1章 2話 着地点での現状報告
int main(void){
博士=科学者;ドクター=医者
宙に浮いたと思えば思い切り壁に叩きつけられた。頭はぶつけなかったけど背中が痛い。周りは重力が壁に来ただけで何も変わっていない、白い病院みたいな部屋だ。さっきの白い服の人は隣に倒れている。
「うーん、驚いた。まさか本当に次元操作系の能力だとは。いやー。素晴らしい」
その人は起き上がって、椅子ごと倒れた私の腕を外してくれた。
「えっと、何が起こったの?」
「知らないさ。じゃあ表に出て確かめてよう。僕の見立てでは瞬間移動の一種だと思うがね」
機械を登って外に出ようとすると丁度真上になった入り口のドアが開かなくなっていた。トムは直ぐ諦めて座り込んだ。
「うっかりだね。鍵を外に置いて来てしまった様だ。君、超能力で取れないかい?」
ガラス窓の向こうに鍵が乗っている。それを指差されたけど何も出来ない。手を伸ばして鍵がガラスを抜けて落ちてくるイメージを描いたけど駄目だった。
「出来ない」
「困ったな、まあいっか。助けを呼ぼう」
携帯電話を触ったが直ぐ仕舞って、トムは扉を叩き始めた。
しばらくしてアメリカ人っぽい顔の人が顔を出した。そこで外から開ける様に伝えた。しかしその人は何処かに行ってから背の高い女の人を連れて来た。背中に大きな斧を背負って兵隊さんみたいなベルトが体に巻き付いてある。その人達は何か話した後少し経って、ドアを開けてくれた。
外に出るとボロボロの服を来た人達が集まっていた。その服装から分かる通りここはお金が無い人達が住んでいる様だ。周りの建物は木が絡み付き、地面は緑色に染まっている異様な雰囲気。
「まるで別世界だね」
トムが言った。
斧を背負った女の人が彼にナイフを突きつけて、「お前はどこの者だ?」と聞く。
「君は信じないだろうがアメリカCIAの物理学者さ。この界隈では有名だよ」
「アメリカCIA?何の事だか分からんな。嘘付くのが下手過ぎるぜ」
「わかった。話をしよう。対応はそれからでもいいだろう」
トムが何とか話し合いに持って行って二人は廃墟の様なビルに入って行った。そして私は別の人に連れられて、違うビルの部屋に来た。
傷だらけのソファーに座るよう言われて座った。
「ごめんね。ここの人達、態度悪くて。最近盗賊が現れるからピリピリしてるの」
部屋の中は綺麗な模様が描かれた壁に明るい色の木の家具があって外と全く釣り合わない。
向かい側に座ったのはメガネをかけたおばちゃんで優しく話しかけてくれた。彼女曰くトムはこの街の用心棒に連れて行かれたらしい。
「私は肉屋のエリーって言うんだ。あんたは?」
私は取り敢えず自分が何者かを必死になって伝えた。あの用心棒さんは大きな斧を背負っていて、敵と思われたら大変だからだ。でもそのエリーは私の話に質問をしないでうんうんって肯いて聞いてくれた。
「貴方が居た世界はその超能力って誰でも持っているの?」
「うん、だいたい14歳位で誰でも目覚める」
「そう、不思議な所ね」
そう言ってエリーは窓を見た。外は大通りが見える。コンクリートの道から木が突き出し、建物はヒビは目立たないけどツタが生い茂っている。
エリーは遠くを見ながら言った。
「私が生まれるよりずっと昔。ここには大勢の人が住んでいた。空気は汚く、自然は追いやられ、夜も明るかったそうよ。でも一瞬にしてそれは消えた。戦争が変えてしまったの。あれは何故起こったのか今はわからない。ただ結果だけが残るだけね」
「皆、死んじゃったの?」
「いいえ、人間は二つの選択をする事になったの。戦争で地球の空気がもっと汚くなったからね。宇宙に行って新しい生活をするか、地球に残ってそのまま生きるか。それで皆宇宙に行ったわ。残ったのは地球の重力に逆らえなかった人達。臆病な人」
「エリーさんは宇宙に上がりたく無いの?」
「そうね。生まれた場所だから、大好きな所だから行かないわ」
笑顔で答えてくれたが何だか聞いちゃいけない事を聞いた気がする。私は窓の外を見た。トムがさっき出て来た病院の残骸の前に立って用心棒さんと話しているのが見えた。
エリーがマンションの一室を貸してくれた。エリーは自分の部屋に私を泊めてあげたかったみたいだけど、近所の人たちがうるさかったらしい。
「で、何であなたと同じ部屋なの」
「うーん、困ったね。僕と君は親子と認知されているらしい」
「そう言ったの?」
「まさか、嘘をつく気にはなれないさ。君も見ただろう。あの大きな斧の女を」
おばちゃんから話は聞いている。彼女はミハイル。周りからはミーシャと呼ばれている。
トムはミーシャや近所の人達と病院の残骸から抜け出した後、色々話をしていた。彼は話し上手な様でこの世界について調べていたと言った。
「結論から言おう。どうやら核戦争後のマンハッタンに来てしまったらしい」
「戦争ってのは聞いたけど……」
「核戦争というのは核兵器と呼ばれる物を使った戦争だよ。核兵器は強力で一回の使用で小さな島国なら丸ごと消し飛ばせるんだ。それだけなら戦争相手が居なくなるだけで良いが不幸な事にこの世界中には放射線降下物が大量に発生してしまった。おっと子供にはまだ難しいか」
「続けて」
「良いよ。問題はこの放射線だった。これを気にし過ぎた国連は宇宙移民を勧めてしまったんだ。この世界に我々が知る超能力は確かに存在したものの文化の中心が地球外に移った事で研究所もこの地から消えてしまった様だ。ただ、これは悪い報告だよ。良い情報も有る」
「何?」
そう言うとトムは日が沈み出した外に連れ出した。
「戦争で超能力の研究が大きく発展した様だ。それにより君の能力の謎も解明されやすくなっている筈だ」
「何が言いたいのか全然わかんないんだけど」
するとトムは月を指差した。
「喜びたまえ。希望に満ち溢れているぞ我々は。目指すは月だ。あの星に現在、国際宇宙連合と呼ばれる機関が存在する。あそこに行けば発展した超能力研究の力で君も帰れるだろう」
犯行予告みたいなのを聞いた後、エリーに呼ばれて夕御飯を食べさせて貰った。鳥肉を使った野菜炒めみたいなやつの下にスパゲティが埋まっている。トムにスペイン料理だと教えて貰った。とっても美味しかったけど何だか申し訳なくておかわりはしちゃいけない気持ちになった。
小さい電気だけ点けて寝た。トムは床に他の空き部屋から集めてきたクッションを敷いて寝て、私はソファーに寝そべった。
「明日は役所で職探しのついでに月旅行の情報収集をするよ。君はエリーさんの手伝いでもさせて貰いなさい。」
「君って言わないで」
「サキ君。どうせ聞かれるだろうから今言っておきたい。意味はわからないだろう。しかし早めに伝えておきたい。」
「我々は強力な能力者を追跡していた。それが君の母親だ。超能力研究所によってその女性の子供はもっと強力だという予想が立てられ秘密裏に計画は動いていた。そして能力の発現を確認でき次第本人を確保という流れだった。目隠しを外した際に最初に話しかけた人がいただろう。元は彼の発案だよ。でも君にとって日常を奪う結果になったのは彼と私達のせいだ。いくらでも恨むと良いい。ただ超能力の強制発現装置での結果は現時点の最大値。つまり遅かれ早かれここに飛んできてしまうのは必然なんだ」
最後ので台無しだ。言い訳じゃないか。
「あなたも悪い」
「そうだね。じゃ、おやすみ」
謝れないのか。お父さんに悪い大人と言われる気がする。……お父さん。カイト。もう会えないのかな。
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