1章 5話 イービルテイル

「何で手伝わなきゃいけないの。最悪」

「うーん。でも仕方ないさ。早く終わらせてしまおう」

 私とトムはトラックの積荷を降ろす手伝いをしていた。積荷の内容はだいたいは小麦なんかでエリーが言っていた食料泥棒を思い出した。

 何故こうなったかと言うと話は1時間ぐらい前に遡る。その時、貨物列車に乗っていた。私は薄暗い中で麻袋の上に座っていてトムは手帳を取り出して何か書き込んでいた。ミーシャはさっき列車が止まった時に直ぐ天井の扉から出て行ってしまった。

 それから直ぐ列車が発進した。安心していると突然、列車の横の扉が開いて知らない男が乗ってくる。

 その人は光る拳銃のようなものを持っていて私達に気づくと「え、なんだあんた達?無賃乗車か?」と驚きつつ言ってきた。銃口は向けていない。

「んー。そうだね。よくご存知だ」

 トムが答えると彼はジロジロこちらを見て溜息をついた。すると扉から外に顔を突き出して何か話をしてから手すりにつかまりながら声をかけた。

「あんたらも来ないか?」

「いいね。行くよ」

 そう言うトムは小麦粉の入った袋を抱える。不思議そうに見ると「君も持て」と目で訴えられる。仕方なく近くの小さい木箱を持って、一緒に扉の方にいる男に駆け寄った。

「ほら、お土産だよ。急いでいるんだろ」

「分かってるじゃあないか」

 その男は外で列車と並んで走るトラックの荷台に飛び乗った。トムは私に構わず先に跳び移る。いきなりこんなことになるなんて想像していなかったから体が震えて動けない。私は目でトムに助けを求めた。

「そんな顔をするなよ。不細工さに磨きをかける必要なんてないだろ」

「煩い!」

 そして見事に飛び移れた。まあトラックに座っていた人に受け止めて貰ったけど。

 その後トラックは列車から離れていきやがてここに辿り着いた。雑草が生い茂っていて周りは林に囲まれている倉庫だ。降りて私とトムはトラックの積荷を下ろすのを手伝う事にしたのだった。

 荷物をある程度片付けるとトムが周りの人に声をかけている。

「ここのボスは居ないのかい。挨拶しておかないと」

「今は留守だな。へへっ、媚を売るのか。ボスはドケチだから何もくれないぞ」

「残念だなあ」

 こんな具合に何故か仲良くしている。

 トムにはもうこっそり聞いているけどこの積荷泥棒について来たのはミーシャに来てもらう為だと言う。さっきから私のベルトに掛けているナイフからかなり高い音が出てるけどこれでミーシャは来るらしい。


 倉庫の二階からこちらに向かって誰かが叫んだ。

「連盟警察が来たぞ」

 その時、周りの人達は急に慌ただしく動き。武器を持ってきたり、盗んできた物を奥に運び出した。私はそれをただぼーっと見ているだけだった。するとトムが隠れようと提案してきて、二人で古そうな自動車の前の横に背中をつけてしゃがんだ。

「何で隠れるの?」

「この世界に我々の常識は通用しないだろう。だからこそ一歩引く。様子を伺わなくてはならない」

 トムの右手には、どさくさに紛れて盗んだんだ、きっと。未来的な拳銃があった。

 キィーンと突然、爆発するような金属音が鳴った。倉庫の扉から音がする。近くの人達はこれまた青色に光る未来の銃を扉に向けて構え出した。

 キィーンともう一度鳴ったと同時にガラスが割れる音がする。その光景は一言で言うと芸術だった。砕けたガラスに反射した日光がキラキラと光り輝き、マントを身に付けたミーシャが窓から入って来たのだ。

 彼女は長い斧を舞うように振り回して盗賊達を倒していく。辺りには私に列車で渡したあのナイフが空中を自在に飛び回り、遠くの敵を斬り付ける。勿論相手側は驚いて倉庫の奥に銃を撃ちながら下がっているのが分かる。

 ミーシャには銃が効かないみたいだ。どうやらあのマントに銃の弾が吸収されているみたいだ。

「サキ、今助ける」

 私に気づいたのか名前を読んでくれた。嬉しくてミーシャの元へ駆け出そうとするとトムに止められる。

「トムも……え?」

「すまない」

 全く気付かなかった。トムは盗賊に拳銃を向けられていたのだ。

「おっと動くなよ」

 後ろから声が聞こえて振り向くと銃口が目の前にある。私とトムは頭に拳銃を向けられたまま、倉庫の中央。ミーシャの近くまで歩かされた。ミーシャは斧を両手で構えて私に付いている人を睨んだ。

「可哀想だな。よっぽど追い詰められてるのか」

「ああ、確かにこの娘には悪いがこれも天心に行く為。引いて貰う」

 ミーシャは大きく溜息をついて話した。

「可哀想なのはお前達の方だ。なあトム」

「肯定するよ。人質は確かに有効な手段かも知れない。けれど相手を間違えるのはとても残念な結果だよ。おっと」

 トムは私を見た。

「サキ君、君は目を瞑っていなさい」

 隣でグシャッとトマトが潰れる音がして顔に液体がかかる。見ると私とトムに銃口を向けていた人の身体がまるで真横から潰されたみたいに変形していた。立って居られる筈もなく血だらけのそれは床に崩れ落ちた。

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