第29話 VS マザードラゴン
「良いかい?これはチームワークの訓練だと思ってがんばってもらいたい」とレナード様には言われたものの、これは!
「ドラゴン、デカいです!」
私は身長の3倍ほどある成龍ドラゴンの爪と鍔迫り合いをする。かつての子龍とは段違いの大きさだ。
私たちがドラゴンの巣攻略に入って1時間が経過していた。私はもうすでにヘトヘトだ。
「メイド長、その剣はゼロ距離を避けねば。ダメなら横に寝かせて突くのだ!」
前衛を張るアレン様はヘルムの面当てを下ろしているせいか幾分か厳しい声に聞こえる。
「はい!」
私がたじろいでいると途端、ドラゴンの身体に青白い電工が走って槍が貫通する。
「すまねぇ。フォローが遅れた!」
後方から来たのはヴェリル様。身体からは身体強化の風のマナが溢れている。
「さ、下がります!」
私は一足飛びに後退。後方のルカから魔術支援を受ける。身体から疲れが引いて行く。
「これは治療と体力バフを同時にかけたものさ」
ルカは杖で私の体をなぞっていく。くすぐったくて私は笑いを堪えた。
「おやおや、メイド長は余裕だね」
ルカはニコリと笑顔を作る。怖いけれどそれ以上に、仲間と戦うのはむずがゆい不思議な気持ちに私をさせてくれる。
「あまり油断はしないでねミーシャ?ドラゴンの巣は子ドラゴンによって巣に入り込んだものを排除する防衛機構だ。そろそろテリトリーは抜けるけれど、それまでにマザーが動き出す可能性はある」
レナード様はそう言って地図を開きながらルカの後方を歩く。
「マザー?マザードラゴンですか」
「ああ。マザードラゴンは性質から言ってもなかなか面倒で、一度こちらを敵と認識したらどこまでも追ってくる。そうなれば倒さない限り街や村にはたどり着けないぞ」
「はい!気をつけます!」
私は元気に返事をすると再び前線に戻っていく。走りは軽快。木々が流れるように道を避けて見える。
「ヴェリル様、お待たせしました!」
私は中衛にあがる。
「来るぞ!」
アレンが敵の攻撃を受け止める。
「とやぁー!」
私は動きの止まったドラゴンを両断する。
「ふん」
ヴェリルが投擲槍でアレンの隙をつく取り巻きを残滅する。
後方の支援はレナード様が指揮を、体力回復とバフをルカがかける。なかなか良いチームワークだ。
と思ったその時だった。頭上から咆哮。上を見ると太陽を遮る巨大な影。逃げなきゃ、と思う間も無く共に突然それは降ってきた。
地上を激しく揺らす巨体。
「マザードラゴン!」
アレンが叫ぶ
「まーそうなるよな。オレたち時間かけすぎてるし」
ヴェリルは苛立たしげに頭を掻く。
「ひぇぇぇぇぇ?!おっきい?!こんなおっきいの無理では?!」
私は慌てふためく。子ドラゴンのさらに4倍になろうかという、森の木々を見下ろす巨体。それは間髪入れずに巨木のような尾をふる。
木々が根こそぎ薙ぎ倒され、私たちは吹き飛ばされる。
「森でなかったら即死だったかもな」
アレンが吹き飛ばされるながらもヴェリルを庇う。これはレナード様の指示だ。アレンはエイトライブズ、私はワンビットライブズがあるがヴェリルだけは前衛に出ているにもかかわらず防御力が極端に低い傾向にある。
「バカ騎士が、これくらい大丈夫だ!」
言いながらヴェリルは跳躍する。ドラゴンは口のあたりに魔法陣を展開している。おそらく角度的に狙いはレナード様とルカ!
「マズいぞ、ブレスだ」
アレンの叫びより先にヴェリルは槍を投げていた。
「見りゃーわかるでしょそんなの」
槍はドラゴンの下顎にあたり、深々と刺さる。衝撃でブレスは上にそれ、遠くの山々に大きな穿孔をうがつ。
「こんなのをレナード様に撃つつもりだったの?!」
私は驚愕しながらも木々を蹴って跳躍する。
「通電・トリガー!」
射出されたナイフはその硬い鱗に阻まれてダメージを与えられない。
「ですよねー。」
私はたははと苦笑い。
「でりゃぁぁぁ!!!」
アレンが全力を込めてドラゴンの足に斬撃を加える。ドラゴンはそれに気がついてアレンを足で踏み潰しにかかった。しかし彼は逆にその足の裏からつっかえ棒のようにして槍を差し込む。
「がぎゃぁぁ!?」
ドラゴンにしてみれば画鋲を踏んだようなものだろう、たまらずに体制を崩す。
「アレ、死ぬ覚悟がなきゃできねぇな」
ヴェリルは冷や汗を流す。私はドラゴンの足から背中に駆け上る。タンタン、と軽快にステップを踏んで首元へ。
「足場なら、あるだろ!」
ヴェリルが叫ぶ。
「はい!」
私は喉に深々と突き刺さったライトニングの上に乗る。心の中でヴェリル様の真似をしながら大剣を大きく振りかぶった。
「見りゃーわかる!」ってね!
2度3度斬撃を加える。よろけるドラゴン。勝負はついたか。私は一足先にバランスを崩してドラゴンから落ちていく。
「まだだ!」
ヴェリルが叫ぶ。
「いや、それでいい」
どこからか声。いや、頭の中に響いてくるこの声はルカか。
「詠唱お待たせしてしまったとね。大呪文になるとこうなってしまうのさ」
言い終わるが早いか巨大な火球がドラゴンを包む。炎が火の粉を散らして、私まで熱が伝わる。私はその光景を見ながら落下していった。
「迂闊だぞメイド長」
私を抱えたのはアレン様だった。
「だがよくやった」
そう言って笑う。レナード様とルカも現れてグッドサインを手で作る。
こうして私たちはドラゴンの巣を無事攻略したのだった!次はいよいよ猫の街レバーシャンテ!
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