2章グレートブリテン編 1話 不時着
-Sun/12/8/253
飛行機は無事にシティ空港に到着した。飛行機の着地の揺れに驚いたぐらいで何事も無くスムースに飛行機を降りる。行きはすぐ通ったけどここでミーシャの武器は通らなかった。職業上の理由と言うことで行きは突破したものの役所で申請が通るまでここでは没収されて落ち着いた。苦無は護身用として許されたらしいけど斧との違いなんて私には判らない。
予定通りまずはミーシャの妹の元を訪ねる事にした。アメリカはボロボロの廃墟が立ち並んでいたけどここは昔ながら(?)のロンドンの街並みが並んでいた。バロック様式の建物と近代的な建物が並んでいる綺麗な街だ。ただ遠くに巨大なビルの集まりがあるのを除いて。
ミーシャの妹はそんな歴史を感じさせる白い壁のアパートに住んでいた。チャイムを鳴らしてすぐ出てきたのは赤い狐。ではなく赤い髪の狐の耳。ミーシャの妹のメルバ・オーリンズだ。優しい笑みを浮かべている。
「いらっしゃい。長旅お疲れ様」
「おう。すまんな、いきなり来て」
「ミーシャより狐らしい」と言うと、「狐狐(きつねきつね)って感じだろ」と返される。狐狐?
外観もだけど家の中はフローリングの綺麗な家で食器棚とか壁の絵画とかテレビで見たいかにもヨーロッパって感じの部屋だった。二階には別の家族が住んでいるらしい。
メルバは今は出掛けている旦那さんと息子さんの三人暮らしをしていた。何故ここに住み始めたのか聞くと、事情を詳しく聞かせてくれた。
ミーシャ含め彼女達はアメリカの北の方の集落<コロニー>に住んでいた。そこでは習慣で兄弟(姉妹)が産まれると跡取りを置いて残りは旅立たなくてはいけないらしい。獣人の偉い人はそうやって種族の生活圏を広げようと頑張っているらしいけど大半はミーシャ達のように種族何て気にしていないらしい。
話の本題をミーシャが切り出すとメルバの目が鋭くなった。事前に私の事を伝えた時から色々考えてくれていたようだった。
「宇宙に行くのは厳しいかな?」
「最近旅行の話も聞かないからね。正直厳しいわ。でも行きそうな人はいる」
それはこの街の一番の大金持ち、コロラド卿を頼る事だった。彼は仕事の関係で宇宙に上がる事がよくある。そこに頼むのが良いと教えてくれた。
教えて貰ったコロラド卿の家は言われた通りの豪邸と言った感じだった。鉄柵の門は空いていてレンガが敷かれた庭があってその奥に古風な屋敷がある。ミーシャがズカズカ入って行くのを追いかけると彼女は私の前に手を出して開きっぱなしの玄関
の前で止めた。
「来るぞ」
そう言われて少しするとカチカチという音が近付いて来る。
「何?」
ミーシャは玄関から中を覗くとすぐ頭を引っ込める。すると何かが目の前を通り過ぎた。
「魔獣だな。アタシも何度か依頼されて倒した事がある」
ゆっくりとそれは私達の前に来る。巨大な狼のシルエットだけど毛は無くて肌色の皮膚で短い尻尾がある。といきなり走り出して来る。ミーシャは私を脇に抱えて突っ込んでくる魔獣をかわした。
「チッ、こんな時にヴァルツァーが在れば……背中に乗って」
言われるがまま彼女の背にしがみつくように乗ると飛び込む魔獣をかわして行く。そして屋敷の門まで走り出した。
「追いつかれるよ」
「わかってる」
地面を踏む振動が強すぎて手が辛い。でもミーシャはもっと辛いだろう。
後ろを見るとあの苦無が空を飛び魔獣を攻撃していた。ある程度怯んでいるお陰で距離を取れて来ている。
「ここで仕留めるか。見てろアタシの必殺技」
そう言って私を降ろすと横に立つように指示する。ミーシャは懐から取り出した苦無を両手に持って仁王立ちした。
魔獣が大きく口を開いて飛び込んで来た瞬間、彼女は屈伸してヤツの顎下に手を入れジャンプしながらの後ろに投げ飛ばした。魔獣は真後ろに仰向けに倒れその下顎には苦無が深々と刺さっている。
正直なところ気持ち悪かったので「うわっ」っと声を出した。ミーシャも「うえっ」っと言った。
「腕痛ってえ」と彼女はその場で座り込んだ。
「何をしている。お前達。っておい。ドリー。何があったんだ」
門の外から男の人の声がした。呼ばれたと思ったのか魔獣は何事もなく起き上がってその人に突進した。
「危ない!」
「危険なのはお前達だ」
怒鳴り返された。
魔獣は犬のようにその男の人の前で息を弾ませている。
「おお、ドリー。可哀想に。ごめんよ一緒に居てやれなくて」
男の人は魔獣を可愛がっている。何だか気に食わない。
「被害者はこっちだぞ」
そうミーシャが叫ぶと知らない間に真後ろに気配を感じた。
「はーい、動かないでくださいねー」
見ると座り込んだミーシャに拳銃を構えるスーツの男の人がいた。
それからは集まって来た同じようなスーツ姿に囲まれて私達二人は手錠を掛けられてしまった。
反抗するかと思ったけどミーシャは大人しくしていて、私にもそうするように言ってきたので従った。顔を見ると何だか半分諦めているみたいだ。
「なんだ。子供じゃないか。私の家で何をしている」
魔獣を撫でていた人がそう言いながら歩いてきて目の前で立ち止まるとスッと手を挙げる。すると周りの人達は持っている武器を降ろした。
「あんたがコロラド公爵だな」
「如何にも。コロラド家16代当主ヘイズル・ハンターだ。詳しい事は……お前たち、この者を応接室に連れて行け」
「はっ」
スーツの人達に連れられて屋敷の中の応接室に来た。そこで犯罪者の様にまた違うスーツの男の人が質問してきた。コロラド卿は何処かに行ったみたいで以降はその人、警部補?の人が対応するらしい。
ミーシャはここにロケットに乗せて貰いに来たと説明するとため息を付かれた。
「訳がわからんな。それより現在、貴方の身分を調べている。先程の発言に間違いはないな」
「ああ、そうだ」
「さて、貴方は職業柄武器を所持しているとの事だが些か貴重な装備だな。シルバー中佐。知っているか?」
ミーシャから取り上げた苦無をテーブルに置く。
「それは中亜戦役中期のAH社製対人兵器ですね。確かに貴重な物で記憶が正しければヒョウジョウの一部のエリート部隊にしか配備されていません。それを自力で見つけ出したと言うならミーシャ殿はかなりの強運の持ち主ですな」
「成る程」
その時、書類を持った人がやってきてそれを手渡して出て行った。
「ここに賞金稼ぎとあるが魔獣も相手にするのか?」
「ああ、金の為なら何でもするさ。そんなに珍しい事か」
「うむ、信じられんな。まあ実際に太刀打ち出来ているのは異常としか取られないな」
「褒め言葉って受け取るぜ。でどうなんだ?無実で終わることも出来ないだろう」
「ああ、そうだ。私は貴方をコロラド卿の名において罰しなくてはならない」
話はそこで終わり、続きは明日と言われて寝る為の部屋に案内される。部屋に入るなりミーシャは案内人が扉を閉めた瞬間ベッドに飛び込んだ。
「すごいなー。昔話のホテルみたい」
仰向けで寝転がってそう言う通り、屋敷全体が綺麗なんだけどその部屋も十分綺麗で本当にホテルみたいだった。
「サキはホテルって知ってる?って、アプレ世代だから……泊まった事とかある?」
来る時の飛行機でこの世界の特有の言葉としてアプレ世代について聞いた。なんでもアプレはフランス語で戦後の意味で戦争を経験した人たちを言うらしい。そこから発展して戦前から生きてる人の事もこう呼んでいるそうだ。
「う、うん。何度か」
「かーッ。アタシも戦前に生まれたかったなあ。そしたら今みたいに埃まみれで明日の飯の心配をする必要はないんだろうなー」
ミーシャがもし私のいた時代に来たら一日中こうやってゴロゴロしているんだろうな。とネコみたいにゴロゴロしている彼女を見て思った。頭の上の耳がネコ耳に見えるし。
「フゥオッ」
尻尾を掴んだら聞いた事無い声を出した。
「何だよフゥオって。変な声出たじゃん。そういうのあんまり他の獣人の娘とかにやらないでよ」
「可愛いなあミーシャ」
ミーシャは「なんだとー」とか言ってフカフカのベットの上で戯れあっていた。そうしているうちに夜遅くなっていて、部屋にはお盆に乗った夕食が運ばれて来た。パンとスープ。それと謎の揚げ物とその下に轢かれたレタス。
「これはケバブを自分で作れって事か」
ミーシャはそう言ってサンドイッチを作る。フォークが一緒に付いているのに何でそう考えるんだろうと思いながら食べて直ぐ寝た。
翌日、ミーシャは具体的な額は教えてくれなかったけど大金の支払いか牢屋に入る事を命令された。これはとても払える金額ではなかったみたいである程度お金を支払ってから牢屋に行く事になった。
昨日の応接室で判決を初めて聞いた時、ミーシャは見た事が無いほど青ざめていてひどく落ち込んでいた。その後コロラド卿に会いに行くと言ってスーツの人と部屋を出て行くと窓を閉めていても聴こえる怒鳴り声が聞こえた。でもすぐに止んで暫くしたら帰って来た。
「ごめんなさい。サキ」
それを最後にミーシャと別れた。
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