2章 FIRE 1話

「君ぃ。そこの危ない目をしている貴方」

 空港の窓からとある飛行機を眺める半袖のパーカー姿の人間を指してそう呼んだ。フードにマスク。足にはジーパンが隙間から見える義足の様なものをしている。背は僕より少しばかり高い185cm位、義足の膝部分から考えると本来の身長はマイナス5cm。髪はサキのような天使の輪が見えるであろう黒。目の色も同じ。

 振り返りこちらに歩いて来ると思うとそのまま通り過ぎる。

「おっと無視しないでください」

 すると彼はこちらを見ずに立ち止まった。

「要件を述べよ」

「僕はさっきの彼女達の仲間なんですよ。ええ。一緒に連れてくってのは出来ないでしょうか」

「奴らを飛行機に乗せたのは女と子供であるからだ。貴様も腕が片方斬り落とされていれば話は別だったかもしれんな」

「成る程、わかりました。それでいいんですね、腕を斬り落としますよ?」

 彼、カイセイは無言でこちらを見ている。早く切れと言わんばかりの態度だが本当に何も言わない。

「何も言わないなんてずるいじゃないですか。本当にカットしても嘘でしたーーで終わらせるんですか。冗談じゃない。男女は平等であって然るべきだと僕は思うのですがね」

「ついて来い」

 半ば諦めた口調で呟く。

「ん?そっちは出口ですよ」

 カイセイはとても速い歩きで駐車場まで行く。そこには彼の所有物らしいピックアップトラックが止められていた。

「生き残りたくば協力せよ」

 適当に頷くと指示されたので運転席に搭乗する。どうやら自動運転らしいがAIが無能で見張りをする役割が与えられたようだ。彼が見慣れない機械の積まれる荷台に乗り込むと勝手に車が走り出した。

 彼は盗賊団に雇われた者だろう。ミーシャもそれを理解している。ただ現在彼は目の敵である筈の僕らを逃がす行動に出ている。だから僕はアメリカに残り彼を見張って彼女らの飛行機が出発した直後に接触を試みた。ミーシャからの情報によると盗賊は戦う事しか脳のない退役軍人を雇い危険分子を排除すると言う。僕の予測では今度は彼が命令違反の危険分子だろう。ならどうするのか。研究者の悪い性で予測を立てたなら結末も見たくなる。結果がどうであれ。

 車の発進直後に荷台から「バチッ」とスパークの音がした。振り返ると長銃身の上下が分離したライフルを後ろを向いて構えていた。

「ダッシュボードにブラスターがしまってある。そいつを貴様にくれてやる」

 その声が車に備え付けられたモニターから聞こえる。

「ありがとう。カイセイさん」

 ブラスターは以前盗賊から盗んだ物と同じ形。デザインはルガーP08にやや似ており記憶が正しければ黄色い閃光を放つ。幸いにもこれを使う機会には出会わず、暫く車は海岸沿いの道を西に進み、今、いや過去で言うニューヨーク水族館が存在した辺りの家の前に停車する。運転AIは問題を起こさなかった。

 窓から辺りを見渡すとここもマンハッタンと同じく廃墟都市となってしまっている。デトロイトのように見えるが唯一まだ住人が見受けられると言った違いがある。

「貧困街(スラム)だな。どこも」

 ため息をつくと聞かれていたようで「大戦前ならそう吐き捨てられとも仕方あるまいな」と言う。

 荷台から電子音が聞こえたと思うと家のガレージの扉が開き、僕らを乗せたまま車はきちんと後ろ向きに入っていく。

「お見事」

 車から降りてそう発するとカイセイはガレージ内の作業机に座り機械を並べている。

 さっき戦前戦前と言ったな。戦争か。科学技術は医療目的か戦争で著しく発展する。そう、この街の裏側では見たことのないテクノロジーが蠢き戦争の明日を支えている筈だ。とても興味深く心躍る。それが例え簡単に人を殺める物でも。声に出してはサイコパスと言われるかな。

「信じて貰えるとは期待していないんですが、僕は遥か過去。えー、戦前から来たのですよ。あなた方がアプレゲールだからここが栄えていた光景が脳裏に浮かんでただ……悲しくなるのです」

 カイセイは機械を弄りながら「そうか」と一言呟いた。

 必要以上に口を開けないのは何だろう。もしや信用されていないのか?ブラスターを渡したんだ、そんなことはない。なら性格の問題だろう。困った子だ。

「これからどうされますかな?僕に出来ることならお手伝いしますよ」

「屋内で話す」

 カイセイは機械弄りに飽きたのか階段を昇る。そうかここは屋外か。その発想はなかった。

 案内されたダイニングキッチンでぼろぼろの今にも崩れそうなソファーに座るよう指示され彼自身もまた錆びた椅子に座る。すると部屋から台車に2本のアームが付いたロボットが現れコップを渡す。

「紅茶と蒸留水。どちらにしますか?」

と聞かれたので反射的に水を頼むと台車の中からホースが出てきて注いでくれる。

「その機械は先程まで車を運転していた者だ」

 成る程と水を飲みながらじっと見つめる。

「ユリシーズ。スクリーンアップ」

 そうカイセイが呟くとロボのアームから光が照射され、目の前のテーブルに地図を映し出す。

「少し待て」

 彼は今までつけていたマスクを外す。

「これで貴様には正直者だと感じるだろうか?」

「ええ。感じますよ。それにしても綺麗な顔ですね。それが隠す理由に思えます。変に期待した阿呆が寄ってきそうですね」

「確かに。ただ、襲ってきた者は全員相応の処置をした。身体が目的なら喜んで売る者が街にいるのに。見苦しいものだ」

 自画自賛に聞こえる台詞も本心であろう。モンゴロイドで吊り目気味。後は髪を整えてやればすっかり美人の出来上がり。モテる訳だ。僕だってこんな妻が欲しい。

「じゃあ僕も腹を割って話しましょう。名はツトム・レアード。ツは言いにくいので言わなくても構いません。戦前のアメリカ中央情報局でエネクス粒子の研究をしておりました」

「カイセイ・ムラカミだ。性別は女性。訳あって盗賊の用心棒をしている。これから話す内容は他言無用にしてくれ」

「勿論」

 テーブルに数々の画像を見せながら説明を始める。機械に関する知識もさることながらプレゼンも優秀だ。その理由は直後に知ることになる。

 曰く彼女は用心棒になる前、海を越えた先の過去で言うトルコにあたる場所に存在する神聖バビロニア共和国に他国石の傭兵として在籍していたものの第3次アナトリア戦争でドイツの場所にある平調王国の捕虜として捕まっていたとの事だ。外国人傭兵部隊長であり、一人きりの部隊として機動兵器、WEAを駆り戦って来たそう。余計な質問だが撃墜数を尋ねると106機と言うが優劣を判断しかねる。

 やがて自分が撃墜されると捕虜になるも隙を見て脱走。そして貨物船で密入国し今に至る。

「それで?」

「ここの盗賊にも嫌われてしまった。だからまた本国に帰還しようと考えている。貴様はエネクスの科学者と言ったな。なら手伝える筈だ」

 どうやらバビロニアに直接向かう飛行機は無く、かと言ってここから隣国の平調に向かおうものなら逮捕されてしまう。なのでWEAを使うと言う。

 大戦時に生まれた新たな兵器のWEAは空を自由に飛ぶ事が可能らしい。さっきの車の荷台に積んであったものはそれの一部で、あれを完全な形に出来れば海を越えることなど造作もない。


 WEAは現在地のニューヨーク水族館から東北に飛行しジョン・F・ケネディ国際空港から出る飛行機に張り付きドイツ上空で切り離す。そこから自力でトルコまで飛ぶ算段だ。

 その準備として水族館に街から掻き集めたWEAの部品を運び込み組立てる。昔は賑わっていたであろう場所に全自動の小さなクレーン車を運び部品を整理した。兵器の機能は戦闘機だが実際は人型ロボでしかもこれが変形して高速で飛行出来る。こんなものが素人でも組み立てられるよう全てがモジュール化され、他社製でも対応する。

 ただ組立てるだけではなく難点も多い。街から供給出来るパーツは作業用WEAのパーツであり、スラスターや高出力ジェネレーターは殆ど見当たらない。

 これに関しては田舎の方にある発掘店で探す事になった。驚くべきことにWEAは大戦から200年たった今でも稼働可能な状態で地下から発掘されるらしく丈夫なものは街で取り扱われるそうだ。過去の世界ではドイツの戦時機関車が異常な耐久性を見せたものの200年も朽ち果てないとは神秘すら感じてしまう。

 大きなトラックをカイセイが何処からか用意し、共に店に向かう。

 発掘店で完全な形で見つかったWEAが屋外に鎮座していた。カイセイ曰くNT社製第三世代WEAだと言う。ジェネレーターは動作テストをしておらずスラスターも同様と店主は話すとカイセイは胸部ブロックとスラスターユニットだけを購入した。

「貴様はエネクス粒子の運動置換作用は存じているか」

「ああ、知ってますよ。まさかそれを使っているのかい?」

「燃料は帰りながら購入する。できるな」

「頑張ります」

 エネクス粒子第三法則の運動置換を用いた小型核融合炉の研究は僕の所属する研究所で開発されていた。その完成機が今目の前にあるこのジェネレーターだ。とても小さくて高さ1m、両横幅2m程に収まっている。当時は完成間近でそこに空間操作系能力を持つであろうサキを追加する事で完成する筈だったのに。

 水族館でジェネレーターを分解し街で購入した電卓と言う名のタブレット端末で参考資料を眺めると大体の仕組みは理解出来る。未来の技術に驚かされたが何より思う事はサキの能力が要らなかった事だ。

 何故か僕は慌ててジェネレーターの製作者を調べる。僕や知り合いの名前は出てこない。ただNT社とその子会社が実用化したとある。

「手が止まっているぞ。どうした」

 カイセイに指摘されて我に帰る。

「すみません。そうですね。予想以上に時間がかかりそうです」

「そうか」

 言いたい事は沢山有るだろうに。こんな気違いに頼るしかない状況は辛いだろうな。

 電卓でさらに調べていくと、ジェネレーターの技術はアメリカから提供されNT社の子会社が製造したとの情報が見つかった。残念ながら誰が研究した技術かはわからずじまいだった。

 購入したジェネレーターはタイプ3トカマク型汎用小型核融合炉と言い、スペック上では十分な火力を持ち尚且つ状態も良いのが救いだった。欠けた部品をカイセイが集めた廃棄品のジェネレーターから得て、燃料の三重水素を用意。起動の為にコックピットブロックとジェネレーターだけを取り付けてテストする。起動に関してはカイセイも協力した。

「問題ない」

 ジェネレーターが起動した後暫くしてからコックピットからその声が飛び出す。

「後一息ですね」

「ああ」

 WEAの設計自体はカイセイがしてくれたので組み立てはスムースに進んだ。胴体に下半身。腕と組み上がり遂にWEAが立ち上がった時は心地よい達成感がする。

 全高14m、重量20t、センサー探査範囲は半径100km、頭部の角は無線通信の送受信用。カラーリングは画家が汚したエプロンのようでカイセイは「パッチワーク」と名付けた。奇跡的にスラスター類は稼働し、安定して飛行出来るとの事だ。正直スラスターに関する知識は全くないので有り難かった。

 後は燃料はタンクとウィングを取り付けて完成する。


 パッチワークは背中から乗り込む。これは緊急脱出の際、コックピットブロックが背中から射出される為だと言う。

 コックピット内は一周する横長のモニターがあり真上と真下用のモニターが別にある。コックピットシートは左側に寄せて右側には僕が座る仮設のシートが備え付けられる。

 シートに座ると既に隣に居たカイセイがレバー型の操縦桿を握ったまま目を閉じて居る。

「あるべき場所に還ってきた様な妙な安心感だ。有り難う」

「礼を言うのはこちらも同じです。良い仲間と会えてとても嬉しい」

 小声で自分に語りかける様な声を聞き逃さなかった。

「仲間か。照れ臭いな」

 人間味を感じて安心した。これも仕事の一種と考えていたかも知れないから。それと同時に少し突いてみたくなった。

「今、何て言いました?」

「飛行テストを開始する。そう言った」

 パッチワークが二足歩行で走り出す。勿論揺れは尋常じゃない。ベルトで身体をしっかり固定している筈なのに激しく動くから今にも飛んでいってしまいそうだ。

 海岸の砂浜に出るとカイセイはスイッチを操作してスラスターを吹かす。すると機体が徐々に浮いていく。

「おお、素晴らしい。飛んでる。飛んでるよ僕」

「平和だな」

 実際はそれ程飛んでおらず、傍から観ればホバークラフトと思うだろう。脚部と腰のスラスターを使いそのまま海に直進する。

「変形を試す。衝撃に備えろ」

 激しい駆動音が一瞬聞こえて上下の小さな揺れが来る。

「凄いですね。一瞬だった」

「0.3秒長い。調整が必要だ」

 0.8秒程しかかからなかったのに厳しい評価をするんだな。不思議に思って聞くと0.5秒で普通の変形時間だと言う。それ以上長いと打ち落とされるらしい。

 何はともあれ、海上を低空飛行から100m程上空に上がったりと一通り試験してからまた水族館に隠れる様にパッチワークを運ぶ。聞かなければ知り得ない事だが家にいたロボットのAI、ユリシーズは元々WEA用の補助プログラムだそうだ。あれが補助をする為、僕はただ乗っているだけでいいらしい。

「じゃあ、後は明日ですね」

「そうだな。拙者はパッチワークの調整をしなくてはいけない。貴様は明日に備えて休むと良い」

 何もしていないと思いながらカイセイの家に帰ろうとするとふと思い立ってマンハッタンに向かう。世話になった人に挨拶をする為だ。

 ミヨス医師の元へ行くと先客がいた様なので診察室の扉の前で暫く待つことにした。しかし思いの外扉がすぐ開きドクターが顔を出す。

「やあ、ドクター。お時間ありますか?」

「おお、貴方か。遠慮せずに、さあ、入って」

「紹介しよう。私の弟子達だ。今、細菌について教えていた所だよ」

 弟子という2人の若者が部屋に居た。そのうち一人は訪問診療の為、直ぐに出かけてもう一人の方と会話をした。

「ミヨス先生から聞きました。事故で全く知らない所に来ても一生懸命に生きている学者が居ると」

「ああ、そうだけど。ドクター。どこまで話したんです?」

「嘘つくもの面倒だから全部話したなあ」

 信じているのか聞くとこの世界に来た時に持ってきたあの実験室を見て確信したという。詳しくはあの実験室の壁が現在の技術で製造出来ないものだったとのこと。

 そこまで聞いたところで僕が傭兵カイセイと共にバビロニアに行く事を伝えた。バビロニアではカイセイの手引きで可能性としては薄いながらもWEA研究所に入ろうとの考えを示して意見を貰う。

「バビロニアは軍事に力を入れ過ぎたせいで周辺各国から孤立しつつある。だからこの先自由に他国に渡れなくなるかもしれん。わかっているだろうけど現に平調と休戦中で一触即発といった状況なんだよ」

「そうですね。しかし軍関係の仕事で尚且つ非戦闘員であれば安定して食べて行けるとも考えられます。そうした意味であれば幸せなのでは」

 ドクターと弟子の意見は十分参考になる。自然とドクターがマイナスの面を、弟子君がプラスの面を言い公正で良い。成る程、向こうでは立ち位置を慎重に選ばなければいけないな。

「他に何かありますか?例えば政治の仕組みとか教えてくれると助かります」

「あそこはしっかり民主主義を遂行している。今は戦争で領土を取ろうとする議員達が多いだけだ。まああの気運は今後暫く続くだろう」

 ドクター曰く、またバルカン半島が火薬庫になっていて、暫くこの停滞状態が続けば政府の信用が落ちて収まるとの見解だ。弟子君も同じ考えとのこと。

「何よりも自分の身体が大切だ。元気で」

 帰ろうとするとそうドクターに言われる。


 WEAはグングン加速して上空を目指す。すると真上に飛行機の腹が見えて背中のアームで固定される。外から見るとコバンザメのようで明らかに不自然だが寄生先の飛行機の無線をジャックしたカイセイ曰く気付かれていないそうだ。

 計算通りなら9時間20分で到着する。

 しかし4時間経過した時に問題が発生した。

「待って。トイレはないですかな?」

「外でしろ」

「飛行機で借りれないかな」

「待ってろ」

 大人しく待っているとカイセイが座席下の扉からプラスチック製の容器を出してくれた。

 マスク越しにもわかる様な嫌な顔をされながら渡され、礼を言って受け取る。立ってしたいがそこまで広くないので座ったままする。

「こぼすかも。すいませんね」

「降ろすぞ」

 うん。ここまでは平和で安全に来ている。後はドイツ、今の平調王国上空で切り離すイベントがある。しかしそこでトラブルがあった。寄生先の飛行機から分離する際にぶつかってしまったのだ。カイセイは無線通信を傍受して確認したが残念なことにこの機体が見つかり、軍に連絡されてしまった事を知る。

「どう相手は動くのでしょう?」

「案ずるな。逃げ切れば良いだけだ」

 するとアラート音と共にユリシーズが後方からの敵機接近を伝える。

「敵影2。98km後方。7時。112m下。両機FW-3200B-2です」

「近いな。逃げ切れるか?」

「最高速度で大幅な遅れをとります。マスター。慎重な判断を」

「制御を戦闘モードに移行する」

「了解。戦闘モードに切り替えます」

 途端に周りのモニターの端の部分に後方カメラが写した敵機が見える。

「一度交渉しませんか?旅行者だって言えば何とかなるかも知れませんよ」

 と提案すると「制御で忙しいから替わりに話せ」と返される。カイセイが無線機周波数を合わせると声が聞こえてきた。

「こちら平調王国軍。聞こえているなら返事をして欲しい」

 相手方のWEAは我々に追い付くと挟み込む様に両側に並走飛行する。

「OK。聞こえていますよ」

「貴方は我が国の領空に侵入している。至急撤退を願いたい」

「アメリカ大陸からインドまでの旅行者なのです。今更帰れと言われましても」

「なら審査の為、同行願いたい」

 カイセイに目でどうするか聞くと代わりに答えてくれた。

「拒否する」

 通信は打ち切られ威嚇射撃が飛んでくる。人型に変形して敵機を踏みつけると相手も人型になりもつれあいながら落下していった。機体内部は無重力状態になるもカイセイは冷静な判断で相手を殴り続けて隙を見て光線銃を奪う。

 取った瞬間に相手を蹴り飛ばしてまた変形して元の高度に戻ろうとすると、もう一方のWEAが輝くブロードソードで斬りつけようと襲いかかる。

 それを横向きのスラスターを吹かして避けるも地面は直ぐ傍まで近付いていた。

「不時着する。しっかり座席に掴まれ」

 言われた直後に街の道路に背中から墜落する。直前に人型に変形していたので背中にはスラスターがあり噴射させると道路を滑る様に後ろ向きに飛行する。

「ユリシーズ。ルートを検索。レーダーを切れ」

「了解」

 機体を反転させて車がそれ程走っていない道路をホバー走行で移動する。上空には敵影がまだついてくるものの攻撃する事はない。

「きついんじゃないですかね。やっぱり投降した方が」

「戯言を。あんな奴等敵ではない」

 上昇するとまたあの光るソードを手に二機が飛びかかる。それをスラスターを逆噴射して交わすと後ろをとる形になる。そこで奪った光線銃を背中に浴びせると2機ともしたの道路を壊しながら墜落し、追って来なくなった。ジェネレーターを機能停止に追い込んだのだ。あれは穴でも開けられようものなら燃料が漏れ出して作動しなくなる。

「凄いですね。一人で二機も」

「パッチワークは二人分の性能がある」

 ん?今のはお礼だろうか。口数が少なくて困るな。

 その後、対地高度100m前後で飛び何事もなくバルカン半島へ進む。

 ここは遥か昔から火薬庫として名をはせる地だが、今でも領土問題で紛争地帯と化している。歴史は繰り返さな。だが小さな範囲で言えば違うのだろう。足元には森が広がっており人は住んでいないように見える。

 カイセイはバビロニアに電波を送る。

「拙者はカイセイだ。応答しろ」

「そんな高圧的にならなくても」

 そう僕はいうも無視された。そして間もなく反応が来る。

『カイセイさん?ほんとにカイセイさんなんですか?』

「軍籍番号M83-14。事情を説明したい。お前らの拠点の座標を送れ」

 カイセイの発言後少ししてからスピーカーの奥から歓声がする。

「英雄の帰還ですな」

「やかましい限り也」

『申し訳ないんですがカイセイさん。安全性確保のため今から指定する地点で待っててください』

 そして座標が暗号通信で送られる。ユリシーズに解読させその地点に行くと既に幾つかの車両が待機していた。カイセイ曰く国境警備隊だそうだ。

 着地してユリシーズに機体の全権限をカイセイは渡し、僕を連れて降りる。

 久しぶりの地面だ。今までのずっと揺られていたせいで直立しているだけで常に揺れれる感覚がする。

「こんにちは、カイセイさんですね。身分を証明できるものはありますか?」

「ない。指紋認証を求める」

 近付いてきた人は早速機械を取り出し検査した後幾つか質問をする。その間に僕の元にも一人来て。質問を浴びせる。カイセイの協力者を名乗ったものの一般人がWEA整備をした事を怪しまれたのだ。そして持ち物検査などしたりしてスパイの容疑が晴れるまで時間がかかった。その時カイセイが検査する人たちと並んで黙ってこちらを見ていただけなのは気に入らなかったな。

 終わった後にそのことを尋ねると自分も疑っていたとの旨を話した。確かに信用していないからこそ必要以上のことを語らないのかもしれない。

「あのWEAをトレーラーに乗せたいので運んで貰っていいですか?」

 そう警備隊の一人に言われるとカイセイはトラックの元に歩いていく。するとパッチワークは勝手に動いてトレーラーの荷台にうつ伏せで乗る。警備隊の人間たちは勿論驚いていたがカイセイが説明すると納得した様で中身を検査することもしなかった。

 警備隊の車に乗り基地を目指す。誰かが祝福するわけでもないので寂しい気がする。だがこれで当初の目標は達成された。

「お疲れ様」

 隣に外を見ながら座るカイセイに言うと。

「お互いな」

 と目線を動かすことなく返される。心なしか微笑んでいるように思える。

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