2章 8話 再会 後編

-253年9月14日(金)

 レグルス到着後は先に来ていたホノカ率いる黄鐘王国の派遣隊と合流してレグルス内部にいる様々な国や団体の人に挨拶に回ることになった。一応私たちは黄鐘王国の代表として、ではなくてホノカの使用人として来ている。だからホノカの後についていって偉い人と話さなくてはいけない。

 そもそも何でこんな所にいるのかと言うとホノカ曰く戦争が近いからだそうだ。それで窮地に陥ったバロックが本拠地の南の島から遠征していろんな国に救援を申し入れているらしい。現在バロックの君主は黄鐘の国王と話し込んでいて長い長い待ち時間を過ごさなくてはいけない。と、さっきホノカが言ってた。

 回るメンバーはホノカ、ユウゼン、ネブ、ビオラ、そして護衛としてシルバー。

「ご機嫌よう。皆さん。9ヶ月前のあれから如何お過ごしですかね」

「おや、閣下。お久しぶりです。あれから着々とメディーボウレコードの解析も進みまして、これからますます忙しくなる所でございます」

「ハハッ、MIC(軍産複合体)に面倒事を投げると良いですよ。彼らの大好物ですからね。それはそうとお土産はいかが?」

 まずは隣の政府の平調王国の団体と挨拶。お土産として黄鐘王国名物のタイヤキ(あんこ味)を渡して雑談をする。何を話せばいいかわからなくて向こうから聞かれた事にはいかいいえで答えるしか出来なかったけど他のみんなはそつなく大人の人とおしゃべり出来てて凄いなって思う。

 次はイベリア半島のアーストラス政府にホノカは声をかけるとこっちには彼の知り合いがいた。いや、さっきのといい、大人達はみんな知り合いなのかもしれないけれど今度のは子供の知り合いだ。年齢は16で名前をケネシーと言った。アーストラスの大人達に一通り挨拶して次に行く時になると後ろをついてきたのでその時に聞いたのだ。

「へえ、サキもユウゼンみたいな魔法使いなんだ。あ、ユウゼンは滅多に見せないけどすごい魔法を使えるんだよ。ねっ」

「煽ても何も出ないさ。っておい何を」

 急にケネシーはユウゼンを突き飛ばし転んだ。と思いきや彼は突然現れた水溜まりに落ちてすぐに這い出る。出たあとに水溜まりはないし濡れている様子はない。

「ね、強いでしょ」

 とケネシーは言う。その様子を見ていたホノカが「良いやり方だ」と。ああ、やっぱりまだ何にも私は知らないんだな。それより何も教えてくれない事に何だか不安を感じる。


 バビロニアから来たと云う『内通者達』に会う。他の使節団の人達何かと違って上品さは無くてあくまで仕事としてここに来ているってのが伝わる。ホノカと話すリーダーらしい人はビジネスマンって感じでそれに出会ったのがシルバーのロボットで来る時に入った兵器の格納庫だったので緊張感はなかった。そもそもシルバーの友達が騒ぎを起こしているってことで急いで向かうと出会えたのだ。

「お姉さんでしょ。ワンコロが」

「お姉さんならお淑やかに汚い口閉じてなよ」

「うっさいわね。バビロニアじゃ犬の世話もろくに出来やしないのかしら」

「野良犬に世話は余計だよー。あ、ホノカさーん。あんたの国の恥ですよ、こいつは」

 黄鐘の女性技術者とバビロニアの犬の亜人が思いっきり喧嘩中でシルバーが割って入って何とかした。兵器を共同開発してるみたいでホノカ曰く地球一の技術者達との事。

 バビロニアは今回の戦争相手だけど中には裏切り者がいて、それが彼ら。理想の為に孤独に戦う尊敬すべき相手だ。

 数人しか来てないのは秘密に出国出来る上限だったから。ただその道のプロばかり来ているから問題はない。でも今回は兵器のエネルギーの研究をしている新人が来ていて私達に是非会いたいと言っているらしい。

 その研究者を見つける為にアストロロギアは格納庫で一旦解散して各々で探すことになった。白衣に刈り上げた髪が特徴とだけ言われた。

 白衣でトムを思い出す。彼も魔法使い。人を、ーーーーにする能力。正直怖い。あの後あれを思い出して肉を見て食事中によく吐いた。今は何とかなってるけど。

 そんな事を考えながらふらふら歩いてたまたま上を向くと天井の鉄骨に白衣の人が座っていた。誰かに知らせようと辺りを見渡すとユウゼンがこっちに気付いて駆け寄る。

「何か困り事かな。レディー?」

「あれが怪しいなって思って」

 指差そうとすると、私の腕を下げて「わかった。でも、人に指差すのは失礼だ。こうやって掌を返して」とやり方をジェスチャーする。それに習ってやってみると。「素直はいい」と返す。

「褒めてはいる。でも、皮肉でもある。兄さんによると素直で頷くだけのヤツは扱い易くて可愛がられる。だから政治家はそんなヤツばかりでつまらないとよく嘆いてる」

「それは……仕方ないんじゃないかな」

「フッ。確かに。こうも言ってた。独自に動く政治家は必要とされる事自体が異常だと。何だ。良くわかってるじゃないか。」

 満足気に微笑むと「さて、あれだね。直接聞きに行こう」と言いながら肩に手を回して抱き寄せる。

「ちょ。こんな所で」

「大丈夫。息は吸えるから」

 直後に足元に水溜まりが出現して二人して落ちる。すると目線が水溜まりの水面スレスレで止まる。体は水の中にいるような感覚でそのまま水溜まりは走るぐらいの速度で移動して壁を登る。

「なにこれ」

 声は出るけど何処から出ているのかわからない。不思議な感じだ。

「俺の力だよ。身体を波にする。ものの表面を進んだり貫通したり出来る。もう知られたから隠す必要ないと思ってね」

 これが能力を使っている感覚。自分の体についてはいるけど動かせないものを動かしているような感覚。髪を腕のように動かしているような感じだ。これで能力が使えるんだ。じゃあ私にも?

 あっという間に天井に着き白衣の人の前に辿り着く。薄々気付いていたけどやっぱり彼だ。

「久しぶり。サキ。能力は使えるようになったかい」

「久しぶりね。トム。まだ使えないよ」

 すると私に指を差す。いや、あの形はピストルだから違うんかな。

「何か掴んだね。僕には分かる。」

 私の前にユウゼンが割って入る。

「指差すのは失礼だよ」

「あ、すまない。誰だい君。」

「俺はユウゼン・クサナギ。ホノカの弟さ。あんたの事はサキから聞いてる。とんでもないヤツだってね。ドクターストレンジラブ。」

「面白い言い方するね。ま、いいや。じゃ、サキ。君の能力で降りてごらん。前回の発動は未曾有の危機に自然と反応した結果だ。理論上可能な筈だよ」

 そう言うとトムは下の床に落ちて行く。ロボット用の格納庫だから結構高いけど彼は膝を曲げるだけで着地した。

「おかしいよあの人。おいで、俺の力は落下の衝撃を無効化出来る」

 その言葉に甘えて近寄るとまた肩を引き寄せる。

「ひぇ」

「ん?どうしたんだい」

 下を向いて頷く。

「ああ、もう行けって。わかった」

 そして飛び降りる。みるみる床が加速して 近づいて怖すぎる。そして床に足が着きそうになる前に目を閉じた。

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