第34話 はじめましての、物語。
それは、泡沫の夢。
「逃げろシンシャ!」
僕の声に反応してシンシャが飛び退く。しかし間に合わずに赤熱の吐息がその赤い髪を焦がす。
「ルカ!」
「分かってますよ!」
水のマナが溢れシンシャを冷やしていく。しかし間に合わない。そこには焼け焦げた亡骸だけが残る。
「ちくしょう、なんでこんな!」
見渡す限りの竜。竜。竜。
「レイ、まだ動けるか?」
僕は傍の小柄な犬族の少女は気取られないようにニコリと強く笑顔を作る。口の端が歪んでいる。嘘の下手なレイらしい。
「大丈夫。私は大丈夫だから、ね?」
そう言うと振り返って詠唱を始める。見ると足先から石化が始まっていた。僕はたじろぎ後ずさる。
「石化の瘴気?!」
「良いよ、行って!レナード様だけでも生きてここから」
レイの唱える最後の魔法で僕の身体は軽くなる。レベル3の風魔術スキル"ゲイル"によってSPDに150%の補正。
「できるわけ、ないだろうっ!レイ、僕はキミがっ!」
言いかけて留まる。彼女は既にその美しい黒髪の先まで石となって物言わぬ塊と化していた。
「レナード。気持ちはわかるがここまでだ。一度王都に戻ろう」
ルカが飛んでくる。
僕は黙る。
なんでこうなる。
なんで僕はいつも。
「その必要はないよ」
そう言いながら、僕はルカを優しく撫でる。
「なっ!」
彼は言葉を発する暇もなく光と消え去る。
「嗚呼、これでお終いか」
蠢く竜の大群の前に僕は目を瞑る。
最後の瞬間はいつもこういうものか。
視界が徐々に光に包まれていく。
何も見えない。
いっときの後、目を開くと。
「はぁっ!はぁっ!」
激しい動悸とともに僕は目を覚ます。怖い、とても怖い夢を見た。これは一体なんだ?全身から汗が吹き出している。
カーテンの隙間からは朝の光。そろそろ誰かが起こしに来る頃か。と思っていると、ドアをノックする優しい音。
いや、しかし"いつもより"ずっとその打点が低い。僕は訝しがりながらも、息を整え自分からドアを開けた。
「ひゃぁ!」
中から開いたのが予想外だったのか小さな可愛い女の子の驚きの声が上がる。年の頃6歳と言ったところか。
「新しい子?見たことないケド」
「は、はい!ミーシャと申します!」
小さなメイド服をぎこちなく着こなし、
栗色の髪が揺れていた。
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