2章 3話 風の吹くまま

-Mon/3/9/253

 だいぶコロラド卿の屋敷での生活も慣れて来た。と言っても食事の時とかに突然執事の人に注意されてマナー講習が始まる事が多くてうんざりする事もある。

 それはそれとして今日は学校の初登校日。自室に戻って制服を着てからきっと盛大な入学式とかあるんだろうなとワクワクしながら徒歩で向かう。屋敷から旧ロンドン塔、黄鐘高校は案外近い。多分同じ新入生っぽい人達も同じ方面を向いて歩くのが周りにちらほらみえてついていけば何となく着くって感じ。

 隣を一緒に歩くビオラに不意に話しかける。

「この制服ってやっぱり可愛いよね」

 彼女は鼻で笑ってから「わかってるね〜。キミはわかってる。でも昔はダサかったんだよ〜これ」

「昔って……ビオラ生きてなさそう」

 ビオラは歴史が大好きでよくいろんな昔話を聞かせて貰う。と言っても大体は変な豆知識を突然言ってそれを説明してもらう感じだ。これが良い例。

「ややっ、20年前だよ最近最近。それより前はダサジャージでさ。前の国がそうだったから伝統が何ちゃらって言ってそのまんまだったんだけど他の学校が変え出したら慌ててこれにしたんだって。確かに可愛いよね」

 ビオラ襟を引っ張りウインクする。食事の姿勢とか歩き方とかで貴族って言うのがすぐわかる雰囲気だけど私に対しての喋り方はこんなに崩れている。コロラド卿にたまに見つかっては注意されてるけど直す気はないらしい。

 学校に入ると案内の人に促されて掲示板を見る。書かれていたのは出席番号と何クラスかで、私は1組の13番だった。運が良いことにビオラと同じクラスだ。教室に行くと直ぐにガイダンスが始まって奇妙な授業形態やら施設の案内やらを聞かされる。やばい。眠くなってくる。

「入学式ってまだかな」

「え、なにそれ」

 席順は自由なので隣に座ったビオラに聞くとキョトンとした顔をした。その時、ここにそう言う文化がないのを感じてなんだか言ってしまったことが恥ずかしくなる。

「あーあー。なんでもないよ。卒業式の対のなんかあるのかなあって」

 前に卒業式の話を夕食の席で聞いた事がある。曰くここでは卒業を盛大に祝って貴族の知り合いの為に宴会をした事があるらしい。

「ふーん。サキの住んでた所ってそんな文化があるんだ」

 一応ビオラには前は遠い所に住んでいてミーシャが拾ってくれたと説明している。昔の日本から来たと言っても信じてもらえないだろうから詳しくは説明しなかったけど、きっと彼女はアメリカの方を想像しているんだろうと思う。

 そんなことを話しながらガイダンスを乗り切ると時間割りの作成を明日までの宿題として解散した。この後、用事があるわけではないので教室に残って貰った資料と見比べながら試行錯誤していた。もうお昼になる頃だったのでおんなじ様な考えで残る人は多くなくビオラはさっさと帰ってしまった。そんな中一人で手こずっていると隣から知らない男の子が話しかけてくる。

「なあ、ごめん。この近代化学基礎の資料見せてくれないかな?」

「ん?あ、いいよ」

「ありがと」

 プリントを渡した後でジロジロ見られてる気がした。私からいうものなんだけど多分、気があるのだと思う。小学生辺りの頃に家族でネバダ州の砂漠のイベントに参加した時やたらと知らない人に絡まれたり「かわいい」と言われたりすることがあった。ここにきても感じるのだけど、綺麗な黒髪の人が希少だからなんだと思う。

 話しかけたその人はブラウンの髪で欧米の人特有の年齢に合わない大人びた顔つき。話を聞くと名前はウィル。湖水地方の生まれらしく今は学校近くの下宿で暮らしているとのこと。

「サキは何処から来たの?」

「東の大陸だよ」

「へー、新世界から来たんだ。お疲れ」

 新世界とはアメリカ大陸の事。前にトムが情報収集の成果と言って聞かせてくれた。ちなみにアフロユーラシア大陸を旧世界と言う。

「疲れたけど、今は大分慣れたかな」

「慣れたと言えば、南の東方街の料理は独特で慣れないな。食べた事あるかい?ここの売店でもあそこの辛い料理が売って居るんだけどね」

「何それ食べたい」

 私が急に立ち上がったせいでウィルは驚いてしまった。けどそんなの気にしちゃいない。

「あ、じゃ、じゃあ食べに行こうか」

「案内して案内」

 申し訳ないけど抑えきれない食欲に駆られて教室を出て行く。

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