第33話 VS クリーガー・ベルベット(後編)

「それにしても、今の一振りは良かった。オレを殺す気迫があったな。仲間をやられて"キレ"たってやつか?」


こんな奴が私の父だなんて信じたくない、信じたくない。私は涙が流れる。


「嘘だったの?お父さんの書いた本、書いてあったじゃない。"冒険家は人殺しじゃない"って。"無闇に剣を振るわない"って!」


父は肩をピタリと震わせる。


「無闇じゃない。今がその時なのさ。世界が滅びるかどうかの瀬戸際なんだ」


そういうと左手に小瓶を取り出すと、私に向けて投げつける。私は反射的に剣でそれを切り払う。


するとどうだ。パリンというガラスの割れる音ともに私の身体は一切動かなくなってしまった。


「これは?!」


私は動かない自分の腕と剣を見る。紫の煙のようなものが纏わりついていた。


「星7消費アイテム"フリーザー"だ。気体に触れたものの座標をそこに固定する」


クリーガーはそう言うとゆっくりとレナード様に歩み寄る。レナード様は動くこともできない。


「よぉ、久しぶりだな小僧」


レナード様は声も出さない。


「長かったぜ。それじゃぁ、この世界を返してもらう!」


言うとクリーガーの剣がレナード様の喉元を一閃する。が、しかし、2人の間に解読不能な文字が溢れ、それを遮った。現れたそれは黒い光の羅列と言っても良い。


「魔法でもアイテムでもねぇな」


そう言いながら連続で斬りつける。しかしことごとく黒い光が現れ剣を防ぐ。


「システムか!!」


忌々しげに吐き捨てるクリーガー。

レナード様が口を開く。


「まったく、大統領は何をやっているんだ。あのポンコツめ」


レナード様は一体何を言っているのだ?

困惑する私を彼は見る。


レナード様・・・?

「ミーシャ」


一言呟き、まるで恋人がするかのように私の事を優しく見る。


「おい、てめぇ!」


なおも追い縋るクリーガーを制するかのようにレナード様が左手をかざさすと、黒い文字の羅列は格子となって彼を縛り上げる。


格子の中でクリーガーが叫びを上げるが何も聞こえない。無音。


それを尻目にレナード様は私に歩み寄った。


「ミーシャ。大好きだったよ」


耳元で切なくささやく。絞り出すような震えた声。その細い腕で私を抱きしめる。


「最後のお願いだ。セカンドブランクを、壊してくれ」


え、最後?


どうして?


なんで?


私は訳がわからずレナード様の顔を見る。

優しい微笑み。


え、それよりさっき好きって言った?


思考が回らない。

いや、しかし


「はい」


私は思うより先に身体が動く。

そうだ。

ここまで来たのは何のためだ?


私の主人の、みんなの願いを叶えるため。これを斬り伏せて、王都のみんなを救うんだ!


思考にモヤがかかる。不思議な感覚。でも自然と私がやるべきことだけはわかる。


私は静かにその刀を無表情で振り上げる。

両断されるこの世界の黒いシミ。


溢れる光の中でレナード様はとても、とても優しい笑顔で強く私を抱きしめる。


その瞳には涙が溢れていた。

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