第2話 vs ナインライブズ(1/4)

カーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。鳥がちゅんちゅんと鳴いている。気持ちの良い朝だ。私は窓から外の景色を眺める。うーん。その景色を見て私は頭をかかえる。中庭には巨大な剣がドーンとそのまま置いてある。振り向くと私の部屋・・・もとい、下っ端メイドの仮眠室は天井と床に激しい損傷が見受けられる。あの剣はどうにか部屋に入れたかったのだが、どうしてもこの狭い部屋には入りきらずレナード様の「耐久度が減らないなら中庭に置いておけば良いんじゃ無い?錆びない訳だし!」との名案(?)によりそのまま中庭に放置されることになったのだ。私は昨日の事を思い出す。なんやかんやでドラゴン退治をやらかしてしまった私は結局あの後門をくぐろうとしては門を破壊し、ドアをくぐろうとしてはドアを破壊し、こっぴどくメイド長に怒られてしまった。旦那様は笑っていたが。このままではこの屋敷に居場所が無くなってしまう。いや、いやいやいや、それで良いんじゃん!私は本来の目標を思い出した。私はこの屋敷を飛び出して広い外の世界に旅立たなければ!思うが早いかインクとペンを手に取り退職願いをしたためると、ご主人様にそれを叩きつけた。朝の剣の稽古をつけていた旦那様とレナード様は目を丸くする。「ミーシャ!どうしたと言うんだ。何か待遇に不満があるなら教えてくれないか?」珍しく理知的な応えをする旦那様に私も気がとられてしまう。いつもは変なことしか言わない癖に!「その、私もこの屋敷がとても好きなのですが、どうしても父ゆずりの冒険家の血が騒いでしまい」もじもじとマトモな言い訳をしてしまう。レナード様がそこに口を挟む。「ならなれば良いじゃないか」え?と私は頭にハテナを浮かべる。「そうだなミーシャ。夢は追いかけるべきだ。よろしい、私が君のパトロンになろう」私はあまりの事に喜びが顔から溢れ出る。冒険家にとってパトロンを得ることは最初の難関と言われていたからだ。貴族のパトロンを得られれば、各地で得られた財宝や冒険の内容をまとめた書籍を書くだけで後ろ盾になってもらえる。手当てや装備品支給などの待遇も相当な改善が見込める。「あ、ありがとうございます!旦那様!」「ははは。よし、でもアレだ。私は君を気に入っているから、"冒険業務は通常業務に含まれる"と言うことでひとつよろしく」ニコリと笑い旦那様は真顔に戻りわざとらしい無表情で剣を振る作業にもどる。は?へ?「えぇぇ〜?!嘘でしょメイドってけっこー忙しいんですよ?!その合間に?!」私はまくし立てる。旦那様は目を合わさない「だってーだってーうちのメイドさん1人も減らせないんだもーん!ミーシャは可愛い猫族だし〜どこかで野垂れ死んじゃったらやだよー!」「だもんじゃないですよ口髭はやしたおじさんが〜!」私たちはお互いの髪だかヒゲだかを引っ張り合いながら激しく罵り合う。「まぁまぁ。今でもたまに街におつかいに出してはいるし、その延長で酒場のクエストを受けてもらおうよ」レナード様がニコニコしながら応える。妥協点としては有りの方向だ。でも、私の冒険は?広い世界は〜?!「それに」レナード様は屋敷の一角を指差す。粉砕された倉庫。メイド仮眠室。「これの修理分を働いて貰わないとうちからは出せないかも」そう言ってまた親子揃って大笑いをする。そうだったー!それを言われるとツライ。「わ、わかりました。不詳、私、メイド下っ端のミーシャ・ベルベット13歳!メイド兼冒険家と言うことでお支えいたします!」それでいい!と2人は私の肩をバンバンと叩く。くぅ〜!しかしいつかは出て行ってやる〜!私は複雑な表情をする。ここも好きだけど、私はまだ見たことない山や谷や海を見てみたいんだー!私が野望を新たにしたその時だった。見張りの衛兵が屋敷に駆け込んでくる。「領主殿!大変です!王都から兵が!」「なにぃ!」白目を剥く旦那様。震えるその額に汗がダラダラと流れる。「何がバレたんだ」ナニをしてるんですかー!?私は叫びたいのを必死に堪える。「それが、星6の剣を持つ少女を出せと申しておりまして」私だったーっ?!今度は私が汗を流す番だ。「ワシじゃなかったー!」歓喜の声を上げる旦那様。レナードがむむっと険しい顔になる。「なに?僕の剣に何か用なの?」いやいや、アレ私の剣ですけど。などと口論しながらも私たちは連れ立って西の平原に向かっていく。すると意外な事にそこにいたのはかなりの大部隊。騎馬も見える。それらを迎えるわけではないが領内からもかなりの人が押し寄せていた。騎士の最先鋒、指揮をとっているとみられる銀の鎧の男性がこちらに歩み寄ってくる。「この中に、星6武器を召喚したものがあるとの情報が入った!」非常に厳しい口調だ。「マルシール教で認可された装備は星5までだ!星6は存在しないはずのレアリティ!故に悪魔の数字だ!武器は我々が接収し、王都で調査を行う!大人しく武器を差し出せ!」騒然とする領民たち。みな昨日のドラゴン騒ぎを当然知っているはずだが、しかし誰も私を突き出そうとはしない。この領民たちは皆んな温かい心を持っているのだ。「その武器の持ち主はこやつだ!」が、声を上げたのは旦那様であった。マジか。「バランシュタイン公!」「あの親父、やりやがった」周りも唖然とする。しかしニヤリと笑うと旦那様は大声を再びあげる。「だがやらん。こやつはウチのメイドなんでな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る