第27話 黄昏の日々(前編)

任務は潜入任務!


相手に気がつかれないようにこっそりと。私は茂みの中に身を隠す。この山の中だ。私の剣を木に引っ掛けないようにゆっくり取り回す。


木に隠れて左手を伸ばし、目標に照準を合わせる。鹿っぽい生物!ツノが少し立派。これがルカの言っていたセパルローだろうか。


ごめんなさい、今夜の晩ご飯のために!


口の中で小さく詠唱する。

「通電、トリガー!」


瞬間私の左手の風の魔術シェルが光を発する。籠手に内蔵されたそれは高い直進精度でショックナイフを加速し、瞬時に紫電と共にセパルローの足を捕らえる。


「やった!」


茂みから私は顔を出す。


「やりましたね。落ち着いた良い狙いでした」


アレンも同時に顔を出してわたしを褒める。


「はい!ありがとうございます、師匠!」

「はは。師匠はやめましょうメイド長。さて、レナード卿達に獲物を見せてあげなければ」


アレンはもがく動物をいとも簡単に縄で縛り、そのまま野営地まで一緒に歩いていく。


「やぁ、収穫はあったようだね」


ルカがニコニコと胡散臭い笑いを浮かべている。


「では早速料理に入らねばなぁ。メイド長、火を起こしてくれるかな?」

「な、なんで私が!魔法使いなら、パパッと魔法で火を起こせないんですか?」

「おやおや、これは心外だなぁ。魔法はああ見えて存外疲れるものなのさ」


話しているとレナード様が奥の高台から現れた。


「やはり神樹にたどり着くまでに竜の巣は越えなければならないな。ここまで生息域が拡大してるとは予想外だ」


そう言いながらヴェリルに双眼鏡を返す。ヴェリルはそれを懐のバッグに仕舞う。


「尾根を越えられれば衝突は避けられるが、山越えの装備はねーしな。今から戻るのも時間が惜しい」


私たちはすでに王都を出立して随分と日数が経っていた。神樹とされる猫草までたどり着くのにはまだ15日は歩かなくてはならない。


「せめてレバーシャンテまでたどり着ければ落ち着けるのですが」


私が口にするが皆の顔は浮かない。


「それって猫族の街だよな。あまりオレたちには好意的じゃねーんじゃねぇのか?」


ヴェリルは投げやりに言いながらも、集めてきた石でかまどを組む。


「まぁ、様子を見るくらいならできるだろう。最悪ミーシャだけでも休めれば戦力的にも心強い」


レナード様もそう言いながら近場の岩に腰を下ろした。私たちはそれぞれ夕食の準備に取り掛かる。私は人懐こくアレン様に声をかける。


「アレン様、セパルローを捌きます?」

「いや。これはヴェリル、お前ができないか?」「できる。けど面倒だから今日はパスだ」

言いながらも黙々と石を積むヴェリル。


「ぇぇ〜!そんな、頼みますよヴェリル様!」


そこにひょっこり顔を出したのはルカだ。


「ふふん。そこは私がやろうじゃないか」

「え、ルカが?」


私はその細腕に不安を覚えてマジマジと見る。


「あれれ〜?信用ないなぁ。それにミーシャ君。君はなんで僕のことは呼び捨てなのかな?」

「別に助けてもらったり、お世話になった事もないですし」


特に感慨もなく言うとそれを聞いたアレンとヴェリルは笑った。


「いい気味だなルカ!」

「メイド長ももっと言ってやれよ!」

口々に囃立てる。


「全く。後でほっぺた落ちても知らないからなぁ」

そう言いながら次々と食材を準備していく。

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