第8話 好き透け問題

 昨日のれいとの買い物デートから1日、今日も家には宿主たちが居るため、俺の共用部屋の掃除はお休みだ。

 2日も掃除をサボっては明日が怖いが、今日こそ自室でじめじめ爬虫類生活を送るのだ。

 俺は湿って暗いところが大好きな亀なのである。


 そんなことを思って布団に全身を隠していると、湿地を埋め立てるダンプカーの様な女がやってきた。

 もちろん嶺のことだ。


風流ふうりゅうくん!」


「来たな、爬虫類の生息地を脅かす人類め」


「君もその一員じゃない」


「そんで、今日の用件はなんだ。また買い物とかは嫌だぞ」


「今日は天気がいいからリビングで一緒に日向ぼっこをしましょう」


「断ったら?」


「特に何もないけど」

「嶺が死ぬ?」

「じゃあ死ぬ」

「それは、受けるしかないじゃないか」


 嶺は寂しいと謎の怪現象が起きて即死する生き物だ。

 勝手に死んどけ、そう言って布団を被り直す。そんな考えが脳裏をよぎるが、大泣きされそうだからやめた。


 無理やり感が否めないが、一応俺を養ってくれているわけで、嶺への尊敬と感謝はある。

 養われている側として、少しくらい愛玩動物になりさがってやろうじゃないか。


「仕方なくだからな」

「素直じゃないなぁ」


 私服に着替えてリビングへと階段を降りると、悲惨な光景が目に飛び込んでくる。

 俺が整頓をしていないリビングはぐちゃぐちゃに汚されていた。何をすれば1日で散らかせるのか監視カメラで確認したいくらいだ。

明日のことを思うと気が滅入る。

 しかし、日向ぼっこの舞台となる窓際だけは嶺が慌てて掃除をしたのか、物が散らかっておらず、別の部屋のような空間になっていた。


 あるのは一枚の床に敷かれたシーツのみ。

 そこに身を委ねるようにしてうつ伏せに倒れると、程よい暖かさが体全体を包んだ。


 冷房の効いた部屋で暖かな日光を浴びる。

 風邪をひき熱が出た日のような、ぼんやりとした懐かしい暖かさが思考を奪っていく。


「すごく……いい……」

「でしょ?」


「頭が回らなくなる……」

「そう、その感覚がいいんだよ。嫌なこと全部忘れて、無心になれる、オススメの休日の過ごし方なんだ」


「まぁ……亀も日向ぼっこするしな……」

「なかなかの頻度で爬虫類を例に出すけど、何なの……よっと」


 嶺もシーツにうつ伏せになって倒れる。


「はわぁぁぁ……幸せ……」

「幸せそうな顔してる」

「そうでしょ」


 嶺がこっちを見てくる。

 ゆるみきった彼女と目が合う。

 相変わらず整った顔立ちをしている。俺なんかをヒモ男にしなければ、今頃は一流の男と付き合えているだろうに。


 俺は嶺に対して好意を持つことが出来ない。

 正確には、持とうとしても申し訳なさが勝つからだ。

 だというのに……


「嶺はさ」

「ん? 何?」

「本当に俺のこと好きなんだな」


「んなっ!? ……そりゃ……好きじゃないと……養ったりしないし……」


「ならなんで俺を1回も指名してくれなかったんだよ」


「へ?」


「嶺くらいの常連客が俺のこと毎回指名してくくれば、ホストクラブをクビにならなかったのにさ」


「あー、いや、だって……好きバレするの恥ずかしいじゃない」


「ホストクラブでなんで好き透け警戒してんだ」

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