第16話 in the GARDEN

白い光さす豪奢な部屋の隅に男が1人座っている。


退屈そうにあくびを一つ。テーブルの上には金の台が並び、貴重な果物が積まれているがその中でも簡素なリンゴだけをかじる。


ふと、男の前に影が刺す。見上げると階段から別の男が降りてきて光を遮っていた。


「おろ、今日くる日だっけか?」


リンゴをかじっていたその男は、年の頃40付近の中年といったところか。髪の毛は栗色でボサボサ。伸ばしっぱなしのそれが背中まで伸びている。頭の頂点には大きな獣の耳が立っていた。まるで獅子のような風貌。


「予定がなければ来てはダメか?クリーガー」


階段の上の男は顔を隠すように深く帽子をかぶっている。クリーガーと呼ばれた男はぶっきら棒に笑いながら答える。


「いや?しかしユーリノス。お前ももう大統領なんだから。こんなところにちょくちょく来るもんでもなかろうに」


階段から降りてきた男は深く被った帽子を外す。その顔は名高い王都の七代大統領。ユーリノス・ケナーフであった。大統領は深く沈んだ顔でクリーガーを見下ろす。


「また俺を説得しにきたのかい。何度言っても同じだぜ。俺は封印した"アレ"を許す気はない。早く俺をここから出せ」


「そうしたらお前はアレの首を刎ねかねんな」


大統領は長年の交渉も全く実らなかった事にため息を漏らしながら、クリーガーの横に腰を下ろして続けた。


「お前こそ、"もう諦めてアレを受け入れる"と一言嘘でも言えばここを出られたんじゃないのか?一体何年意地を張っている?」


クリーガーは不敵な笑みを浮かべる。


「俺の望みは、俺の最後の戦いをお前とバーガンディに見送ってもらって旅立ち、アレと差し違える事だ。お前たち2人に笑顔で見送ってもらえなきゃぁ、俺の一枚絵は完成しない」


そう言ってふてくされたようにソファに横になる。


「まぁ、アレの封印はあと10年はもつ。お前らが折れるのを気長に待つさ。どうせ俺以外じゃぁ、どうにもできないだろう?」


そう言うとユーリノス大統領は渋い顔をした。


「それだ。その件なんだがな。予想外の事が起きた。ある人物が封印を解いたらしい」


その言に、クリーガーはピクリと肩を震わせる。


「なに?いつのことだ?」

「つい1週間くらい前だ。クリーガー。お前、もしかしてこうなるのを知っていたんじゃぁ無いのか?それで時間を稼いだ、と?」


クリーガーは口に手を当てて思考していた。しばらくの沈黙のあと言葉を漏らす。


「いんや。コレが発動するのに後5年は見ていた。俺にも予想外のスピードだな」

「ふむ。となると心当たり自体はアリか。お前の娘だな?」


クリーガーは気まずい顔をする。


「いやぁ、あの時はそれしか無かったんだ。そんな顔をするなよ。何せ時間が無かったからな。ミーシャには悪いことをしたかも知れんが、まぁ、俺の娘ならなんとかするだろ」


少し慌てた様子を見せる。大統領は深いため息だ。


「バーガンディは怒ってるぞ。今度あったら謝っておけよ?」


言うと立ち去ろうと腰を上げる。


「会うも何も、奴は面会には来ないぜ」


思うところあってから表情を変えずにクリーガーは淡々と告げる。


「お前が会いに行けばいい」

「?」


はてな顔を浮かべるクリーガーにさらに大統領は告げる。


「世間的にはワンダーブランクの重要参考人として監禁していたんだ。ワンダーブランク自体が消滅した今、お前の罪状は無くなったとも言える。司法を司る"王女"が何と言うかだが、時期を見てお前は釈放となるだろうよ」


クリーガーは目を丸くする。


「マジか。お前は良いのか?」

マジマジとその目を見て聞く。


「ワシも口を挟まなかったよ。何、ワンダーブランクは無くなったんだ。お前が無鉄砲に命を捨てに行くにも行き先がない」


大統領は初めて少し安堵したように笑う。しかし一点の顔の曇り。


「しかし"あの物体"を実の娘に託すとは、因果なものよ」


それに関してはクリーガーは自信満々にまた笑った。


「俺の娘だぜ?"剣ですらないアレ"だって振りこなすだろうよ」


そしてまたリンゴをひとかじり。

ここは海のど真ん中に立ち聳える絶海の塔。

レイ・アトラス最高収容監獄処だ。

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