない。」

「いけるって。どこに?」

 ユウゼンがトムに問いかける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る