星6武器を引いたらメイドの仕事がひとつ増えた剣

七四季ナコ

第1話 vs ドラゴン

「やぁ、ミーシャ大きな荷物だね。どこに行くの?」


レナード様に声をかけられて私はあたふたする。よりにもよってレナード様に見つかるとは!


私は手の大仰な紙袋を慌てて隠そうとするが、大きすぎてどこにも隠れない。せめてその袋の口を固く閉じる。


「れ、れなぉどさまっ!これは決して怪しいものでは!」


私の慌てふためきように、屋敷の若き御曹司は大袈裟に笑う。


「あはは、なんだよそれ。まさか爆弾が入っているわけじゃないんだろう?」


そういうと、もう興味がないとばかりに走り出した。


「それよりヤバいぞ、ドラゴンの子が出たらしい。これは久しぶりの大捕物だな。うちの領地で仕留められたら竜の肉食い放題だ!」

「はぁ、ドラゴンのお肉ですか。私あれ固くて好きじゃないんですよね」


ゲンナリする私の顔を尻目に御曹司は走り去っていく。なるほど、それで屋敷はわりと静からしい。怖いメイド長のマリスン女史も、いつも騒がしい旦那様も野次馬に出ていると言うわけだ。


おおよそ東の物見台であろう。私はチャンスとばかりに倉庫に忍び込む。何も中のものを盗もうと言うわけではない。人目につかずに事を終えたいだけだ。


倉庫はドアを閉めると真っ暗だった。私はマッチを擦って蝋燭に火を灯す。倒さないように気をつけないと。屋敷を焼いたとなれば時給750ニーカの私では一生返すことなど不可能であろう。


私は蝋燭から少し離れた一角の荷物を退けて軽く広がりを作ると、大仰な荷物を開封した。


中から出てきたのは金色のスクロール。これは高かった。マジで高かった。これを買おうと決めた7年前から貯金に貯金を重ね、おやつもレナード様に10ニーカで譲ってそのくらいこまめに貯めてきたもの。13歳の私の人生の7/13が込められていると言っても過言ではない。


私はその金のスクロールを大事に地面に広げる。これは武器の召喚スクロール。しかも、しかもだ。星3以上の武器しか出ないヤツだ。


うひょーテンションあがるー!


私は叫びたいのをグッと堪える。


冒険家だった私の父が亡くなり、旧友であるバランシュタイン公の屋敷にメイドとして引き取られて早7年。


下働きばかりしてきた私だが!武器さえあれば冒険に行ける。父の跡を継げる。私だって、広い世界に飛び出せるはずなんだから!


私は意気も揚々と付属の豆本を開き、セットアップをしていく。


まずは内容物の確認。スクロール本体と魔石が5個。袋入りの小さな宝石粉末が17ガラム。


「これ、くしゃみすると飛びそう。」


私は呟きながらそれらを豆本に書かれた通りに慎重にスクロールの上に並べていく。そして最後は呪文の詠唱だ。


「死焔なるもの闇の彼方の門、防人狭間より来たりて汝を迎えるであろう」


私の詠唱に反応して宝石が光りだす。

私はゴクリと唾を飲む。


やったー!高かっただけあってマジもんだこれ!私は下の句の詠唱に入る。


「漆黒の牙が汝を扉へと誘う!神具化ッ(ゴーディアス・ゼアーテッ)!」


スクロールが光に包まれ、粒子となって消えていく。そして目の前に現れたのは一振りの大剣。いやなんだろうこれは。鉄板?看板?


「大きすぎないかこれ?」


私は取手をつかむ。

恐ろしく軽い。

どのくらい軽いかと言うと、

夏に使う団扇より軽いくらいだ。


「大丈夫かコレ?」


私はそれを持って立ち上がる。と、その瞬間、外から恐ろしい獣の鳴き声が聞こえてきた。


まさか本当にドラゴン?!

私は驚いて振り向く。

と、これがいけなかった。


団扇ほどの重さのその刀は私がくるりと振り向くと、触れたもの全てを破壊し、蹂躙し尽くし、倉庫の壁を全壊させる。


「えーなんだこれー?!」


訳がわからず吹き飛ぶ瓦礫に、さすがに変顔になるしかない。


壁が壊れると事態は最悪であった。


まずドラゴン。

うん、これは予想できた。


次に民衆。

いや、なんで?


次にレナード様。

あ、だいたい分かった。


レナード様がドラゴンを屋敷の中まで追い込んだのであろう。そして私はそんな最中、倉庫の壁を打ち破って登場してしまったと言うわけだ。


「ミ、ミーシャ!」


私がびっくりしたのはその声の出どころであった。ドラゴンの顎の下。まさに食われようとして必死にもがくのは旦那様ではないか。これは事案だ。


「すごい、あのメイド、旦那様の危機に恐れもせず駆けつけたぞ」「しかも恐ろしいほどの威力の魔法が使えるのではないか?」「救世主だ!」「これは旦那様も助かったな!」


好き勝手に民衆が騒ぎ立てる。


「ミーシャ!」


レナード様も寄ってきた。

あまり話をややこしくしないでほしい。


「すごいぞミーシャ!僕は君は絶対何かヤるヤツだと思ってたんだ!大したヤツだなほんと!」


いやいや、まだ何もしてないから!


しかしここまできては私も何もしないで引き下がるわけにはいかない。相手はドラゴンでも下にいるのはご主人様だ。そして私はメイド!


例えこれから退職届を提出する予定の身でも、それならやることは一つしかあるまい。


私はメイド服の埃を払い、やたらに軽い大剣を構え直す。栗色の髪のツインテールに猫耳がぴよこりと動く。


「わ、私はミーシャ!ネコ族!メス!13歳!ドラゴンさん、覚悟しなさいよー!」


見栄を切ると猛然と斬りかかる。とは言っても剣術など見たこともやったことも無いこの身。私はとりあえず包丁を使うときのように自分の腹の前に両手で刀を構える。


「な、なんだあの構えは?」「私見たことあるわ、あれよ、ドスという東洋の武器よ」


周囲の民主がざわつく。私はジリジリとドラゴンに近づくがドラゴンも異様な雰囲気を察してか近づいてこない。


「がんばれー!ミーシャー!」


レナード様の応援する声がやたらに大きく響く。いや、ちょっと空気を読んでほしい。これ誰か死んでもおかしくない感じだよ?


「れ、れなーどさまー!せめてこいつ倒したら、給料あげてくださいね〜!」


レナードは途端に真剣な顔になる。


「それは無理だな」

「なんで?!」


私は思わずドラゴンから目を逸らし若き御曹司の方を見てしまった。その瞬間だ。ドラゴンがこちらに覆いかぶさるように一気に距離を積める。


「ミーシャ後ろ!」

「ぎゃぁぁ!!」


私は思わずそちらを一瞬で振り向く。

それがいけなかった。

私の何気ない回転が

刀越しにドラゴンに伝わり、

その上半身を吹き飛ばす。


「え〜?!」


訳もわからず自分の主人の庭を血みどろまみれにしてしまった衝撃に私は動けない。


「ヤ、ヤってしまった」


ため息どころではない。

全身で震えながら、私は今更ながらその剣のステータスを確認する事にした。


レアリティ星6ですって?!

名前が『????』バグじゃないのこれ。


スキルが『所持するものにとって重量無効』と『耐久度♾』??なにそれ。めちゃくちゃ地味では。


と思ったが私は振り返って思い返す。血みどろの景色。粉砕された倉庫。うん。地味じゃないねこれ。

かくして、私の冒険が始まる!のか?!

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