第12話 vs アレン・ラルバート(前編)
「で?なんでお前がここにいるんだ、メイド長」
屋敷の玄関口で嫌な顔をするのはアレン・ラルバート。騎士団の南部方面管轄部長。それなりに偉い立場らしい。
今は鎧を着ておらず、動きやすい簡素な服に長いサラサラの金髪を下ろしている。対する私はいつものメイド服。栗色のツインテールに猫耳がぴょこりと二本立つ。
ここは王都のアレンの屋敷。私はその玄関で大剣をかつぎながら苦笑いをして汗をかく。レナード様がいつもの調子でアレンさんに声をかける。
「やぁ。元気にしてたかい騎士殿。実は王都の法務部に連行されてしまってな。父上の根回しのお陰でなんとかミーシャは罪状を外してもらえたのだが、しかし私は重要参考人扱いなのだ。明日からは"動かずの屋敷"にて軟禁される手筈になっている」
てきぱきと喋り続ける。
「その間ミーシャが通いで私の身の回りの世話をしてくれることになったのだが、脱獄の手引きをする恐れがあるから行動が制限されているのだ。そこで王都の法務部からも信頼の厚い貴方の家にしばらくミーシャを置いておいていただけないだろうか?」
そこまで言い終わるとニコリと笑顔を作る。丁寧だが厚顔な物言いにアレンは怒りをあらわにする。
「いやだ!なぜ私があなた方のためにそこまでしなければならないのだ」
「わ〜ん、そこをなんとかお願いしますよ〜う〜!ヴェリルさんにも逃げられちゃって頼れるところが無いんです〜っ!」
私は扉を閉めようとするアレンの手にしがみつく。
「ヴェリル?ヴェリルと会ったのか?」
顔色が少し変わる。私は思い出した。確かヴェリルさんとアレンさんは仲が悪いと聞いたことがある。
「え、あ、はい。優しく、してくださいました?」
私はどう答えたら良いのか分からず、迷いながらしどろもどろに一つ一つの言葉を振り絞る。
「アイツが?嘘だろうそれは。脅迫されたなら無理にやつを庇う必要はありませんよ?お嬢さん」
対抗心からか急に態度を変える騎士に、私はどうしたものかとさらに頭を悩ませる。何か打開策になるかと見守っていたが、その状況に見かねた様子のレナード様が助け舟を出す。
「騎士殿、レディを困らせるのはそれくらいにして私と"農具"の話をしませんか?」
レナード様の言葉にアレンさんは眉をぴくりと動かす。
「ほほう。ふむ。そう言うことなら中に入りたまえ。あ、そのバカでかい剣は外に置いておきなさい」
私はピシャリと注意され、剣は玄関の外、広い庭の一角に放置される事となった。
私達は小さな客間に通され、向かい合って騎士と座る。
「いや。ずっと気になっていたんですよ。なぜ騎士殿があの剣を"農具"と呼んだのか」
レナード様はふふんと鼻を鳴らす。
「ユグドラの伝承ですね?」
騎士は唸る。
「やはり気がついてたか。では逆に、それ以上貴方に話すことはありませんね」
騎士は目を背ける。すかさずレナード様が口を挟んだ。
「それは貴方が騎士だから?」
アレンの顔がみるみると変わっていく。
そして我慢しきれないとばかりに笑いを吹き出した。そして咳払いをして息を整える。
「これは失礼!そこまで分かっているとは、聞きしに勝る慧眼ですなレナード卿。よろしい、全て申し上げましょう」
途端に快活になる騎士アレン。ニヤリとレナード様は笑う。
「ミーシャ、実は彼はいろいろ知っているのさ。その剣があの球体を割れた答えもそこにあるかもしれない」
私はぴょこりと立った猫耳をすます。アレンさんが?不思議顔をする私に語りかけるようにアレンは話を始めた。
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