第14話 武器屋の入り口たちばなし
「あら、アレン様ったら猫派なんですの?私はてっきり犬派かと思っていましたわ!」
道ゆく貴婦人に声をかけられては
「いや、これは違います。私の飼いヒトではなく、知人から預かったメイドでして!」
と否定するのに忙しいアレン様。
私はキョトンと目を丸くしながら後ろをついていく。
「そうか〜さすが王都だけあってどちらかというと犬派の土地なんですね」
私は笑顔でのほほんと聞く。アレン様はだいぶ疲れたお顔だ。
「いや全く。差別甚だしく大変申し訳ない。これが王都の現状なものでな。犬族も猫族も住みにくいものだと思う」
心底申し訳ないと言う顔で私の前を歩くアレン様。私達はとりあえず買い物に出ているところだ。
「それにしても君の家、まともにお茶も煎れることができないなんてな。これはミーシャの仕事は多そうだ!」
楽しそうに笑うレナード様。対する私はため息だ。
「はぁ、またしても私の仕事がひとつ増えてしまう。でもお任せくださいアレン様!お宅に置いていただくからには、仮とはいえ貴方のメイドも同然ですから!必ずやまともな人間レベルの生活を保証しますね!」
気を取り直して奮起を見せる。
実際アレンの屋敷は酷いものだった。アレンの不精な性格もあって荒れ放題も良いところだ。
「むむ、ぬるい水を出しただけでここまで言われるとは」
3人で話しながら着いたのは道具屋だ。店主はアレンを見つけると陽気に手を振る。
「珍しいな。お前に友達がいたとは初耳だ」
「友達ではない。いや、友達くらいいるが彼らはそうではないが!って何を言わせるんだデギー!」
良いようにあしらわれるアレン。アレンが棚から取り出したのは小さなスクロールだ。銀貨一枚を出して店主からそれを受け取る。
「そんなので良いのかい?お嬢ちゃんにあげるってんならもっと良いスクロールでもサービスしますぜ?」
「サービスぅ?!」
私は目を輝かせたがレナード様に口を止められる。
「今はこれでいい。見てみて」
レナード様がスクロールを床に広げて、手早く呪文を詠唱する。
「死焔なるもの闇の彼方の門、防人狭間より来たりて汝を迎えるであろう」
以前の私より素早く歌うように美しい詠唱。私が聞き入っていると、詠唱はピタリとそこで止まった。本来は下の句が残っている。
「レナード様?」
私は促すように彼の澄んだ瞳を見ると、彼と目が合う。
「見て、ミーシャ。アレン」
レナード様が指差した先は私の胸元だ。淡く緑色の光が灯っている。
「これは?」
アレンが驚きの声を上げる。
「詠唱のスタックさ。やはり前回の詠唱は下の句に入った段階で割り込みを受けて別の術式が走っていたのだろう」
「なんですって?!」
私は思わず大きな声を出してしまう。。全く気がつかなかった。
という事は私のあの剣は召喚されたわけではない。何者かに譲渡された?何のために?
「あらかじめミーシャの身体そのものに術式を組んでいたとしか思えない。つまりは"初回限定星6確定召喚"だったというわけさ」
レナード様はさもありなんと両手を広げた。アレンが厳しい顔をする。
「そうなると、心当たりは一人しかいないな」
その真剣な目線にレナード様も真剣な瞳で答える。
「あぁ。こんな事ができるのはおそらく」
私も受け入れざるを得ない。私の身体にこんな事をするのは。
「お父さんただ一人か」
「何を企んでいるんだ、クリーガー・ベルベット」
アレンも言葉を詰まらせる。
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