第19話 VS ドラゴン2
「それではお暇いたします。レナード様」
私は深々と頭を下げて屋敷を後にする。レナード様の軟禁されている"動かずの館"は17時以降は外部のものを締め出しする。
私はティータイムとレナード様の洗濯物をクローゼットに収納してから挨拶をして帰路に着くのが日課であった。
私は夕暮れの街を歩く。露天商店の屋台が賑わいを見せる大通りには、灯りが少しずつ灯りはじめていた。
レナード様の尋問は意外と長引いている。どうにも出現方法がよくわからなかったワンダーブランクをよくわからない方法で消してしまった物だからわからない事だらけ。
しかも誰が消そうとしても消えなかったそれを消してしまった事から、発生したのも我々のせいだったのでは無いか?という疑惑までかけられているという。
詰まるところは私のせいで。
そうなのだ!私が不用意にあの黒い球体をぶった切ってしまったおかげで私の身代わりにレナード様が捕らえられているのだ!
レナード様曰く「ミーシャを差し出したら誘導尋問に乗せられてそのまま全ての罪をなすりつけられて終わり」だと言う。
否定できない。
この全く回らない舌が悔しい。
などと考えながら、私は道すがら食材の買い出しをする事にした。後2時間もしたらアレン様がお帰りになる。
昨日は魚だったし一昨日は牛。であれば今日は。ふと私は屋台に並ぶ食材が目に止まる。
「ドラゴンのお肉が安い」
いやしかしあの硬いお肉をアレン様は好むだろうか?レナード様は割と好んでらっしゃるようだったが。私が悩んでいたその時だ。背後から不意にぶつかる者があった。
「おっと、これは失礼お嬢さん」
甘い男の声。見ると深く被った黒いフードのその奥には細い目と豊かな黒髪。その奥には美しく細い顔が露天商のランプに照らされている。
「しかし夕暮れに出歩くには少々アブナイ。その可愛い耳は隠した方が良い。今は王都とは言っても旧犬族領。下手な煙は立てぬが吉さ」
そう言いながらどこからともなく赤い羽帽子を取り出して私に被せる。
「あ、ありがとうございます」
「なに、お礼なら良いさ。それよりドラゴンの肉とは。見かけによらずワイルドな趣味なんだね」
意地悪な笑いがフードの下から見える。
「いえ!これは殿方はこういうのを好むものかと思案してまして!」
私は慌てて否定する。
「ああ」
男は思案する。
「確かに女性からするとカタイと思うかもねぇ。少し面倒だが深く細かく筋切りをしてやるといい。それからしっかり肉叩きで叩くことさ。風味にクセがあるから、例えばこの肉ならハーブはこれとこれとこれ」
そう言いながら男は袖からいくつかの葉を出す。いったいどこにこんなに入っていたのだろう?私は目を丸くする。
「すごい!手品師か何かでいらっしゃるのですか?」
男は声を出して笑う。
「手品師か。良いね。まぁそのようなものだよ」
男はニコリとわざとらしくも見えるほどの笑みを差し出す。
「まぁ、もし機会があればまた会いましょう。"ミーシャメイド長"」
そう言うとすぐに人混みに消えていく。私ははっとする。
「なぜ私の名前を!?あなたは」
私は一歩踏み出したがすぐにその姿を見失う。スルスルと人混みをすり抜けるその背中は異様な速さだ。一体何者なんだろう、あの男。
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