第18話 VS エイトライブズ

私は剣を携えて無人の石切場を駆け抜ける。"そよ風の靴"のおかげで体が軽い。まるで体重が無いみたいだ。足の負担が軽いのでいつまでも走り続けていられそうだ。


私はアレン様から距離をとって立ち止まると左手を前に出し掌を開く。片目で中指と薬指の間から相手との距離を測る。


「そうです。動きながらだと照準がブレます。最初のうちは止まって落ち着いて狙うのです。脅威だと相手にわからせられれば、二撃目以降は掌を相手に向けるだけで牽制になります」


アレンの助言。


「わかりました!」


私は元気よく答えると、左手の人差し指で命じる。


「通電・トリガー!」


その瞬間、私の籠手に内蔵された"風の魔術シェル"が唸りを上げて、開いた掌の下部からショックナイフを加速し、射出する。レナード様が設計した"ランチャー"だ。


私の腕を電光が巡り、アレン様の左を瞬間に紫電が走り抜ける。


「まずはこれで良いでしょう。狙いは1人でも練習できますからね。ここにいる間に鍛えてください」


そう言いながら今度は槍を構えて走り出した。


「装弾数は2発です。大抵初弾の後の隙は突かれるでしょう。用心を期すなら二連射する事です」


アレンは重い鎧を纏っているとは思えないスピードで肉薄する。


「はい!」


私は答えながらもたまらず大地を蹴って宙に逃げる。メイド服のスカートがひらりと舞う。靴の翼の飾りから残光が走る。


私は空中で逆さのまま左手を向けてナイフを射出する。


「ナイフに頼りすぎです。剣を振りたくないという心が見え見えですね」


アレンの槍が待ち構えていたようにナイフを弾く。


「ですが、今日はサービスです。ここです」


アレンはナイフを弾いた槍が右に逸れるまま一瞬静止した。


「私の左の脇腹が空いていますね?ナイフを切り払うために槍を振りかぶったからです。クレイモア以上の重さの剣は普通はこのタイミングでは狙えません。そう知っている相手こそ隙を見せているのです」


私はその一瞬の刹那に身体をひねる。上半身の右回転、腰のバネを発揮して大剣を前に出す。


急速反転。


無理な姿勢からでも片手で無理やり大剣を前に出す、重量を無視しているからこそできる芸当。


「上出来です」


観念したようなアレン様の声。しかし私は剣を寸止めする。


「す、すみません。私ったら危うく!」


アレンは呆れたような感心したような、深いため息をつく。


「いえ。あのタイミングから剣を止められるとは。まだまだ余力がありますね」


ニヤリと笑うと、ふうと一息ついて槍を下ろした。


「日も落ちてきましたね。今日はこのくらいにしましょうか?」

「はい。稽古つけていただいてありがとうございます!帰ってお夕飯の支度、しますね!」


私は元気にお辞儀をして頭のツインテールを揺らした。ここは採掘場の石切場。アレン様はここの現場監督者とのツテがあり、立ち回りの訓練などでたまに使うそうだ。


今日は私もお邪魔してレナード様が設計したこの新しい籠手"ランチャー"の使い方の指南も兼ねて稽古をつけてもらったのだ。


歩くとやがて人混みの多い街中に着く。2人で街を連れ立って歩きながら、私は左手の籠手の甲に装着された宝玉を見て再び聞く。


「しかし、良かったのですかアレン様?不死の宝玉など貴重なものですのに、いただいてしまって」


遠慮がちに上目遣いで背の高いアレンを見る。彼は照れ隠しに頬をかく。


「いや、私も9も命を持っていながら実は3つくらいまでしか使った事は無かったのですよ。メイド長が使ってくれるならありがたい」


そう言って微笑む。サラサラとして長い金髪が揺れる。うーん。私は密かに困ってしまう。


"ナインライブズ"と呼ばれたこの騎士団の南部方面部長が、"エイトライブズ"になっているなどいったい誰が気付こうか。


後々何かの齟齬にならなければ良いのだが。

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