第5話 vsナインライブズ(4/4)


私の斬撃は相手を一刀両断し、大量の血液とともに上半身を平原に転がした。ってそれまずいでしょ!


「ぎゃぁぁぁ!!ヤッてしまったあああ!!!」


私の叫びが終わるか終わらないかのうちに、光がアレンの身体を包む。なに?なに?!モザイク?!


私が考えるより早く、巻き戻しのように時間が戻り、アレンの身体はもとの状態を取り戻している。


汗を流しながら息も絶え絶えと言った様子の銀の鎧の騎士は言葉を振り絞る。


「り、リバイブ。この星5防具、『ナインライブズ』は1日に9回まで"死ぬことができる"っ!!」


とは言うもののすでにその瞳からは戦意が消え失せていた。


「星5防具すごいです!!!」


私は素直に感心が口から漏れる。特段の派手なスキルがないこの剣よりもかっこいいように思われたからだ。


「何を言っているこのチートめ!そんな、攻撃力とスピードとリーチを兼ね備えた剣の方が数段やばいだろ?!お前どんな筋肉してるんだ?!」


アレンは震える声で捲し立てながらも腰を抜かして地面に崩れ落ちる。


「勝負、私の勝ちで良いですよね!」


私は剣を構える。


「い、いや、この程度のことで根を上げるわけにはいかない!」


震える手で槍を支えに騎士は立ち上がる。なるほど、このアレンという男は彼なりに誇りを持って騎士という職務を全うしているのが見て取れた。


であれば私もそれをないがしろにするわけにはいかない。しかし私は思い直す。


「え〜と、この勝負一旦預けませんか?」


相手は頭の上にはてな顔をつくる。


「どういう事だ?」


私はポケットに入った懐中時計に目をやる。


「そろそろ10時です。ご主人様の朝食の時間です!」


私はわざと元気に声を上げる。これは私の都合。"貴方の意見は聞く気がありません"とでも言うかのように。


「貴方が騎士であるように、私はメイドなのです。しかもメイド長です!私の職務を全うさせてください」


私はペコリと頭を下げ、刀を肩に担いだ。そしてその場を去ろうとする。


「ま、待て!情けなど無用・・・」


彼の呼びかけに反射的に私は振り向く。これがいけなかった。肩に担いだ私の巨大剣はアレンの身体を上半身を断裂する。


「ぎゃぁぁぁぁ?!?!」


私の悲鳴と共に再び光が巻き起こりアレンが蘇る。酷く息が荒い。それは当然だ。死なないわけではなく、"死んでもリトライできる"だけなのだから。


「な、なにをするんだぁ?!生き返れるとは言ってもめちゃめちゃ痛いんだぞこれ?!」


アレンが両手をわなわなさせながら訴える。


「ごめんなさい!ヤッてしまってごめんなさい!」


私は全力で頭を地面に擦り付ける。アレンは死んだ魚の目で息を整える。それはまぁ、当たり前のリアクション。


「よ、よし、わかった」


彼は振り向いて私に背中を見せた。


「み、みなの物よく聞け!第7騎士団南部方面群アスカル地区統括部長 アレン・ラルバートが証明する。ここには"星6武器"などなかった!あったのは星6の農具だけだ。農具なら教典のどこにも記載がない。問題あるまい!」


アレンの叫びを王都の騎士たちは固唾を飲みながら聞き、バランシュタイン領の領民たちは歓喜を持って受け入れた。

「やったなレナード様のメイドちゃん!」

「騎士様もありがとうございます!」


彼は2、3歩歩き、振り向く。


「クリーガーの娘もここにはいなかった」

彼は短く告げると歩き出す。


「いえ、います」

私は静かに立ち上がる。

「父の娘はここにいる」

もう一度呟く私に彼は笑い、そして私に告げる。


「いずれ王都に来い。再戦してやる。その時は彼の話もしよう」


私は思わず剣を振り上げる。

「え?あれあれ?なんで上から目線なんです?もう一度死にます?」


しかし騎士を兵士たちが取り囲む。


「バランシュタインのメイド長、どうか堪えてください!」


彼らの真剣な表情に私は刀を収める。大丈夫、気がつかれていない。私の手の中は本当は震えてる。


「わかりました。今日のところはお帰りください。あと王都に戻ったら"バランシュタイン家のメイド長は可愛くてすごい"と言いふらすように」


後半は私の口が勝手に付け加える。騎士たちがアレンに肩を貸しながら引いていく。


「お前たち、騎士が命乞いをするなど」

アレンの小言が聞こえる。

「しかし礼を言わねばならんようだ」

後で付け加えられるのが聞こえる。


騎士が引いた後に残ったのは血痕だらけの決闘の丘と、私と旦那様。全てが終わった後、やっぱり私は力が抜けて座り込む。


「や、やりました?私?」

「すごいぜ!やっぱりお前はヤルやつだな!」


レナード様の満面の笑みに私は釣られて笑ってしまう。ご主人様もきっとお腹がぺこぺこ。急いで準備をしなければ。


私は右手に残った震えを握りしめて、いなそうとする。嫌だなぁ。人を斬るってとてつもなく気持ちが悪いんだ。私はギュッと両手を握りしめた。

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