2章 6話 運動靴を探すカゲ
-新生歴253年9月8日(土)
「ごめんくださーい」
中には誰もいない。中は掃除をきちんとしているみたいで綺麗だった。
木の長机を撫でて歩いていく。白いゴシック様式の壁。ステンドガラス。イエスのいない十字架。テレビとか映画で見るようなごくごく普通の教会。なろう小説によく出てくる感じのやつだ。
祭壇の周り、控え室的な?部屋は扉が開きっぱなしで覗いても誰もいない。
反対側の部屋も見ようとして祭壇の前を横切ろうとした瞬間身体がフワッとしたと思ったら床に吸い込まれていく。
「んが」
変な声をだして柔らかい地面に叩きつけられる。と同時に頭の上から布が覆い被さる。それをどけて上を見ると教会の天井が四角く切り取られていて周りは真っ暗。
布を見て気付いた。どうやらカーペットのしたの落とし穴に落ちたらしい。けど梯子がついているので秘密基地かもしれない。
梯子を登ろうとして手をかけると目の前の暗闇に何か光る物がある。
「動くな」
「ひっ」
その光る物から声してびっくりしてまた変な声が出た。よく見るとピストルを持った手が暗闇から伸びている。
「オマエは誰だ。連邦警察か?バビ公の犬か?」
ピストルを構えたままゆっくりと歩み寄って来て姿が見える。身長は私より一回り小さい。いや、同じぐらい。声はガラガラしてて若い女の人の声。パーカーのフードを深く被ってて顔は見えない。
「え、あ、あの、黄鐘高校の広報委員です。アンケートに答えて貰いたくて来ました」
「子供?」
そう言って一旦離れると部屋の電気をつけてフードを取った。茶髪のショートボブ。リカちゃん人形似。や、ロシア美女っぽい。
部屋は石の壁で鉄製格子の棚が沢山置いてあってそこには機械とモニターが並んでいる。控えめに言って秘密基地。
「え、と。あなたも子供、だよね」
「あー。ちっこいからって舐めた真似すんなよ」
拳銃を腰のホルスターにしまいながら言う。
「あ、すいません」
「学生証」
「え?」
不機嫌そうな顔で近付いて来たけどホントに可愛い顔をしていたから相手の顔をじっと見ていた。
「持ってんだろ?学生証だよ。だせよ」
差し出すと奪い取ってそれを何かの機械に差し込む。
暫く時間がかかっているので棚の機械を見ると知っているものが置いてあった。たぶんPS3だ。お父さんが借りて来たDVD観てたやつ。と言うかアマプラ契約するまで私も使っていた。
身近な物が未来でも生き残っているって何だか嬉しい。全く知らない世界だけどちゃんと地続きの場所なんだ。
「動くなと言ったはずだ」
「ごめん」
顔を見たからかもう、全く恐いと思わなくなった。
「偽造じゃねえし発信機もない。おら。返す」
「何これ」
学生証の裏側に黒いプラスチックの塊が張り付いていた。
「オマエは監視対象だ。偶然入り込むにしては虫がよすぎる」
ホノカにアンケートのルートについては口外しないように言われている。偶然でいいや。
「あの、次は渓谷街に行きたいんだけど、道を教えてくれない?」
「恐れ知らずだな、オマエ」
「そんな可愛い顔して怖がるなんて無理があるよ」
「はあーー。マジか……どすっかな」
前髪をかき上げて考えた後でついてくるように言って棚をどけて隠してあった扉の奥に進んで行った。
聞くと戦前に作られたバーリントンと呼ばれるシェルターとそれを繋ぐ地下通路がロンドン中に張り巡らされているらしい。そして渓谷街は戦争中に避難してきた人が拡張工事をしてできた街らしくて今のバーリントンはほぼ無人かさっきみたいな秘密基地になっているけど渓谷街だけまだ人が住んでいるとの事。
「勉強してから来いよ。これぐらい。新聞とかラヂオとか情報媒体はあるだろうに」
「どういうものを読めばいい?」
「あ?ミッドガルド・ジャーナルでも読め。黄鐘大学の図書館にあんだろ」
アストロロギアでネブが読んでたやつな気がする。
「後で、読んでみる。……ところでさ。私の名前教えたんだからあなたの名前。教えてよ」
「馴れ馴れしいな。こっちはピストル持ってんだぞ」
「うん。でもそれ、弾入ってないよね」
「これの知識はあんのかよ」
「持ち手の所が光るじゃん」
そう言った瞬間。ハッとした表情で私の顔を見た。
「あ、なんでもねえよ」
「教えてよーー」
「俺の名前はホワイトムーンだ。そろそろ着くぞ」
目の前に暖簾みたいのがあってそれを潜ると油と鉄臭い薄暗い場所に出た。マンションみたいに部屋番号が書かれた扉が並んでいて錆びた階段を降りると木の板で出来た隙間だらけの地面に降りた。そこから人が行き交う通りに出る。真っ直ぐ行くと明るいところがあって上を見たら日の光が差し込んでいた。
「俺の存在を他人に教えるなよ。それだけ約束してくれ」
「うん、わかった」
明るさに目が慣れるとわかるけどここは大きな吹き抜けになっていて壁には洞窟の穴みたいになっている。そこに行くための今にも崩れそうな年季の入った茶色い足場が幾つも積み重なっている。そこに店の看板がいくつもつけられていて、ちょっとうるさい感じがする。
行き交う人々の中にはネブみたいなロボットも多い。それと変な真っ黒い人も。ちょっと恐いところだと思う。
それを聞こうとおもったらもうホワイトムーンはいなかった。お礼を言ってなかった。
ひとまずアンケートをとる。アンケートの注意書きにあった偏りすぎない、を守って勇気を出してロボットとかに声をかけると案外普通の人間と変わらない反応だった。
「えらいですね。一人でよく頑張っている。これを差し上げます」
紙に包まれた多分お菓子をくれた。
「え、いいんですか?」
「私はお腹いっぱいで食べれませんので」
とロボットのおじさんは言った。まあ食べれないわな。
開けて食べるとめちゃ甘いチョコレートだった。
「闘技場でWEA相手にあの常勝の狼が戦うってさ」
その声の方を向くと人集りが日の差す吹き抜けの中心で出来ている。見に行くとなんとミーシャが円に並んだ客席の真ん中。低くなっている広場に斧を背負ってストレッチをしている。
その向かい側には10mぐらいの大きな四本足のロボットがある。胸の蓋が空いていて中で人が機械を触っているのが見える。
「なにあれ。ミーシャなにやってるの?」
独り言を喋ったら隣にいた女の人が反応した。
「んん。ミーシャを知ってるの?」
「え。うん。私、お世話になった事があって」
「え?じゃあ、あなたはムラサキ・クロス?」
うなずくと近くの街灯につけられたスピーカーからブザーの音が聴こえてきた。
「説明は後。今はあの人の勇姿を目に焼き付けておきなさい」と言ってその女の人は舞台を見た。
スピーカーから今度はカウントダウンがしてゼロの合図でいつか見たマントをしたミーシャは斧を構えて突進していく。ロボットがブレードを横に振るとスライディングして交わす。その瞬間、ガツンと大きな金属音がしてロボットがよろめき、その間に胸元。運転席の蓋目掛けてミーシャは高くジャンプして斧を頭の上に構える。その時ロボットのもう一方の手が彼女を弾き飛ばして舞台の壁に打ち付けられる。
「ひっ。やめてよ」
そう思わず言ったけどミーシャは別になんともなくてロボットの目の前に立っていた。吹き飛ばされたのは斧だったみたい。
ミーシャはクナイを何処からか取り出すとロボットの周りを凄く近づきながら回ってそれを追いかけようと回転するロボットの上半身にクナイを投げている。するとロボットは急に足をドンと踏み鳴らしてミーシャは転んでしまった。
そこをまた弾き飛ばそうとロボットが腕を振り上げると、上げた姿勢のまま固まった。その隙にミーシャは斧を取りにいって戻ってくるとき丁度腕が振り下ろされた。ミーシャはそれを真横にジャンプして回避、斧はそのままの場所に置いてロボットの腕を切った。反対の腕でまた弾き飛ばそうとするけどこれも振り上げた状態で固まって、その間に操縦席の蓋を切った。いや、叩き壊した。
周りはそれまで大盛り上がりだったけど決着がついた瞬間、時間が止まったように誰も何も言わなくなって。少ししたらロボットの上半身の位置が下がって力がなくなったようになった。
それをみんな待っていたかのように歓声が起こってミーシャはロボットの上に登ってピースサインをして笑っていた。それを色んな方向を見てしていたから目があった。こっちもピースして見せたら驚いた顔をして見つめ返してくる。
「へー、面白そうな友達じゃない」
「そう。でね、日本の文化を一言言う度にああじゃない、こうじゃないってすごいんだよ」
試合が終わってミーシャに近づくと彼女の今住んでいる家に案内されてそこで沢山おしゃべりした。
家は全部木で出来てて、隙間風がうるさいし、その風はなんか生臭いしで生活感がある。居心地のいい家というか部屋だった。家具は引っ越した時からあったものを使っているらしいけどこれも木製で温かみを感じる。
そこで私は自分の事からと思って、コロラド卿の屋敷での生活。学校とアストロロギアで出来た友達の事を詳しく話した。
「馴染めてるみたいで良かった。来週のお仕事ってヤツも頑張って。応援してるぞ」
と言って頭を撫でてくれると同時に玄関からノックの音がする。
「開いてるよ」
「ハイ。ハニィ、優勝祝いのケーキとプロジィからの伝言よ。あら、先客」
「ども」
「あいつはサミィ。アタシが世話になってる」
「世話なんてそんな大層な事してないわよ。この部屋探してあげただけじゃない。後はあなたの力よ」
「えと、どういう関係?」
「恋人よ」
「ええ」
聞くとサミーが一目惚れして親切にして貰ってるみたい。ミーシャはちょっと厄介に思ってるらしくて自分の力だけで食べていってるとの事。
それを出されたケーキを食べながら聴いた。ちゃんと三人分用意しててえらいなって思う。
さっきミーシャが戦っていたのは古くからあるロボット同士の格闘技。昔はもっぱらロボット同士しか戦わなかったけど今では亞人や魔獣と言ったなんかすごいやつとごっちゃになって戦うそう。
それよりどうしてこんな薄暗い所に住んでいるのか聞いた。
「あーー。コロラド卿から何も聞いてないか」
「あの獣人が借金を返すまで面倒見るって。それだけ」
実際言葉通りらしい。ミーシャが精一杯、借金を返す間、卿にどうするか聞かれて半ば強制的に決めさせた。勿論何をされるかわからないから定期的に報告させているとの事。
「これがその報告。ま、そのまんまで良かった」
壁にかかってるテレビに写真が映る。それを見てコロラド卿のやさしさがなんとなく伝わった。それはビオラが撮った私の写真だ。とっても綺麗に撮れていて何だか恥ずかしい。
「飽きないわね。いつ見ても」
そうサミーが言う。
「いつ見てるの」
「毎日見てる」
とミーシャが答える。
もっと恥ずかしくなって下を見たらアンケートを思い出した。そして二人からも意見を聞く。
「随分政治的な内容が多いなあ。そのアストロなんとかってグループ。すごい事してるね。でもまあバビロニアとの緊張関係故か。まあ国家に縛られないアタシにはその時はその時って感じだね」
「わたしはここで生まれたし、思い入れがあるけどね」
アンケートを取るってもう遅いから帰ろうとするとミーシャが地上まで送ってくれる事になった。来る時どうしたのか聞かれたけどホワイトムーンにここを教えてくれたお礼も込めて教えない事にした。
「ありがとう。ミーシャが私の事。大事に思ってくれて嬉しかった」
「かわいい妹みたいな感じだからね。でもサキはメルバと違って、似てるんだよ。どこかアタシと」
アンケートに同封された資料では一通り終わったら来るように書かれた建物がある。大通り沿いのその建物の前でミーシャと別れた。
古風なアパートっぽい建物で資料通り開いてる玄関から入って2階に上がって西側の部屋に入るとテレビでゲームをしているホノカとユウゼンがいた。
「ただいま」
そう言うように云われている。
「おかえり。サキも遊ぶかい?」
シューティングゲームらしいけど上手く出来る気はしないから黙って見ていた。ユウゼンはそこまで上手ではない感じだけどホノカは指がガシガシ動いてどう見てもスーパープレイを見せていた。
「僕はいつだって真実を知りたい。その為に動いている。それがどんなものであろうと受け入れてみせるさ。もう戦わないと思っていた人が自分の知らない所で機械と戦っていたりしてもね」
「知ってたの?」
驚いて聞く。
「気にはなっていただろう」
その言葉に小さく頷いた。
「やっぱりそれやらせて」
ホノカからコントローラを貰うと画面の敵を一掃し始めた。
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