2章 7話 再会 前編

-253年9月14日(金)

「史学は重要だよ。簡単に誰かの経験を簡単に自分のものに出来る。是非受けていきなさい」

 ホノカにそう言われて授業を受けている。嫌ではないけど今日がアストロロギアの初仕事だというのに吞気にしているのは落ち着かない。ギリギリになってから迎えに来て貰うようになっているのだけど。

 歴史はユウゼンが言うより厚みがあった。というのもこの国がうまれる前の歴史が一番面白いからかもしれない。授業自体は2000年頃からの話でそれより前の時代は中学校でやったよね?って状態でスタートした。

 色々衝撃的な事件なんかがあったけどまず戦争が無くなった。それは核抑止が大きく働いた事、重要な資産が物から知識になった事が原因だと云う。

 核を使ってしまえば全滅するまで戦う戦争になってしまう。だから戦争は起こせなくなってしまった。

 そして土地に由来する資源を狙って争うよりも優秀な企業を奪った方が儲かる時代になっていた。つまり中東で石油を奪うよりシリコンバレーで人を奪った方が儲かる。との事らしい。

 なのに起きた戦争。2030年から10年間続いた大戦。世間ではラグナロックとか第三次大戦とか言うけどここでは中亜戦役と紹介された。先生が言うにはこの戦争はモノとか知識じゃなくて正義をかけて戦ったらしい。

 勿論生徒からは理解出来ないとの声がちらほら聞こえてくる。確かに、金とか場所とかそういうものにこだわらない戦争は私も意味が判らない。でもそれについて先生は何も言わなかった。

 授業が終わりに差し掛かると外から風の音と大きな機械音が近づいてきて廊下が遠くの部屋から騒がしくなる。

「この際締結されたのが2030マドリード条約で、そこで規制されたものの一つが改造人類になる」

「でも当時のUSAは製造してましたよね」

「そうだよ、そう。実際には軍事運用されることはなくって、戦後に対放射能用に転用されるんだがね。いい事言った。誰?今の。……君かあ」

 先生の視線を辿るとユウゼンが教室の入り口に立っている。

「サキ、ヴィオラ。パーティーの時間だ。40秒待ってやる」

 それを聞いて急いで荷物をカバンに詰める。

「先生、ごめん。急がなきゃいけないから行ってくる(カチッサー効果)」

「大丈夫。ホノカ様から聞いてるよ。いってらっしゃい。」

 廊下を早歩きでユウゼンに案内されるままに進んでいく。

「ホノカってどこまで有名なの?」

 ビオラに聞くと首を傾げる。

「あれ言ってなかった?この国の人ならみんな知ってるよ」

「フウン。余りに有名過ぎる話は全く話題にならなくなると兄さんは言っていたよ。大公殿下だからね。無理もない」

 大公⁉︎驚いた。国王の子供だなんて。

「ひょっとして凄い人の近くにいる?」

「灯台下暗しってやつだね」

 校舎から出て離れた所にある城壁を登っていくと大きなロボットが向こうに座っている。城壁の上からロボットの胸にあるコックピットにいけるみたいで近くにシルバーが待っていた。

「これ、この前拾ったやつだろ。随分自己主張の激しい色だね」

「威嚇するには十分だろ。さっ、乗って乗って」

 コックピットの中は座席が一つしかなくてその席にくっついている手すりに掴まるとロボットが動き出す。

「ここ、掴まんなくていいから。ユウゼンみたいに楽にしてて」

 見るとユウゼンはモニターの壁に寄りかかって外の景色を眺めている。でも私とビオラは手すりに掴まっていた。

 ロボットは真っ直ぐ上に飛んだかと思うと正面に向かって空を飛ぶ。なる程、全く揺れないから掴まらなくてもいいみたいだ。360度のモニターに映し出される外の景色は巨大な網模様が地面に映し出されていて空に投げ飛ばされたと言うよりも空飛ぶ絨毯に乗っているみたいだ。

「何で揺れないの?これ」

「詳しいことは軍の機密事項だから言えんが、まあ、一種の魔法を使ってるんだな」

 暫く飛んでいると雲の中から大きな人工物が空に見える。ラピュタみたいなそれは長方形の板が何枚も重なっているようだった。

「あれって、あれがバロック?」

「うん。レグルス・アルカ。バロックの動く領土。250年前に建造された空中空母だよ」

 ビオラが解説するとみるみるレグルスは巨大になって行く。余りにも大き過ぎて距離感が狂っていたんだ。

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