第32話 VS クリーガー・ベルベット(前編)

「あと少し!」


既にセカンドブランクへと続く枝の中腹。もう目と鼻の先まで来ていた。


「行けるぞ!斬れ、メイド長!」


アレンが跪いて両手で私の足の踏み台になる。


「はい!」


私が足を乗せるとアレンが勢いよく私を上方に押し上げる。私のそよ風の靴は青い残光を引きながら軽やかに私を宙に舞わせた。


「てやぁぁぁ!」


勢いと共に剣を縦に一閃。と、その時だった。空気の弾ける音。パシリという電気が私を撫でる音と共に周囲に光が満ちる。


瞬きの間も無くそれは集約して一つの人体の形を成した。するとその人の形は剣を振りかざし、私の大剣を横薙ぎで受け止める。


ぶつかり合う剣と剣。辺りをビリビリと衝撃波が襲う。


「メイド長の剣を受け止めた?!そんな事が!」

ヴェリルが驚愕する。


「アレは?」

ルカも珍しく驚きの声を上げる。


私の目の前に現れた大柄な男。年の頃40くらいだろうか。長い手入れなされてないボサボサの髪はライオンを思わせる。頭上には私と同じ獣の耳。まさに暴れ者と言った風態だが私にはすぐにわかる。


「お父さん?!」

「よう。娘よ。釈放されてからこの方、速攻でこれを封印してヤツを待ち構えていたのに。お前がこれを切ろうとはどういう了見だ?」


加えて容赦のない斬撃。私は覚束ない手取りでなんとかそれを受け止める。


「やめて、お父さん!」

「おいおい、そんな剣の捌き方しか知らないのか?拍子抜けだな娘よ」


文字通り自分の娘をあしらうかのような剣さばきで私の動きを封じていく。


「まぁ、用があるのはお前じゃあない」

言うと彼は一足飛びにレナード様に肉薄する。

「レナード!!」

叫びながら細身の剣を振り上げる。


「それはダメだよ。お父さん」


私は回り込むと今度は先ほどとは逆に父の剣を受け止める。


本当は剣をへし折る気で全力で叩いたが全くびくともしない。代わりに刀の衝突から生まれた衝撃波があたり一面の空気を震わせる。


「レナード様から、離れて!」


私はアレン仕込みの剣術で連撃を繰り出す。縦、横、流れるような一閃。


「なんだよ、そう言うのもできるんじゃねぇか。少し素直すぎる剣だが」


彼はそれを水の流れのように受け流す。そして反撃しようと剣を持ち直したその時だ。電光の如き投擲槍が2人の間に着弾する。


「チッ、避けやがったか」

ヴェリル、アレン、ルカが近づいてくる。


「ボロボロパーティーが。悪いが俺は娘以外には手加減できんぞ?」


言うとその細剣を放り投げる。するとそれは空中で不可解な軌道を取ると生きているかのように空中を舞い飛び一瞬のうちに3人を切り刻む。


「嘘だろ?!」

ヴェリルですら反応できない。


「何をする!」

私は反応して瞬時に彼に斬り付けていた。しかし高速で私に飛来したその剣に阻まれる。


「ウルティマって呼ぶのかい今の時代だと?こいつは星9武器"ベクター"。座標を指定してあらゆる指定した座標に固定、または座標間の移動を行える。座標固定はこの世のあらゆる物理法則に優先して割り込む。もちろん耐久力は♾だ」


私は淡々とした彼の口調に怒りを露わにする。

「何を言っているの?あなたは!」


彼は不思議そうな顔をする。

「わからんか?お前はそこでその小僧が切り刻まれるのを見てるしかないって言ってるんだよ」


笑いもせず真顔で言い放つと、クリーガー・ベルベットは再び剣を構える。

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