4 神々の世界 その参 その頃の現世と警告
龍二達が神々の世界に飛ばされてから数日経った頃。
この日、
彼らによる戦闘は、昼夜問わず至る所で発生しており警察も手に負えない。自衛隊にも出動要請をかけたがこれまで一度も実戦を経験したことない彼らも同じくお手上げ状態であった。
彼は大臣らを招集して会議を開き龍造らに救援を求めることに決定、昨日彼に電話すると今日来てほしいとのことで参上したのだ。
「君達も来ていたのか」
自室に通された槇田は開口一番にそこにいた面々に驚いた。
そこにいたのは、陰陽師である
全員幼馴染だ。
「俺達の子供が巻き込まれたからな。合同で対応を練ろうと思ってな」
成良が嘆息する。
「まして相手が異形のものとなればアタシらの出番だろうて」
達江が不敵に笑む。そう、古の時代よりこういったことに関しては先頭に出て対処してきたのが彼らなのだ。自分もそれを期待してこうして来た訳だが。
彼が空いている所に座ろうとした時、呼び鈴が鳴った。槇田は龍造と一緒に
玄関へ向かった。
扉を開けた先にいた人物を見て、槇田は固まった。
「申し訳ありませんな。わざわざ御足労させてしまいまして」
「おいおい、今更そんな挨拶はないだろう? いつものように接してくれよ龍造さん」
玄関で深く頭を垂れて出迎える龍造に、来訪者である
「一応、皇族に対する態度は示さんとな」
ハッとした槇田は慌てて最敬礼した。
「で、殿下! ご無沙汰しております!」
「首相。そう、畏まらんでくれ。私はそういうの、苦手なんだ」
槇田は最敬礼を終えると彼が訪問した理由を問うた。
「陛下から今回の件を痛く心配してね。龍造さん達に相談してきて欲しいと」
「迅仁から昨日電話貰ってな。ちょうどいいから来てもらったんだ」
龍造は親しくそんなこと言っているが、槇田はこの幼馴染をジト目で睨んだ。
人外の力を使うわ、皇族を呼び捨てしタメ語を使うわ、あまつさえ〝市民の味方〟となっている極道や暴力団を従えている等々、およそ一般人の常識の斜め上を爆走している奴。それが隣の彼だ。皇族にそんな言葉使うのはお前だけだぞと言ってやりたかった。
龍造は迅仁を招き入れ自室へ案内した。彼が来たことに他の面々も相当驚いて一様に最敬礼した。
迅仁は上座におかけになり、龍造と槇田がそれぞれ座ると、早速現状の報告が徳篤と槇田よりなされた。その後成良と晶泰より彼らの特徴などが報告された。
「彼らから落ちた羽は鳥と同じようだったが、あの攻撃方法はこの世界のものではない。それこそ、漫画やライトノベルのようなファンタジー世界のものだ」
「成程な。まぁそうなるか」
「異界の者達・・・・・・厄介この上ないぞ。国会でも治安がどうの国防がどうのと質問攻めにあっていて頭が痛い」
「お前の気持ちはよく分かる。俺も風龍達を使って探らせているが、どうも黒い方は俺達の敵と見て間違いないだろう」
「正徳の話だと白い方はこちらに協力的のようだ」
「そのようだな」
「甥の
警視総監兼警察庁長官佐々木徳篤と神戸家当主神戸達江が言う。
「晶泰。何か、分かったことは?」
「さぁな。俺の式神である
「そうか。まあ当たり前か。なんせ異界の奴らだしな」
その後暫く話し合い、対応策を出しあった後別れた。
誰もいなくなった薄暗き部屋の中、龍造は茶をすすりながら縁側を見ていた。
「もう、よいぞ沙奈江」
ぼっそり呟くと、彼の対の席にぼんやり人影が現れた。
『ありゃ? バレてた?』
にっこり微笑む女性の霊───進藤沙奈江に、龍造は静かに笑みを浮かべながら言う。
「実の娘の気配に気づかぬほど、俺は老いちゃいねぇよ」
『にゃはは。それもそっか』
進藤沙奈江。
彼女は、幼い頃に龍造の妹歩美の嫁ぎ先である本絛家の養子に出された龍一の双子の姉である。
養子に出された後も、彼女は頻繁にこの家に出入りしていたし、龍造や龍一も本絛家に出入りして彼女と遊んでいた。
その彼女は高校三年の時、癌を患いそのまま帰らぬ人になってしまった。
それが四年前である。
死し後も、霊魂はこの世にとどまり、龍一や、年の離れた龍二を暖かい瞳で見守ってきた。
「それで、何か分かったか?」
『もっちろん♪』
「流石、探索に関しては超一流だな」
『えへへ。これくらい朝飯前なのだ。ブイっ』
ブイサインを突き出す彼女に、龍造は思わず吹き出してしまった。彼女の仕種は昔の歩実に似ていた。
「一つ、頼まれてくれるか」
『おとーさんの頼みなら何だって引き受けちゃうよ♪』
「奴らについていって、龍二達を守ってくれないか?」
『そんなのお安いご用なのだっ』
「じゃあ頼む」
沙奈江は消える前、父にこう言い残していった。
『闇の龍に注意してねー』
少しだけ眉を跳ね上げた龍造は、一言「うむ」とだけ答えた。
上座に座る男は立腹していた。目下には見るも無惨な息子とその舎弟が俯いていた。
「
腹立たしげに唸る男の眼は充血しきっている。
先刻
タヲヤメノオオミコトが一族と食事をしていたとき、息子スクネノミコトと舎弟がボロボロになって帰ってきたとの一報を受け、彼らから事情を聞いた───無論、スクネノミコト達はいかにも龍彦が悪かったかのように話したわけだが───彼は激怒した。
人間にやられたとは屈辱以外の何物でもない。たかが下等種族である人間に馬鹿にされた挙げ句、二人の腕と翼を斬り伏せたなど、あってはならない。
最初こそ「下等種族ごときに何たるザマだっ!」と怒鳴りつけようとしたのだが、話を聞いているうちにそんなことは彼方へと置いてきてしまった。
今彼の頭にあるのは、自分達に屈辱を味あわせたその人間をどう〝料理〟するか、ということだけだった。
ドサッ
彼の思考を止めるようにその音は静寂な部屋に無遠慮に彼の耳に、舎弟共の耳に侵入した。
音の方に振り向けば、真新しい傷跡から滴る、まだ赤みを帯た液体を吐き出している切断された腕と翼だった。
そこから目線を移すと、足と腕を組んだ黄金の髪と眼をした人間の形をした男が柱に寄り掛かっていた。
「何者だ!」
彼の気配に今まで気づかなかった己に怒りつつ、タヲヤメノオオミコトは謎の侵入者に怒鳴りつけた。
侵入者は彼の怒鳴り声に臆する事なく、むしろ口端を吊り上げて告げる。
「貴様のような奴に名乗る名はない」
タヲヤメノオオミコトは眦を裂いた。
「貴様か! コイツらを痛め付けた奴は!」
「だとしたら、どうする?」
男はタヲヤメノオオミコトをわざと煽る。激昂するタヲヤメノオオミコトを無視し、殺気を含んだ視線を送る。
「これ以上、コウフラハに関わるな。それだけだ」
「ふざけるな!」
タヲヤメノオオミコトは怒りを爆発させ火球を投げた。男はそれを手で弾いた。火球は虚空に消えた。
「貴様ら人間が我ら神に指図するな! 何様のつもりだ!」
激昂するタヲヤメノオオミコト以下の者を、男は冷ややかな眼で見ていた。
「(俗物め)」
これが神を名乗っていると思うと、男は深い失望感を覚えた。
その後も、男はタヲヤメノオオミコトの人間に対する悪口雑言を敢えて流していたが、それにも限界というものがある。
タヲヤメノオオミコトに組するように、そこにいた他の者達も男に攻撃を加えていた。
その時である。
「そろそろ黙れ」
「な・・・・・・に?」
彼らの攻撃は、男が一睨みすると、男の眼の前で黄金の炎に包まれて消滅した。
バキッ
妙は音が響いた。タヲヤメノオオミコトが振り返れば、後ろにあった自分を象った像の、上半身が吹っ飛ばされ炎上していた。
「次は貴様の身体がああなるぞ」
威圧的で、少しでも気を緩めようならたちまち気絶させられるだろう眼光に恐れをなし、彼らは何も言うことが出来なかった。
「(そんな馬鹿な!?)」
タヲヤメノオオミコトは驚愕に眼を瞠っていた。
「(攻撃が・・・・・・見えなかっただと!?)」
男の攻撃媒体は『炎』。それは分かる。しかし、その攻撃が、全く見えなかった。
今の自分達では、この男には敵わない、と瞬時に悟った。
「わ・・・・・・分かった。奴には、今後二度と、手を出さない」
それが分かったからこそ、タヲヤメノオオミコトは彼の機嫌をこれ以上損ねないように接しねばならなかった。
父の意を察したスクネノミコトも口を揃え、頭を垂れた。舎弟や列席者もそれに倣う。
「その言葉、確かだろうな?」
尚も疑う男に、彼らは本当だと懸命に伝えた。
「いいだろう」
役目を終えたかのように、男は背を向けて去ろうとした。
但し、と男は一旦歩くのを止めると、先程の鋭い視線を向けこう言ってからここを去っていった。
「もし今の約束を違えたら、貴様らがこの世から
去り行く男の正体をタヲヤメノオオミコトはついに聞くことができなかった。
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