第21話 VS プリースト(2/6)

「聖人?この私が?」

わなわなと震えながらアレン様が答える。


「いやいや、君じゃない君じゃない」

青と白のローブを纏った神父が手を横に振った。


「相変わらず君は頭が悪いね、アレン」

そう言うとため息をひとつ付け加える。


「バカとはなんだバカとは!」

「バカは言ってないだろう?」


どうやら2人は知り合いのようだ。ルカと呼ばれたその青年は顔を傾けてこちらに顔を出す。褐色の肌に屈託のない笑顔。


「やぁ、昨日はどうだったかい?」

「あ、はい。美味しくいただきました」


私は答えながら手に持った大剣を小さな背中に隠した。が、当然隠しきれてはいない。天井から下がるシャンデリアに先端が当たりカランと揺らす。


「そう、それは良かった」

神父は優しそうな笑みを浮かべる。


「では、この子は聖堂にお連れするね。今まで保護ご苦労だった、アレン」

神父はそう言うなり私の肩を引く。しかし私はびくともしない。なぜなら私の剣はとても重いのだから。おっと、とバランスを崩したルカはよろける。


「ははは、ルカよ。メイド長を相手に力ずくは通用しないぞ」

アレンが笑いながら槍を取り出す。


「今日こそ、その狼藉許すまじ。捉えて女王様の前に差し出してやる」

ルカはよろけながら杖を地面について握り直す。左手を添えると杖から黄色い光が溢れ出す。


「いやだなぁ。僕を女王に差し出しても教皇様のもとに送られて帰ってくるだけだってそろそろわからないかな?」


そう言いながら薄く目を開ける。途端に周囲の光が火球となり、ルカを中心に円を描くように回り始める。


「そんな!先ほど大地のマナを使ってましたよね?生来授かったマナは1人ひとつって聞いたことがありますが!?」


アレンは私を庇うように立ち塞がる。

「やつのウルティマ(究極級武装)、星5"マジシャン"だ。生態オドを全てのマナを変換することができる」


飛び交う火球をその身で防いでいく。


「いけ!メイド長!」

「はい!」


私はゴーグルを目に下すと、剣を引きずりながら大地を駆ける。ルカは避けもしない棒立ち。これは罠か?戸惑いつつもそれを振り払うように強烈な一撃を彼に見舞う。


あたりに響き渡るのは鋼鉄同士がぶち当たる音。見るとルカと剣の間に白銀のフィールドが出来上がっている。


「それっ、鉄魔法?!」

私は叫びながらよろけた身体を立て直す。


「おやおや。"反動"すら無効とはねぇ。普通なら君の手の方がへし折れるはずだが」


ゾッとするような笑みを浮かべる。あれは、私の身体なんて心底どうなってもいいと言う顔。剣さえ持って帰れればそれでオッケーな顔だ!


「どうやら"まるで本物かのよう"だね」


杖からほとばしる緑の光。土魔法だ。周囲の大地がめくれ上がり巨大なサンドゴーレムを錬成する。一体。二体。いや、もっとたくさん!


私は走り回るその足の回転を止めない。私の走る後には青白い残光。靴のおかげで全く疲れを感じない。


「でりゃぁ!」


スピードを乗せたままゴーレムを一閃。一撃でその巨大な足が吹き飛ぶ。


「おお!!」


アレンが歓声をあげる。私は崩れかけたゴーレムの腕に飛び乗り、すかさず手を切り刻む。肩を蹴って次のゴーレムへ。


肩から肩へ。ひらりひらりと舞い飛びながら次々と巨大なゴーレムの首を、肩を、まるで粘土細工でもちぎるかのように切り飛ばしていく。


「手首のぉ〜スナップ!」


アレン様から教わった事を復習しながら、掛け替えと共に超スピード、超トルクの斬撃を見舞う。


さぁ、次はお前だ!


私は中空から落下のスピードを乗せてルカに向けて一撃を繰り出す。


またしても白銀のシールドが私を阻む。


「えーい!だからどうしたー!」


私は連続で刀を振り回す。普通なら私の一撃は“一撃必殺"に見えるかもしれない。


けれど実はちがう。私のこれは何気ない"普通の一振り"なのだ。いくらでも連撃できる!


怒涛のような斬撃に、白銀の盾に徐々にヒビが入っていく。


「よもやこれほどとは」


ルカが呟く。パリン!最後にはガラスの割れるような音と共に魔力が弾け飛ぶ。


私はすかさず一撃を加える。だが、それより一瞬早く、氷の槍が私の胸を捉えていた。


「足元がガラ空きだよ」


私は咄嗟の恐怖に思わず目を瞑る。

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