第4話 vsナインライブズ(3/4)

「鎧すら着ないとは舐められたものだ」


銀の鎧の騎士は全身の鎧を輝かせる。だがたぶん、私があんな鎧を着込んだところで重くて全く動けないだけだ。


そんな私は赤茶のメイド服。白いフリルがフリフリ。胸には白い可愛いリボン。栗色のツインテールの上にはネコミミがぴょこりと顔を出す。


そう、これこそバランシュタインが誇るメイド長の服!バランシュタインのメイドはレベルが高いとは、実は諸侯の間でも有名な話。私はそのメイド長なのだ。恥を晒すわけにはいかない。


私は銀の鎧の騎士と正対する。


「ではいざ尋常に、勝負」


まさかこんな台詞を自分が言われるようになろうとは。私は身震いする。


「名乗っておこう。第7騎士団南部方面群アスカル地区統括部長 アレン・ラルバートだ」


私は相手の堂々たる物言いに怖気付く。それは本物の騎士だ。修羅場をくぐってきたのだろう。負けじと少しでも虚勢をはるべく、剣を天にかざして私も名乗った。


「わ、私はバランシュタインのメイド長にして、クリーガー・ベルベットの娘ミーシャ・ベルベット!猫族!13歳!メス!」


言うと剣を小脇に構える。途端にザワザワと王都の兵士がざわめきだった。


「クリーガー?クリーガーと言ったか?」「あの伝説の囚人クリーガー・ベルベット?」「レイ・アトラスに収容されているあの?」


ざわめきの中、わなわなと震えていたアレンが叫ぶ。


「貴様、ベルベットだとぉ?!」


私は動揺する。とりあえず心を落ち着けるために旦那様とレナード様の方を向く。


「あれ?私ナニカしちゃいました?」


そろって首をぶんぶん横に振る旦那様とレナード様。


「してないしてない」

「気のせい気のせい」


口々に私に声をかける。心なしか、旦那様が私と目を合わせてくれない。


「ベルベットというなら許してはおけん」


アレンは槍を構えるとその面当てがカシャりと落ちる。


「参るぞ!」


怒りをあらわにしながらも一応決闘の体裁は崩さずにこちらににじりよる。流石に飛び込んできたりはしない。私はというと相変わらずの腰ダメの包丁のように大刀を構え、少しづつ距離を積める。相手もピクリと距離を取った。


「なんなのだその構えは、見たこともない不気味さ」


銀の兜がアレンの声にさらに冷徹な色を持たせる。

「は!」


アレンは掛け声とともに槍を突き出す。


「きゃわあわあ!」


私は我ながら大袈裟に悲鳴を上げながら駆け出す。この場から逃げ出してしまいたい。流石に本物の騎士の槍の動きは速い。あんなのに貫かれたら死んでしまう!


脳裏で再生されるのはマリスン女史の優しい声。“荒ごとはメイドの仕事ではないのよ"そうだ。メイドなら逃げてもいいのかもしれない。


でも私は、私は。歯を食いしばる。


「私は冒険家だ!」


そう言いながらなお走り回る。


「逃げてるねー」

旦那様が髭を撫でている。


「がんばれー!ミーシャー!」

楽しそうにレナード様が歓声をあげる。


「バカな、その大剣を持ってそんなに高速で動けるのか?!」


驚愕しながらもアレンは私を追いかける。心なしかアレンにも最初のキレがなくなってきた。ああ、そうか。よく考えたら。


気がついた私はわざと大回りをして走り出す。私の方がわずかに速い。


そう、よく考えたら騎士様といえどあの重さの鎧を着て、そう長いこと全力で走れるはずがない。


対する私は軽く動きやすいミニスカートのメイド服。武器の重量は団扇と同じ。そしてそして。


私はちらりとレナード様を見る。そう言えば昨日お夕食の時にレナード様が言っていたような。"ドラゴンのお肉は24時間は体力にボーナスがつくんだよ"って。これはこれは。


私はさらに速度をあげる。この決闘の丘を一回りして足の回転を早める。


風が丘を吹き抜けて頬を撫で、気持ちがいい。


草原すれすれにカーブをすると、私の剣が地面を撫でて優しく草が舞い散る。


「でりゃぁぁ!」


私は疲労で緩んだそのアレンの歩みに一撃を加えるべく、例のドスの構えで突進する。


アレンは槍を突き出す。しかしそんなものはこの刀に比べると軽いもの。私は簡単にそれを弾き飛ばす。アレンは驚愕の声を上げる。


「重すぎる!?」


槍で弾けない。アレンは咄嗟の判断で体をよじると私の視界の外に逃げていく。敵ながら上手い身のこなし。


「ところで、なんであんな持ち方なんかなあ」

旦那様が漏らしているのが聞こえる。


「きっと、刃物といえば包丁しか持った事ないのでしょう」

マリスン女史が後ろでささやく。


それを聞いたレナード様が不思議そうな顔を崩して手を叩く。


「あーなるほどね」


すると私に向かって大声で叫んだ。


「ミーシャ!布団叩きだと思って叩いちゃえ〜!」


私はピンときた。なるほどなるほど。確かにこの重量感、全く両手で持つ必要なし。


私は左手を離して右手に軽く持ち直す。

さらに手首にスナップを欠かせて。


ヒュン、ヒュン、と風を切る素振り。


私は悠然と歩きながら手首を慣らしていく。ああ、この感じ。すごいしっくりきた。なるほどこれか。


肩から力を入れるとブォン!ブォン!という物凄い風切り音があたりにこだまする。


「?!?!」


明らかに動揺しているのはアレンだ。


「ちょ、ちょっとまってくれ!そんなのは聞いていないぞ?なんだそのヘッドスピードは?!!」


さぁて、ひと仕事。私は頭に真っ白な布団を思い描きながら、思い切り腰の回転をきかせて私の剣を振り抜いた。


「埃がたっくさん、でますように〜!」


ズガァァァン!


とてつもない音が辺りにこだまする。

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