第51話 ささやかな贅沢
土曜日の昼。
休日のシェアハウスは
休日を好きな人とだらだら過ごしたいと思うのは、それなりに慣れたカップルの証明だ。
結局、自宅デートが1番楽しい。
気を使わなくていい楽なメンバーと過ごす休日は最高に贅沢な時間だと最近知った。
5人でバラエティ番組でも眺めて存分に羽を伸ばしたい。隣になってお昼寝とかしたい。そんな妄想をしている時間すら幸せだ。
しかし、玄関の呼び鈴は一向に鳴る気配がない。
昼食も風流くんが来てもいいように少し多めに作ってしまった。
「一応、声かけてみよっか」
私の言葉に3人とも頷いた。
シェアハウスの玄関を出てすぐ右を向けば風流くんの住むアパートがある。
しかも風流くんの部屋は一階の1番シェアハウス側という好立地であり、歩いて20秒もかからない。
私たちは玄関を出ると反射的に右を向いてアパートの方をチラ見する癖がある。
もしかしたら見えないかな。なんて期待をしながら視線を動かし、その期待を裏切られることがほとんどなのだが……
今日は視界に彼が入ってきた。
中学生が通学に使いそうなカゴ付き自転車を置いて、ちょうど帰宅してきたようだ。
「風流くーん!」
慌てて駆け出して、彼の元に急ぐ。
風流くんは突然の呼び止めに少し驚いた様子を見せて振り向いた。
「
「ちょうど風流くんの顔が見たいなぁって思ってね」
「会いに来たわけですよ」
私の言葉に追いついた
「そ、そうなのか? 毎度の事ながらそれは嬉しいな……よく、そんな言葉を言えるよな、恥ずかしい」
「気持ちは伝えないと後悔するからね。秘めているだけじゃダメだよ?」
「……頑張ってみるよ」
「うん。待ってるからね」
「……ああ」
風流くんは直接的な愛情表現に免疫がない。頬をほんのり赤らめてくれる。
わざと過ぎると軽くあしらわれるが、普通の会話をするような感覚で伝えると恥じらってくれる。
この反応だけで今日は満足して眠れそうだ。
愛を伝えて、それを肯定も否定もせずに受け止めてくれる。そんな幸せなやりとりに本来の目的を忘れそうになる。
照れる風流くんに私たちは4人は見惚れて動けなくなる。
間が変になって、ようやく本題を思い出せた。
「そ、そうだ! 風流くんさ、お昼ご飯ってもう食べた?」
「昼か? 昼なら今ちょうど買ってきたところだな」
「「へ?」」
風流くんがマイバックの中を見せる。
全国どこにでも店がある弁当チェーン店、ホット○ットのカツ丼が入っていた。
すると風流くんは上機嫌に話し出す。
「実は今日、少し贅沢をしてホット○ットに手を出したんだがな。なんとカツ丼100円引きセールをやってたからな、追加でスーパーのシュークリームも買っちゃったんだよ」
心の底から嬉しそうな顔をして見せてくれたシュークリームには、おつとめ品のシールが貼られていた。
70円+税になっている。
贅沢がささやかすぎるが、風流くんはニコニコだ。
「あ、もしかして昼ご飯、俺の分も作ってくれたとか?」
心配そうなこの言葉に私は我に帰る。
「いやいや、そうじゃなくて、もしお昼をシェアハウスで食べるなら作ってあげるよって言いに来たんだよ」
「そ、そうか。気を使わせて悪いな」
「全然いいよ。それじゃあ後でね」
「ああ。これ食べ終わったらお邪魔させてもらうから」
そう言って風流くんはアパートの一室に帰っていった。
***
「風流くんにお腹いっぱいご飯を食べさせてあげたい!」
シェアハウスに帰って、ずっと叫びたかったことを口に出した。
コンビニバイトで生計を立てている風流くんは毎日が節約生活だ。シェアハウスに来ればご飯もお風呂用意してあげるのだが、支援を受けるのが申し訳ないと思っている節がある。
こちらとしては支援をしてあげたいばかりなのだが、それをなかなか理解してくれない。
名前も知らない人間をタダで支援するボランティアとは話が違う。これは好きな人の力になりたいと思う一般的な思考、対価は君の笑顔だ。
「今日どこか夕飯に連れて行ってあげようよ」
昼食の話題はそれで持ちきりになった。
「何がいいですかね。男性ですし焼肉が無難なのでは?」
「別に焼肉なら……
「カニとかどうかな? 行ったことないような高級料理を食べさせてあげたいな」
「でも風流さんカニ好きですかね」
「それは自信ないなぁ。カニは好み別れるとこだし」
「もう直接どこに行きたいか聞いた方がいい……確実……」
***
「というわけで今夜外食に行くんだけどさ、風流くんはどこがいい?」
「サ○ゼがいいな」
予想より遥かに庶民的な名前が出た。
「サイ○はちょっと……もうちょっと高級なとこ行こうよ」
「なら餃子の王しょ……」
「それグレードアップしてる?」
「してるだろ」
結局、サ○ゼになった。
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