第20話 VS プリースト(1/6)


早朝、私たちの屋敷が取り囲まれるのにそう時間はかからなかった。


「アレン様、大変です。お屋敷が!」


私が気がついてアレン様のお部屋をノックすると、中からはすでに鎧を着込んだアレン様が出てきた。


「ああ。一部始終は見ていた。厚顔な奴らだ。王都の内部で事を起こそうとはな」


アレン様はゆっくりと階段を降りる。


「何者でしょうか?」


私は屋敷を取り囲んでいる青白い制服の部隊をカーテンの隙間から眺めながら、焼き立てのスコーンを慌てて皿に並べ、紅茶も熱いものをしっかりとカップに注ぎ入れる。


あ、紅茶はそのままだと熱すぎるか。汲み置きの水で慌ててぬるくする。味が薄くなるけど。まぁ、アレン様ならバレないだろう。


とりあえず少しでも空腹を紛らわせないと、はらぺこの状態で何かあったら大変だ。もちろん、荒事にならなければ1番良いのだが。


「隠してすらいないあの制服。あいつらはマルシールの聖堂教会。第十七執行機関"ラスバカニア"。面倒なのに目をつけられたな」


言いながら、アレンはスコーンを口に放り込みぬるい紅茶でそれを押しこみ、その味に少し加減な顔をする。


「君も何か口に入れなさい。奴らの目的は君かもしれない」


私は頬を赤くしながらポリポリと頬をかく。


「ええと、実は私は朝イチでつまみぐい・・・いえ味見をしたので全然大丈夫です」


アレンはため息をつく。


「まぁ、上出来だ。戦う可能性があるなら腹には何か入れておくに越した事はない」


やがて程なく屋敷を取り囲んだ執行機関の中から一際長いローブを纏った者が屋敷の敷地に入ってきた。アレン様の屋敷は街外れにある代わりに庭がとても広い。


「ああ!こんな事なら庭の掃除もしておけば良かった!」


荒れ果てたままの庭を悠々と歩いてくるローブの男を見て私は若干の恥ずかしさを覚える。


「こんな時になにを言ってるんだ君は」


アレンも恥ずかしくなって少し顔を赤くする。元はと言えばアレンの散らかした庭だ。趣味の一つくらい持てと言われて手を出した花壇も今や忙しさにかまけて荒れ放題。いや、枯れ放題か。


と、その時だ。ローブの男が杖を振ると、緑の光が辺りに満ち、途端に庭の木々や花たちが生気にあふれる。


「ああ、ずるい!私もあれやりたい!」


「無理だよ。あれは高位の大地魔法だ。しかしこんな事をする奴には1人しか心当たりがない」


アレンは集中するように静かに息を吐いた。


「庭の手入れに来てくださったのでしょうか?」


そんなわけはないか。私は言いながら、玄関ホールに設置した"戸板"の上に置かれた私の剣を取り上げる。


「少なくとも新聞配達じゃない事は確かだな」


アレン様は槍を武器庫から持ってきて先端を布で拭く。


「第十七執行機関 王都直轄対策室室長」


ドアを優しく叩くノックの音。


「"神父"ルカ・ラインベイル」


そう言いながらアレンが扉を開くとそこにいたのは昨日私がマーケットで見たその顔であった。


その時は薄暗くてわからなかったが小麦色の肌に黒髪。髪は癖が強いのか、跳ね上がりながら肩の後ろまで続いており、それをリボンのようなもので縛ってある。


青と白の装束に身を纏った姿はまさに司祭という感じ。


「ここに聖人がひとり、秘匿されてると聞いて教会がお迎えに上がりましたよ」


その男、細い目を見開いてニタリと笑う。

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