第28話 黄昏の日々(後編)

日も落ちて皆で焚き火を囲む。今日の夕食は鹿肉のローストだ。ちょうど良い塩気とハーブの香り。それに木の実で作った甘いジャムを合わせていただく。


「う、美味い!」

アレンが料理にがっつく。


「これはあれか!お前がいつも出す怪しい特製ハーブか!」

ルカは汗をかく。


「いやいや。人聞きの悪い。それに魔法で発芽させるのはアレでいて疲れるものなのさ。だから」

そう言いながら懐から黄色い小さな缶を取り出す。


「これは市場で50ニーカで買った汎用品さ」

「なんだと!」

「しかしバカにしたものじゃないよアレン。経済とは統計さ。数種のハーブをミックスしたものでありながらそれをたった50ニーカで提供できる事の意味を考えて欲しい。それがこの商品の信頼性を表しているとは言えないかい?」

「そう言われて見ると高貴な味だなこれは!」


アレンの勢いにヴェリルはため息をつく。

「お前、騙されてるぞ」


私は3人の様子に思わず笑う。

みんなが不思議そうにこちらを見た。


「あ、いえ、すみません。なんだかとても楽しくて。私がやりたかった冒険ってこんな感じなんです!」


皆は顔を見合わせてニコリと笑った。暗闇で焚き火が照らす。勘違いかもしれないけれど、よく笑うアレン様だけでなく、ヴェリル様もルカも笑っている気がした。


もし。もし許されるなら。こんな旅が、ずっと続くと良いのにな。


夜も深くなるころ、

私は寝床を立つ。


焚き火のそばに座る見張りのアレン様に少しお湯を分けてもらって、お茶を作り丘を登っていく。


星と月が照らし出すその小高い丘の上にはレナード様が座っている。難しい顔で望遠鏡を眺めていた。


「レナード様、お茶をお持ちいたしました」


私は暖かいカップをレナード様に差し出す。


「ありがとう」


そう言うとふうふうと息で冷ましてからレナード様は口をつけて一息、いきをはく。


「ここにお座りなさいよ」


促されて私は隣に座る。私と同じ身長の同い年の御曹司。5歳の頃から一緒にいる私のご主人様。満点の星の下でレナード様は口を開く。


「冒険は楽しいかい?」


私は満面の笑みで答える。

「はい!」


レナード様は星を見る。

「そうか」


そして付け加えるように言葉を続ける。


「僕のやりたかった冒険は、"こんな感じ"なんだけどなぁ」


私はその言葉の意図するところが読み込めずにキョトンとする。


「こんな時間が、ずっと続くと良いのにね」

星を見上げたまま、彼は言った。


あぁ、この時。

もっと私が彼のことを理解できていたなら。

あんな事にはならなかったのに。


今は星だけが2人を照らし出して、


静寂が夜を食い荒らして行く。

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