第10話 vs レニエ荒地
「せいやぁ!」
刀を振り下ろすと勢いよく地面が爆ぜる。そこにあった切り株や、岩や、あらゆる邪魔なものを粉砕する。
「よし、良いぞミーシャ!このエリアはあと5箇所ほどだ!」
レナード様は自分で書いた整地図を見ながら私に指示をだす。
「はい!ぁぁ!でもなんでこんなこと!」
私は言われた通りに、荒れ果てた土地の瓦礫を粉砕していく。
「それはこっちのセリフだ!なんで俺がこんなことしてるんだ?!」
叫びながらもきっちり瓦礫屑を運ぶのはヴェリルさんだ。
「さすが元軍人!良い筋肉だな!」
レナード様が笑顔で褒め称える。
「元じゃねぇ!早く王都に戻りたいところなんだが?!」
レナード様は鼻で笑う。
「ほほう、ゆっくり一泊した癖によく言う」
そう言いながら意地の悪い顔をする。
「それに一宿一飯の恩というだろう!」
「一宿も一飯も、メイド長のくれたもんだろうが!」
尚も食い下がりながら眼鏡をかけ直す。
「なんでいきなり整地なんですか、レナード様ぁ〜!」
私はへとへとになりながら剣をつっかえ棒にする。と言っても私より遥かに大きい剣だ。寄りかかるというより、私がぶら下がっているのに近い。
「うむ。実は2、3日前にクエスト斡旋所で土木の依頼を見つけてな。これ幸いと受けてきていたのだ」
整地図をいくつかめくりながらさらに続ける。
「先日、宿屋のアドネの娘が高熱を出したんだ。しかしうちの領地には薬が足りなかった。結局朝方には熱はひいたが、もしこの道がちゃんと開通していればもっと楽をさせてやれた、と後悔が残ってね」
言いながら、道の先の丘を指差す。
「今度はあそこだ」
私は今度は大剣で地面を掘り返し、上からぺたんぺたんと剣の平面で叩いて平べったく、地面を固くしていく。
「流石の重量だ。これなら程なく道はできよう」
荒れ放題だったこの道は隣の領地カッサンドラとの道だった。お互いの領主は仲が良かったが、この道はどうにも木の自生するスピードが早くすぐ荒れてしまう。
しかも地面も岩混じりのゴツゴツした地形で、歩いて渡るならまだしもとても馬車など通れたものではなかったのだ。
「確かに、長い街道はキャラバンか行軍のために整備されるようなものだからな。小さい領地のこうした道はどんどん使えなくなる」
ヴェリルも観念したのか黙々と小さな瓦礫を脇に蹴飛ばす。
「そうさ」
レナード様は私を見た。
「ミーシャ、何も強敵を打ち倒すことや危険を犯すことだけが冒険家の仕事じゃない。こうして街と街を繋いで有名になった先人も沢山いる」
そうか。レナード様は私にそれを伝えたくて。私はギュッと剣を握る。この剣にも人を斬る以外に使い道がある。
「いや、違うな」
ヴェリルは冷たく言い切る。
「剣は障害を撃ち砕くためのものだ。お前がそれを手にしたのは何らかの意味がある。それを探さなきゃいけないんじゃないか?」
私は胸にぐさりと刃が刺さる。私の表情を見たレナード様もため息。
「その様子じゃ、ミーシャもそっちに賛成って感じかね」
そう言って苦笑する。
「そう、ですね。こうして人の温かみを繋いでいくのも良い。ですけど私はやはり何故か、危険に身をおきたいという本能があるようにも思うんです」
自分でも不思議なこの感情。とても彼らに理解してもらえるとは思えなかったが、意外にもレナード様とヴェリルさんは顔を見合わせて苦笑した。
「見ればわかる」
ヴェリルのセリフをレナード様が奪う。
「オメェ!意外に食えないやつじゃないか!」
ヴェリルさんは怒り、思わず私は吹き出してしまう。
不思議といつのまにか敵とも馴染んでしまう。そんな不思議なレナード様。
私は欲張りだから、冒険に行きたい気持ちと同じくらい、レナード様にずっとお仕えしたい気持ちが強い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます