第31話 VS 神樹

「どこ見てる!」

私を跳ね飛ばしたアレンの籠手を神樹の触手が高速で貫く。


「す、すみません!ありがとうございます!」


私は礼を言うが、

「構わん!行け!」

言葉をかき消すようにアレンに檄を飛ばされる。


アレンの傍から前線に躍り出て、迫りくる神樹の腕たちを次々と切り倒していく。


ここは地上50マートルの大きな枝の上。私たちは今まさにセカンドブランク(ルカがそう名付けたそれ)に到達しようとしていた。


「今ので二回死んだねぇ」

ルカは後方で苦い顔をする。


「バカ真面目騎士め。あいつはメイド長が本来食らうはずだった攻撃を全て凌いでいるからな」

ヴェリルはそう言いながらルカの足元でうずくまる。足と腕に受けた傷の出血がひどい。


「早くバフをかけろ」

「正気とは思えないね。しかし私の立てた作戦か」


ルカの左手に持たれた杖から溢れ出る風のマナ。身体スピード強化。ヴェリルは周囲を見る。


「チビ貴族は?」


ルカは遠くを指さした。

「レナード卿の事ならならあそこですよ」

指差す先はメイド長の隣。


「あいつあんなところに!」

ヴェリルは慌てて飛び出す。


途端、ルカは周囲に風の刃を振りかざす。触手がまとめてなぎ倒される。


「まぁ、この囲まれようなら何処にいても変わりませんね」


顔は今までになく険しい。ルカの魔法力はとっくに尽きていた。既に生贄として右手を捧げている。右手は感覚がなく血も通わない。数時間ともたずに壊死するであろう。


「だがここまで来た。ここまで。後はあのブランクを断ち切るのみ」

ルカは口の中で呟き、自分も前線に飛んでいく。


ヴェリルが私たちに追いつくと、私が支えていた前線は一気に前に進んだ。


「チビ貴族、テメェにやれる事はほとんどねーんだから、あのまま街にいても良かったんだぞ」


そう言いながらヴェリルは槍を振るう。メガネには既にヒビが入っている。


「まったく素直じゃない少佐。君たちだけだと烏合の衆だろう?」


大きなため息をつく。そしてヴェリルに近づき耳元でささやく。


「それに、僕は君たちの幻術などお見通しだ。僕の事は気にしなくて良い」

ヴェリルは顔を歪める。


「てめぇ、何を考えていやがる」

しかし乱戦。彼を追求する時間もない。


「僕はミーシャが心の思うままに戦えればそれで良い」

レナードは言い逃げる。



私はそんな会話があったなんて露も知らずに、陽気に刃を振り続けていたんだ。

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