3章航海編 1話 捕捉
-253年9月11日(火)
「これがFU ー3200。頑丈さが売りだから乱暴に扱っても問題ない。ただ、今回はこっちの小型化させた機体に乗ってもらおう。取り敢えず操作に慣れるんだな」
目立つオレンジ色の小型機。オリジナルより5m低い小型と言っても10メートル。エンジンが背中に露出していて危なっかしい。でもプロモーターが問題ないって言うんだから大丈夫かな。
「ありがとう。ナベルス。」
乗り込むとシュミレーション通りに起動シークエンスをこなす。座席のベルト点検、安全装置を起動してエンジンに火を入れる。専用メモリモジュールを座席下のスロットに差し込むと事前に設定したユーザーインターフェイスが外の景色と共に表示されて、そこにはナベルスもしっかり写っている。
「どう?聞こえる?」
見ると隣の青い同型機体のカメラがこちらを覗く。
「うん。ウィル。ばっちり、聞こえてるよ。」
「じゃ、まずはついてきて。」
倉庫から重量を感じるゆっくりとした足取りで出ていく背中を追う。勿論座席が大きく揺れるので腕が操作を誤らないか不安だ。尤も少しの揺れでは動かないよう操縦レバーは力を入れなければならず自動操縦機能でこの程度のこと気にする必要はないのだがまだ慣れない。
外ではシミュレーション通り歩いたり、走ったり。基本的な動作を確認した。これは難なく終わる。でも問題はこの後の実践。何回か練習したし模擬的なものだけど緊張する。
ナベルスの呼びかけで定位置に移動する。
「ええっと、戦闘用コマンドなんだっけ。」
思わずその言葉が出ながらメモリにしまい込んだリファレンスのカンペを出そうとする。
「大事かぁ?サキ。複雑な動きをしようとするな。こんなん勢いで何とかなるんだからよ」
「彼女は初めてだからこそ丁寧に操縦したいんだよ。わかるよ、僕もそうだった。」
「ほんとに勢いで動かしてる感じなの?」
「体が覚えるってやつさ。」
実践に決まった型なんてない。言わばプロレスだ。これがしたいが為にウィルに頼んで乗せてもらっている。
「もう。大丈夫。じゃ、やろっか。」
そう言うと向こうの青い機体は足裏のローラーを使って突進してくる。すかさず真横にずれてかわしすれ違いざまに足をかけようを左足を出すと勢いに押されてこっちが転ばさられる。
景色が二転三転して、体が激しく揺さぶられる。転んでも怪我するわけじゃないけど、一番こうやって揺らされるのはいやなんだ。歯を食いしばっていたおかげで情けない声をもう出さないですんでいるけど。
「引いちゃダメなんだ。押されちゃダメ。今のも重心を左足にかけていれば倒せてた。」
ウィルは目の前に近づいて手を差し伸べる。
悔しいけどこれで終わりじゃない。試合はWEAの背中を地面につかせなきゃいい。今は辛うじてセンサーが反応するギリギリで踏みとどまったのだ。ウィルの手を掴んで起き上がる。
「わかったよ。こっちも勢いでやればいいんでしょ。」
身構えるとまたローラーで体当たりをしようとウィルが突進する。それに押し切られないように足の爪を展開して地面にめり込ませて拳を突き出した。
「正気か?腕がもげるぞ」
とナベルスが叫ぶ。
案の定激しい金属音がしたがウィルが少しズレたお陰で隣をギリギリで通過しようとする。ここで上半身ごと腕を叩きつけてバランスを崩す。決まったっと思ったけどスラスターを蒸して宙を飛んで転ぶのを回避した。
「ずるっ」
「ずるくない。このためにロケットが付いてるんだーよ。」
ここで使うとは思わなかったけどそう来たとあれば話は別。専用OSに仕組んだ攻撃用プログラムを起動する。
ある程度ジャンプしてターゲット捕捉。そこで角度のプログラムを入れていないのに気付いた。仕方ないので手動で合わせる。成る程、これが勢いね。わかってきた気がする。
「ちょちょ、本気出してきたね。」
今更慌てたってもう遅い。
「セイヤーーーーッ」
空中から特別な蹴りをお見舞いしてやる。ウィルは見誤ってか腕で頭を守って正面から受けたけど大きく後ろに倒れてそのまま試合終了となった。
ハッチを開けて声をかけると向こうは倒れたままハッチが空いた。
「大丈夫?」
「平気、平気。にしても……」
そこへナベルスがやってきて口を挟む。
「動き慣れている。魔法使いってのを認めざるを得ないな。そうだろ。」
「ああ、聞いてないよ。こんなのが出来るなんて。」
スピーカーからは大きなため息が果てしなく聞こえて来た。
FU-3200 マトリカリア
全長15m レプリカ(ジュニアWEA 10m非変形機)
簡易的な変形機能と高い生産性から数多く作られた傑作機。これと言った特徴はないが単純な構造故のタフさと汎用性が売り。モデルはΖプラス。
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