第3話 vs ナインライブズ(2/4)
バランシュタイン公は大きな声を上げた。
「だいたいお前たちはいつもそうだー!ワシが野山で拾った帝国の飛空挺も持っていってしまうし〜!」
旦那様、それは仕方ないかと。
「あと、貴重な巨大マタンガを採ったときも、防疫の観点からとか言って没収されたぞい!」
旦那様、それも仕方ないかと。
「だがな、キノコや船ならまだいい。この子の剣は若者の希望だぞ?それを奪って騎士団がなにぞする」
反抗的な態度を貫くバランシュタイン公にザワザワと王都の兵士がざわつき始めた。
「お、おい、あの領主全く勝ち目がないのになんであんなに自信満々なんだ?」「普通に王都にたてつくってヤバくないか?」
狼狽が見える。
なるほど、王都兵といえば聞こえはいいが、王都が攻められることの無いこのご時勢では安定の公務員人気NO.1という噂は本当であったらしい。
「それなら、やはり決闘しかないね!」
私と、相手の騎士は同時にその声の主を見る。レナード様だ!自信満々にドヤ顔で腕を組んでいる。自分が戦うわけでもないのに。
「騎士なら断らないでしょ?決闘」
相手の騎士はカブトの面当てを上げる。さらりとした金の長髪が流れ出す。ヤバイこれかなりのイケメンだ。
「私は構わないが、無論言い出したからには諸君らが負ければこの領地ごと私がいただく」
「良いよ」
レナード様は即答する。いやいやいや、私めちゃくちゃど素人なんですけど。そんなに信じていただいても!
「では戦いの準備をせよ。鎧を着る時間くらい、待ってやる」
旦那様が私の目を見て少し屈み、私の肩を叩く。
「よし、ミーシャよく聞くのだ。この決闘に勝てばお前をメイド長にしよう」
「え、私がですか?!」
突然の待遇改善に私は目を輝かせる。
「というか、今からお前はメイド長だ。明日もメイド長でいたければ、勝って生き残る事。どうだ?」
私は大きくうなずく。メイド長にもなれば月に3万2千ニーカのお手当がつく!
「はい!がんばります!」
私は意気揚々とガッツポーズを作った。
「ミーシャ、こちらに」
旦那様に促され、私は他のメイドたちと一緒に屋敷に一回戻ることになった。騎士団と相対するに相応しい鎧でもあるのだろうか。私が思案していると、そこでマリスン女史が私の新しい服を出してくれる。
「こういう事もあろうかと旦那様がご用意していたのです」
どういう事態を想定していたの?!私はびっくりしたが。新しい服を着てみてさらに驚いた。
「メ、メイド服ですね」
「はい。メイド服です」
いつものメイド服より少し赤みがかった上質な生地。それでいて軽い。フリルは3割マシと言ったところだ。
マリスン女史はお母さんが子供にするように私に丁寧に胸のリボンを付けてくれる。
「私は本当は貴方には、きちんとお世話を覚えてメイド長になって欲しかったわ」
ほろりとこぼす。私は返す言葉もない。そして彼女は私に鏡を見せる。可愛い服だ。
ウチの旦那様のメイド好きも相当なもの。皆を娘のように可愛がってくれる。マリスン女史は私を軽く抱きしめる。わずかに震えが伝わる。姉のように、母のように接してくれた厳しい私のメイド長。
「荒ごとなど本当はメイドの仕事ではないのよ」
「わかっています、冒険家の仕事です」
私は譲らずに応える。
「でも、ありがとうございます、メイド長」
笑顔を作る。私だって本当は怖い。外からわぁわぁと声が聞こえてくる。
「前を向いて。今は貴方が、メイド長なのだから」
私はその声に、凛と顔を上げた。
私たちが外の騒ぎは何かと窓を開けると、領民たちがよってたかって剣を持ち上げようとがんばっていた。先導していたのはもちろんレナード様だ。
「あ、ミーシャ!みんなで剣を運んであげようと思ってね!でもこれマジでヤバイくらい重いね」
実際びくともしていない。
私は笑いながらヒョイと片手で剣を持ち上げる。
「もう、レナード様ったら。ここは私に任せておいて!」
私は騎士の待つ決闘の丘へと歩みを進める。
「メイド長の、名前にかけてね」
私は震える手を握りしめ、1人呟く。
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